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スイングバイで失われるもの(2)

 前の記事では、宇宙開発関係の報道等で時折目にする「スイングバイ」という技術について、ネット上の記事を引用しながら復習しました。そこから続けて、対価無く加速して、太陽から見て地球よりも高い場所である外惑星付近まで探査機等を持ち上げてくれるとはいったいどういうことか、考えてみます。

スイングバイ説明の為の例え話

 前の記事で引用したJAXA様による質問への回答ページをはじめ、いくつかの良い内容のスイングバイの説明が、ネット上には存在しています。そういった解説でよく使われている例えが、実際のスイングバイでは惑星の重力に引かれて飛翔体の軌道が大きく曲がる様な増速の過程を、仮想的に惑星に反射されるあるいは跳ね返される、そういう現象に置き換えて説明する、そんな例え話である様です。
 これについても実際に記述しているそれぞれの解説をお読み頂ければここであえて触れる必然性はないわけですが、本稿上での論旨につながりを持たせるために、少し触れておければと思います。
 惑星の重力で大きく軌道が変化する過程と、例え話としての反射して向きを変える過程とは、厳密に言えば力学的にまったく異なる過程です。方や場の力によるものであり、方や衝突・反射によるものなわけです。とはいえ、共通点がないわけでもないのです。つまり両方の過程共に、相互作用を伴うという共通点が存在しています。
 従って定量的な正確さにおいて反射の例えを用いることは色々と無理があるのですが、相互作用の結果として起こる現象の定性的説明とした場合、あながち間違いでもないわけです。

ダンプに向かって接近衝突して反射される軽車両に例える

 ここでは、章の見出しの様な少々物騒な例えを使いたいと考えております。申し訳ありません。
 事故に例えるのは不謹慎なことなのですが、この例えですとダンプの側の運転手の視点が説明に容易に使えますから、文章にしやすくなる利点があります。ご不快の念を抱かれる方は、恐縮ですがこの章を飛ばして頂ければ幸いです。
 例えば信号のない交差点等の異なる方向の交通どうしが交錯する箇所で、質量も速度も大きなダンプと、質量も速度もそれ程ではない自転車やバイクなどの軽車両が出合い頭衝突をして、軽車両がポーンと反射して跳ばされてしまったケースを想定してみます。
 それをたまたますぐそばの歩道から目撃してしまった場合、軽車両がもともと走っていた速度よりもかなり大きな速度で、かつ別の向きに反射して跳ばされてしまうことが想像できます。つまり、この衝突と反射によって、ダンプの運動量の一部をもらい、軽車両側はもともとの速度から加速され、衝突前とは異なる方向へと飛び去ることになります。
 この様な運動量をもらう現象について、衝突と反射ではなく、重力に引かれて振り回されて運動の向きが大きく変化する様な本来の形に戻して理解したものがスイングバイである、と反射の例えを用いる文章等では説明されるわけです。
 例え話にもどります。この同じ衝突と反射を、脇の歩道上という外部からではなく、当事者たるダンプの運転手はどう見るでしょうか。
 ダンプ側から見ると、衝突の直前には、自身の進行方向の横から軽車両が自分に向かってどんどん接近してくる様に見えるでしょう。その軽車両自身もある程度の速度を出しているわけですが、それに加えてダンプ自身もそれなりの速度で走行中なわけですから、ダンプの運転手からは自身の速度プラス軽車両の速度という相対速度で、歩道に立って目撃した人よりも自身の速度分だけ速い速度で軽車両が接近してくる様に見えている筈です。
 そして、不幸にも衝突して反射させてしまうわけですが、そうすると反射された後の遠ざかってゆく軽車両は、接近時とは異なる向きに跳び、それを冷静に観察すると、その跳ね返されて遠ざかる速度は、衝突前にダンプの運転手視点で見えていた、ダンプ自身の速度とバイクの速度があわさった相対的な速度と同じ速度であり、近づく際の速さと遠ざかる際の速さが同じである様に見える筈です(向きは当然異なっています)。
 どの視点で見ているかという言い回しは、どの座標系に乗って見ているか、という事実の言い換えになっています。つまり、スイングバイで速度をもらった様に見えるかどうかは、基準とする座標系によって違うことが示唆されます。
 その辺りについて、次の記事で続けたいと思います。



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