祖父が飲んでいた酒を飲んでみる
祖父は酒飲みだった。
祖父宅に家族で遊びに行くときは、いつも酒屋に立ち寄って、一升瓶をお土産に買ってから向かっていた。
私の両親と兄弟は酒が飲めない。
私だけが飲める口。
おそらく私は祖父に似たんだろう。
それでも私は日本酒にはあまり縁がなく、飲んでみたいと思っても詳しくないし、敷居が高いような気がしてなかなか手が出せなかった。
たまにちょっと飲んでみるものの、銘柄とかもよく分からないまま。
そんな私だけど、飲んでみたいと思っている日本酒があった。
祖父がいつも飲んでいたもの。いつもお土産に持って行ったアレ。
昨日彼氏とたまたまショッピングモールの酒屋コーナーを眺めていたところ、ペットボトルの日本酒が置いてあるのを見つけた。
彼氏「へ~、これペットボトルなんだ、いいね」
私「あ、これ栄川じゃん」
栄川(えいせん)は祖父が飲んでいた酒だ。量が多いので少し迷ったけれど、結局私はそれを手に入れた。
祖父宅に遊びに行くと、祖父はいつもニコニコしながら昼から酒を飲んでいた。
私も昼から飲むことにする。ガラスのコップに少しだけ注ぎ、口に運んだ。
アルコールが鼻に抜ける。……なるほど。
特別大きな感動はない。けれど少しワクワクした。
祖父は去年の春に亡くなった。もっとも、10年以上前に酒を飲むのをやめていたはずであった。
それでも、もしも祖父と酒を飲めていたら、と少し考える。
飲みやすいこの酒をまた一口あおる。
……祖父ともっといろいろ話しておけばよかったな。
てかじいちゃん、これ水みたいに飲めるね……!やばいな……祖父の気持ちがちょっと分かる気がした。
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