「開高健は何をどう読み血肉としたか」
菊池治男 「開高健は何をどう読み血肉としたか」 (河出書房新社)
自分にとって方向性を決めるに大きな役割を果たしてくれた作家・開高健。
その中でもやはり大きな軸として外せないのが集英社・日本版プレイボーイの連載であった一連の「オーパ!」シリーズ。
開口大兄の作品以外にもいわゆる”オーパ隊”・・・つまり編集者から旅のスタッフ陣・・・による著作も多く残されており、如何に多くの人に多くの影響を与えたか?がうかがい知れます。
”オーパ隊”では「ハルオちゃん」であった著者によるほぼ同時期、別のこんな著作も。
ちなみに”オーパ隊”の著作の中で自分の一番のお気に入りは隊の食卓・胃袋を詳細に綴った、コレ。
”谷口教授”です。そりゃあもう美味そうだし、案外いろんな道に通じてたり。オススメです。品切れのようですがウチのライブラリーでは読めます。
で、本作。
読書、しかも敬愛する作家の!・・・と飛びついたわけではなく、若干不安を感じながらの購入でした。ジツは。
蔵書家とは言えない(本の扱いはかなり悪かったようです)、かなり前に故人となっている大兄の、読書遍歴とその関連性を上手くまとめられるのか?・・・と。
しかも書き手は骨太とは言え大兄の”ファン”ともいえる感じの存在なのです。先輩である谷沢永一等ならともかくその辺りどうなのか?全く違った本に、なりそうです。
大兄の読んできたものに自体については、作品中結構頻繁に登場します。
それが大兄にどう影響したのか・・・は本人が亡くなっている以上、如何に近しい関係性のものであっても想像以上のものにはなりえない。
あとはその想像・推測がどの程度納得いく、頷けるものであるか・・・。
おっかなびっくり読み進めてみると。
なるほど、開高作品を読んできた身としては覚えのある本のタイトル・エピソードが並びます。
特に中国・東欧紀行の編などでは自らの誤り(? まではいかないか?)を省みるという項もあり、素直に感心させられる。大物ほど自分の過ちを・・・というのはもはや通説であり。
既知のもはや懐かしいと言えるエピソード、未知の少し「!」となるエピソード・・・愉しく読み進められます。
発見・分析・そして過去との繋ぎ・・・”周辺者”(失礼な呼び方ですが)の”ハルオちゃん”の実力も十分に感じられます。
が。
何か足りない。
何だろ、この不足感。
・・・と考えたときに。
タイトルがブーン!と舞い戻ってきました。
「・・・血肉としたか?」
ここから自分が何を考えるかというと”書物が開高に与えた何らかの力”なのだが、ここがあまりに弱いのでないか?
開高愛は十分すぎるほど感じるが、タイトルに持ってきたこの部分、開高が書いた・・・でなく開高が読んだ・・・があまりに弱いのでないか、と。
仕方ない部分はあると思うのです。特に没後・開高の蔵書の扱いの(第三者による)酷さは若輩なる自分でも聞いたことがあります。
開高の残した文からそれを推する・・・というのは意味として間違っていなくとも、少し違うのかな?と。順番の問題です。ニワトリとタマゴです。
そうすると最終的には小さなことですが、ここに来ます。
タイトルが、よくない。
コレが単なる開高との思い出話であったなら、純粋に愉しく読めたのかと思うと少し残念な気がします。
少し大それた、タイトルだったのかな・・・と。
そんな細かいところを気にしなければ十分に楽しめる本です。
特に”編集者ハルオちゃん”に関わる記述が大変面白いだけに・・・。
・・・逆に本筋はどうなのよ?と思ってしまうワケです。
みなさまのご意見が聴きたく、販売古書在庫としてもよいのですが一旦はライブラリー蔵書としたいと思います。
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