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「十分なPCR検査の実施国では新型コロナの死亡率が低い」のか

 千葉大学大学院の薬学研究院の研究グループによって、COVID-19で死亡者数を減らすために「PCR検査の陽性率を低下させることが必要であり、そのためにはPCR検査数を濃厚接触者などで症状がみられていない者にまで幅広く拡充させることが急務」と結論づける論文が発表されました。(http://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2020/20200421covid19_PCR.pdf

これを受けてテレビの報道・情報番組では、「陽性率7%以上になると死亡者数が激増」との論文を根拠として、日本はPCR検査数が他国と比べてまだまだ少なく(図1)、陽性率も韓国などと比較すると高いため(図2)、「PCR検査をより幅広く拡充するべき」だという趣旨の報道が盛んに行われています。(そもそも日本の陽性率が高いというのも図2を見る限り、決してそのようには思えませんが。)

PCR検査数

陽性率コロナ検査

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月4日)

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 まず大前提の話ですが、この論文は学術雑誌に掲載された論文ではなく、プレプリントpreprints.orgで公開された査読前論文です。つまり、今後専門家による検討が厳格になされるべきものであり、現段階で報道にてこの論文を根拠として何かを発信することは、大きな誤解を招きかねない非常に危険な行為です。

 しかし、ここではその報道姿勢に関しては目をつぶるとしても、論文の内容自体に多くの疑問が残ります。特に以下の部分です。

人口で補正した死亡者数とPCR検査数の間に関係はありませんでしたが、その陽性率との間には明確な相関が見られました。
以上の結果から、新型コロナ感染症で死亡者数を減らすためにはPCR検査の陽性率を低下させることが必要であり、そのためにはPCR検査数を濃厚接触者などで症状が見られていない者にまで幅広く 拡充させることが急務であると結論します。

 あえて強調しますが、死亡者数とPCR検査数の間に相関関係はないとしているのです。そのうえで、陽性率と死亡者数の相関が見いだせるのであれば、それは「陽性率=感染者数/PCR検査数」なので「感染者数と死亡者数の間には相関関係がある」という主張に過ぎないのです。感染者が多ければ、死亡者が多く出るのは当たり前で、それにも関わらずそのデータについて陽性率を下げれば死亡者が減ると解釈して、PCR検査の拡充が急務と結論付けるのは、明らかな論理の破綻です。

 基本的に以下の図でもわかるように分母である検査数が多ければ、陽性率は下がります。

検査件数陽性率相関

 しかし、イタリアやフランス、イギリス、アメリカなどが比較的検査数が多いにも関わらず、陽性率が高いのは分子である感染者数が多いからです。この論文の理論に当てはめると、「それらの国々は、検査数は比較的多いがまだまだ陽性率が高いのでもっと検査を実施しましょう」ということになるはずです。

 本当にそうでしょうか?私であれば、陽性率を下げるという目的なら感染者数を如何に減らすかを考えます。国の現状を知るために検査は重要です。しかし、陽性率を下げるという事が目的になり、症状が出ていない人に対しても検査をする事が急務だとは思えません。そんなことをして偽陽性の割合を増やしてしまえば、検査そのもの意味合いが薄れてしまいます。検査はあくまで感染者を知るツールであり、目的ではありません。陽性率はあくまで指標であり、目的は感染者数を如何にして減少させるかに尽きるのです。皆さんのご意見をぜひともお聞かせください。

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