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学校の断熱改修のススメ

なんで始めたか 書いてみました。

私は普段高性能な住宅の設計を仕事としています。そこでの断熱性能は例えば断熱材が屋根に30センチ、壁に20センチだったりとかなり厚いものです。そうすると家は快適になり、エネルギーも減ることから、お客さんに喜ばれています。ただ、これは特定のお客さんに対してする仕事です。一方で、一般の人もできるだけ家を断熱したりして、住み心地を良くすることが求められていると思います。ある時、大学の授業でエコハウスの説明をしていたところ、学生が非常に眠たそうだったことがあり、なんでかを聞いたことがあります。学生は自分とは関係のない別世界のことのよう、寒いアパートに住んでいてどうしたらそれを改善できるかと思えなかったと話をされて、なるほどなと腑に落ちました。その後、断熱ワークショップの話には目を輝かせて聞いてくれました。自分ごととすること、できることがとても大切に思えます。

その頃、「千葉の築100年の民家が寒い。なんとかならないか。」という話を聞いて、断熱ワークショップをしたのが最初です。断熱の量は大したことはなかったので、少しの不安がありましたが、少ない断熱材の量でも大きな効果がありました。
全く断熱のないところから、断熱をしたので、とても効果的だったわけです。一緒にやってた人たちは大変喜んでくれて、その後、お互いに民家の断熱をするコミュニティまでできて、社会的に意義深かったと感じました。

 現在、脱炭素社会の実現のために、また、地球温暖化に対して様々な活動をしていかなければなりませんが、一般の人がそれを理解し、有効なものだと考えるというマインドセットが最も大事なことだと思います。一方で、気候緊急宣言をしていても、その後具体的に何をしたらいいかあまり理解されていないような気がします。日本のエネルギーの3分の1は住宅や建築で使われています。それを少しでも減らし、かつ寒い家を暖かく快適にすることが求められいます。それは我慢するだけではなく、楽しく暖かくするという体験です。そういった行動変容の積み重ねの延長線上に、脱炭素社会が来るのではないかと思っています。

そうした頃、私が長野県でレクチャーをした際、わざわざ白馬町から高校生が(一人は自転車で)やってきてくれました。温暖化対策が大事なのもわかるが、教室が寒いので何とかならないかと相談されました。気候マーチや白馬街の気候緊急宣言にも関わった高校生が、自分達でもできるなら、断熱ワークショップもやってみたいとのことでした。民家だけではなく学校もほとんど断熱のない建物です。文科省は平成30年に学校の衛生基準を改定しましたが、その年に不幸にも熱中症になった児童が死亡すると言う大変痛ましい事件が起こりました。政府はこの問題に即座に取り組みあらゆる学校にエアコンを設置することを決めました。本来ならば断熱工事と空調工事はセットであるべきですが、そうはなりませんでした。それによって教室の温度環境は改善されましたが、エネルギーの消費はものすごく増えたのです。

学校は明治以来、できるだけシンプルな形で作られてきました。建築基準法で天井の高さが3メートルと決まっているのも、窓の面積を床面積の5分の1以上にすることが決まっているのも、照明に頼らず明るく勉強のしやすい空間を作ることを目的としています。南側に校舎を向け、できるだけ日当たりを良くして西側に黒板をおくのも、右利きの子供が板書をする際に手の影が出ないようにするための工夫です。昔は寒い中、勉強したりするのが「蛍雪の功」(蛍の光や窓の雪の明るさで勉強してという照明のない時代の話です。)と呼ばれたりして美徳でしたが、地球温暖化によって気候が変わってしまい、夏の暑さは尋常ではありません。冬の寒さに関しては窓が大きいだけに暖かくなりにくい構造になっています。ストーブもありますが、教室内の温度ムラはひどく、すごく暑いところと寒いところが両極端に混ざっています。エネルギー消費に関しても全くの対策がされていないので多くのエネルギーが必要になります。特に最上階の教室は屋根の断熱がなく、夏暑く冬寒いのでとても褒められた環境とは言えません。

そこで、学校の断熱改修のワークショップでは主に3カ所の断熱を強化します。1つ目は窓です。窓の内側に家窓をつけ暑さ寒さに暑さ寒さを和らげることを目的とします。民間のワークショップではポリカーボネート複層版のような半透明なものを使うことが多いのですが、学校では外部の環境を取り入れる必要があり透明性が求められます。2つ目は天井の断熱です。天井の中にグラスウールという断熱材を20センチ入れていきます。天井板を全部外してしまうと大変なので、天井の一部、を剥がしてそこからグラスウールを送り込んで|、棒などで並べていきます。3つ目は外壁側の断熱の工事です。木製の下地を取り付け、そこに断熱材をはめていきます。その上を木やベニヤで貼って仕上げます。

 今まで小学校6つ、高校2つでこのワークショップを行いましたが、驚くことに教室の構造はほとんど一緒です。だから全国どこの学校でも同じようにすれば同じような効果が得られるはずです。

断熱ワークショップはいくつかの効果が考えられます。1つ目は温暖化対策に関する啓発としての側面です。学校で断熱ワークショップをやったことを家で話せばその家の断熱改修も保護者が考えるかもしれません。そこまで行かなくても親子で環境に対する何らかの話ができれば有効な体験だったと考えられます。2つ目は新しいタイプの教育として考えられないかと思っています。教科書のようにテキストに書かれたことではなく、自分たちが手を動かしたことで自分たちの環境を変えられると言う体験、そしてそれが地球温暖化の対策にもつながると言う、身近なことと大きな社会をつなぐ架け橋になることができるような気がしています。昨今探究型学習と言うものがあり様々な社会問題を取り組む授業があると聞いていますが、ワークショップの通して得られた体験を通して、考えることに発展すれば、一つの探求型学習といえないでしょうか。地球温暖化などは大きな社会の問題で、一人ひとりはアクションを起こせないマクロの世界の問題で、普通の人が直接参加、あるいは作用できない問題であるという印象がありますが、そうではなく、いろんな行動の一つ一つがその解決に結びつくということが理解できるのではないでしょうか。

また、教育だけでなくこの効果が確かめられれば行政が進める公共建築物の脱炭素化の一助になると考えています。すべての教室をワークショップでやる必要ありません。この活動を通して断熱の有効性が伝わることが大事です。一般的な公共工事でどんどん進めるべき問題だと思っています。さて、そういう観点から断熱ワークショップはそれ自体が目的化するのではなく、学びの1つの可能性であると言うことを再確認する必要があります。お金がかからないようワークショップするのではなく、次世代に気がついてもらうことが重要です。

さて、その点で言うまでもなく小学生や高校生と一緒にやるので、安全がものすごく重要です。ワークショップを実際にやる場合には地域社会地域での協力が必須です。まず、第一に高断熱高気密のことを理解し重要だと思い、施工できる工務店と組む必要があります。その工務店や地域の設計事務所と協力をして周到な準備を進める必要があります。次に保護者や児童や生徒を募集する必要があります。実際やってみると楽しいので心配はないのですが、最初はなかなか人数が集まりません。それでも実際生徒が来てくれると楽しんでやってくれますので、一生懸命募集する必要があります。また、教育委員会の協力も必須です今回の長野県の場合には教育委員会が主導してくださっているので問題にはなりませんが、学校と言う公共施設に手を加えると言う事に対して抵抗がある場合もあります。そういう場合には私は探究型学習の1つとして大きな学びがあると言うことをお伝えし、できるだけ協力していただけるようにお願いします。もう一つ必要なものは予算です。1教室でもろもろ100万円位の金額がかかると思ってもらって良いと思います。逆にこれ以上少なくすると効果があまり出ず、徒労に終わる可能性があります。最初にも申しましたが断熱ワークショップは学びの場ですから、そうなってしまっては意味がありません。
また、完成を急ぐあまりに急ぎ出すと怪我をするリスクがあります。そうなってしまっては、その当事者だけではなく、断熱ワークショップと言う活動自体が問題があると考えられかねないので決して急いではいけません。正しくやることが大事です。休憩時間のときのコミニュケーションや疲れて怪我をしないようにするためにお菓子やお茶の準備も必要です。一般の人が混ざるワークショップにはそこでのコミニケーションで大きく学んだと言う人が必ずいらっしゃいます。体験を通してコミニケーションすることで大きな学びが得られると感じています。

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