体ひとつで田んぼ 1

田んぼを始めた。
十年余り手つかずになっていた棚田を、平澤さんの助けを借りて。

草たちの根がびっしりの沼田で、完全な湿地と乾いた土壌が入り混じった田を起こし、水路をつけ、苗代を拵えて、竹を鳥よけの支柱にして、崩れた土手を撞き、畦を高くして泥を塗り、土手の草を刈る。
4/9から40日あまり、ようやく水を引き入れられるところまで、全て手作業で。

もともと沼地なうえに狭くて機械が入らない棚田というせっかくの条件なので、機械を使わず、薬も肥料も使わず。
そこは、自然と平澤さんとそうしようという話になった。
さらに僕は、手袋・長靴も脱いで素手と裸足で。

田植えどころか、稲が育つかどうかも手探りで収獲もままならないかもしれない。
けれど毎日新しい発見ばかりで、本当に楽しい。とくに僕は、武術が本来求める身体の自然な状態に興味があるので、野良仕事はもってこいの稽古になることにも気づいて、一石何鳥なんだろう?くらい。
たとえば、

鍬をふりあげ、鎌を振るう。
そもそも野良仕事は、さまざまな力仕事を並行して次の日も次の日も繰り返し楽に継続できるよう、身体も道具も整えられてきたにちがいない。
そのため、身体はしぜんと「重いものを軽く持つ」「応用のきく動き」を求めていったに違いない。
高い負荷をかけて「重いものを重く持ち」、競技や部位など、「専門的な動き」を求めてきた現代のトレーニングと異なるのは当然だった。

もっと面白いのは、
ここ半年ほど目の上にたぶん眼瞼黄色腫、へんなできものが増えてしまって(たぶん甘いものと夜ご飯の食べすぎ…)39度の熱のときに消えたと思ったらまた出てきて、ふつうは皮膚科?でレーザーで切ったりしないといけないものらしいのだけど、
裸足で田んぼにいたある日、両足を小さい小さい羽虫にむちゃくちゃ喰われて、痒くて痒くて、寝てるうちに我慢できず掻きむしって刺されたところから血が出てパンパンに腫れた次の日、
目の上のできものはきれいに消えてしまった。

農家さんによると、虫がつく野菜は土壌の栄養が足りないものだけでなく、栄養過多のものにつくそうです。
また葉っぱを食べて穴あきにすることで、しぜんそこの風通しがよくなる。稲作も密に植えすぎて風通しが悪いと芋治病にかかりやすいとか。

それでハッとしました。
人間も植物とおなじように虫に喰われることで身体のなかの増えすぎた栄養と、流れの滞ったところを喰われるのではないか、と僕は思い至ったのです。
栄養が脂肪に替わって溜まるとか筋肉疲労や内臓疲労が取り沙汰されているけれど、じつは一番大事なところは「血液」なんじゃないだろうか?

とこう書いてあっと気づくわけですが、
昔の人はよう言ったもんで、それって

気血

ですよね。昔の人は気血が乱れ、滞ると病になると言ったそうだ。
栄養過多=血の中身が濃くドロッとなる(イメージ)、身体の歪みや偏りが大きくなる=血や気の流れが滞る。

身体の一部だけに特化するのと、全体が繋がって使えるのと、どちらが流れがよくなり、滞らせやすいか。
野良仕事は、たいへん身体に良いのだと思われます。

明日は天竜川で石を拾ってきて、水が底を削らないように水路の底に敷いていこうと思っているところ。

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