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7月に読んだ小説

「時刻表は読書に入りますか」

朝の10分間読書でそんなことを言った鉄道オタクの友人。

ポケット版ではありません。駅などに置いてある、事典のように大きな時刻表を掲げ、冗談交じりの表情を浮かべた彼に、

「もちろん、入ります」

と答えた中学校の先生もまた、とてもお茶目でした。


さて、今月の小説です。


かがみの孤城(辻村深月)

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本屋大賞。満を持しての『かがみの孤城』でしたが、個人的には十分に感情移入できないまま読み終えてしまいました。

筋立てはおもしろかったです。とても。ただこの内容なら、もう少し踏み込んでほしかった。いじめ要素的にも、ファンタジー要素的にも、ミステリー要素的にも。「胸糞」な展開も全体に甘口。終始"こころ"の視点で進むせいか、終盤まで各キャラの掘り下げが少なかったし、物語の仕掛けが"読めてしまう"のもまた……

最近文庫版が出て、本屋の一番目立つところに平積みされています。お読みになられた方も多いでしょう。皆さんはどんなふうに感じたでしょうか。



名も無き世界のエンドロール(行成薫)

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小説すばる新人賞。図書館をうろうろしてたら本作が目に入って、そういえば映画になっていたような、と思い出して手に取った次第。こんな話だったのですね。

時系列があっちこっち飛んで、ラストで収束していく構成。「謎の提示」「何が謎なのか」が中盤以降で示されるタイプのミステリー。ふつうに時系列順で示してもそれなりに面白そうな筋立てですけど。一種の青春ミステリ……かな。ラストの意外性も十分。

文体は非常にドライテイスト。個人的にはもう少しねっちりした描写が好きなので、好みにはやや外れる。



ノースライト(横山秀夫)

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著作をほぼすべて読んでいる作家さんのひとり、横山秀夫の一番新しい作品。2019年の週刊文春ミステリーベスト10で1位。

建築士の主人公。自ら設計した家の主が行方不明になっていることを知るところから、物語は始まります。離婚した元妻・娘とのやり取りや、所属する設計事務所での奮闘に加え、実在したドイツの建築家「ブルーノ・タウト」に関する謎が奇妙に絡んできます。

各エピソードの行き来は、さすが横山秀夫というような巧みさ。

ミステリーとしても読めるし、また「建築の在り方」「建築家の精神」にも踏み込んだ、骨太の作品でした。やっぱりこの人の一人称的三人称はとても読みやすい。



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