W/X/Y【オリジナルSS】

W/X/Y

空腹で目が覚めた。スマホを手に取るけど充電をし忘れて電源がつかない。視線を横に送ると、隣で枕を抱えながら彼女はまだすやすやと眠っている。その姿にちょっとニヤけてしまうのはやめられない。起こさないようにソッとベッドを抜け出し、キッチンに向かう。時計は10時半を回ったところを指していた。

昨日彼女が満面の笑みで「やっと買えた」って喜んでいた食パンがまだあるので、それを使うことにする。卵を割り、牛乳を加えて箸で溶きなごら混ぜていく。作り置きのトマトスープがあるのを思い出して、冷蔵庫から取り出し、鍋ごと火にかけていると、まだ寝ぼけたままの彼女が起きてきた。寝癖で跳ねた前髪が愛おしい。

「おはよ。お腹すいてない?フレンチトースト食べる?」

彼女は俺に後ろから抱きつき喜んだ。

付き合って2年、一緒に暮らして半年。ちょっと怒りっぽいけど、素直でくるくる表情を変える彼女は見ていて面白い。口下手な僕に対して、彼女は思ったことをぽんぽん口に出していくのがなんだか楽だった。付き合うときは、なかなか言い出せない僕を待ってくれて、僕に「付き合ってください」を言わせてくれた。「そう言われるの待ってたよ」って満面の笑みで応えてくれた。

美味しそうにフレンチトーストを頬張り、今日はこんな夢を見たよと話す彼女と過ごすこの時間は、僕にとってかけがえのないものとすら思える。
食べ終わりのんびりとした空気が流れる。僕も彼女も明日まで休みだから、夜はお酒を飲もうかなんて提案すると彼女は大喜びしてくれた。それから僕たちは2人で片付けをして、またちょっと昼寝をして、シャワー代わりに近くのスーパー銭湯に行くことにした。彼女を待たせたくないから、僕は少し早めに出てロビーへ行くと、同じことを考えていた彼女が先に待っていた。そんなことですら、僕たちは顔を見合わせ、「おんなじだね」って笑えてしまう。そういう時間が何より大切だった。

僕はきっと彼女がいないとだめで、彼女も同じように思っていると思う。いや、思っていないかも知れないけど、僕はこれからも彼女の未来に一緒にいたいなと心から願っている。正反対なのに似た者同士の僕たちは、手を繋いで過ごしていく。

End.


【後書き】
Tani Yuukiさんの「W/X/Y」を聴いて書きました。
好きな曲です。良ければ。


朗読、声劇などお好きにお使いください。


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