三文小説【オリジナルSS】

三文小説



「2021年2月19日金曜日に撮っています。驚いた?びっくりしてる?初七日終わったら、お姉ちゃんからヒロキにこの動画送るようにお願いしました。メイクもね、あ、ウィッグも、お姉ちゃんがやってくれました。おかしくないかな?出会った頃はこのくらいの髪の長さだったよね。懐かしいなって思ってます。えっと、ヒロキに伝えたいことがあってこうやって動画を撮っています。・・・今ヒロキはどんな表情してるのか、もしかしたら泣いてるのかも知れない、そう思ったらね、今ヒロキの隣にいれないことが、すごく、つらいです。ごめんね?本当なら、私のことは早く忘れて切り替えてほしい、って気持ちもあるんだけど、忘れてほしくないっていう私のわがままもあって。ヒロキとの5年間はね、私の人生でとっても大事な時間でした。私が病気になっちゃって、ヒロキにはたくさんたくさん心配もかけたし、気も使わせたし、それでも『結婚しよう、家族になろう』って言ってくれたことは本当に嬉しかった。・・・それに応えられなかったのは、前にも言ったけど、ヒロキを縛りたくない一心だったんだよね。・・・本当は、結婚したかったよ?でも、私はもうあと何ヶ月しか一緒にいられないことが決まってて、それが悔しくて・・・それなのにヒロキに一生のことを決めてほしくなくて、だってさ、死んじゃったあと未練残しちゃいそうじゃん?ヒロキと一緒に年取っていきたかった、おじいちゃんおばあちゃんになってさ、『随分老けたね』って笑い合いたかった。ヒロキのくだらない冗談でたくさん笑いたかった・・・小説家になる夢を叶えるところを、近くで見ていたかった。・・・治療が始まって、私が落ち込んでひどかったとき、ヒロキ言ったよね。『俺は病気が憎い、君の笑顔を奪った病気が憎くて仕方ない』って。私が元気じゃないとさ、それがヒロキにも移っちゃうんだって思ったら、笑顔でいなきゃ!病気も治すぞー!って、強く思えたよ。・・・結局勝つことは出来なかったけど、前向きに治療受けられるようになったのは、ヒロキが私の病気を自分のことのように、苦しみとか、悔しさを分け合ってくれたから。本当にありがとう。大事な5年間も、感謝してます。・・・こうやって動画越しにしか伝えられなくて、つらい。だめだね、私がなにを言いたいかっていうと、ヒロキへの感謝と、これからの幸せを願っているよってこと!・・・小説、書き続けてね。空から応援してるからね?・・・うん、このくらいにしておくね。ヒロキ、ありがとう。本当に大好きだよ。・・・それじゃあ、これで終わります。最後まで観てくれてありがとう。ばいばい。」

End.



【後書き】

RadioTalk演劇部用に書いたうちの1本です。一人で独白やってほしくて書きました。

一部ノンフィクションです。

King Gnuの「三文小説」からイメージしました。


この作品は著作権フリーです。
朗読、演劇などに使用して頂いて結構です。
(使用報告があると嬉しいです)


お読み頂きありがとうございました。

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