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"加藤の乱"から学んだ岡村隆史"公開説教"


今回はリスクマネジメントのコミュニケーションについて。

アンジャッシュ渡部さんの不倫報道が話題となっていますが、それに関係するお話です。少し前の話にはなりますが、ナインティナインの岡村隆史さんがパーソナリティを務めるオールナイトニッポンでの発言が大きな批判を浴びました。職業差別や女性差別につながるような発言内容でご本人も非を認めて謝罪されていますので、今更、それについてどうこう言おうというものではありません。また、これから書くことはあくまで報道を元にした個人的な見解・推測である旨、ご理解ください。


<世の中の溜飲を下げた、同情なき相方の公開説教>

結果としては最高のリスク対応であったと思います。

炎上の翌週、冒頭は岡村さんからの謝罪で番組がスタートします。30分ほど経ったところで相方矢部さんが登場。放送終了までの1時間半にもわたり、岡村さんへの説教を行います。この間、とにかく矢部さんは厳しい言葉をぶつけ続ける。ここで重要なのは、一切の同情も部分的容認さえもしなかったこと。ここが本当にキモだったのだろうと思っています。ネット上では様々な擁護意見も見られました。「前後の会話の文脈を捉えれば、リップサービス的に軽口を叩いたものである。」とか「そもそも風俗ネタは番組内でのお決まりだ」「コロナでみんなピリピリしすぎ」といったようなもの。相方であり友人でもある矢部さんならば、そうした同情の念も少なからずあったでしょうが、それを一切言葉にしなかった。


<より大きな怒りの風呂敷で包み込む>

さらには、今回の発言に留まらず、普段のスタッフに対する態度や療養復帰後の言動に対しても説教は及びます。二人の歴史と関係、そして矢部さんの、岡村さんへの愛がなければ「人格否定」ともなりかねない、本当にギリギリのラインで説教は続きます。この役目は世界中で矢部さんにしかできなかったでしょう。要は、世の中の怒りを仮に100としたら、矢部さんは200で叱りつけた。世の中の怒りよりも大きな怒りの風呂敷で包み込んだように僕には見えました。同時に、「テレビスターで裕福な人間」という怒りの対象が、「どこにでもいる欠陥を持った一人の人間」と認識が変更されたことで世の中の溜飲はだいぶ下がったように感じます。


<実は身近にもあります。こんなこと。>

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我が子と一緒に電車に乗ると、同乗の方にご迷惑をおかけすることがあります。突然ガン泣きしたり、奇声あげたり、結構周りの目が痛いんですよね。もちろん子供を注意するのですが、その注意は子供に向けたメッセージではなく、同乗の方へのメッセージであったりします。「静かにしなさい!」そこに含まれているのは、「みなさんへのご迷惑は理解してます!ごめんなさい!」むしろこっちの意味合いの方が強い。すでに叱られている子供を、さらに叱りつけようとする人はあまりいません。むしろ「いいのよ〜。子供なんだから。そんなに怒らないであげて。」なんて優しい声をかけてくれる人さえいます。でも、ここで言い訳がましいことを挟むと逆効果。「お腹空いてるんだよね。もうちょっと我慢してね。」なんて言ってしまうと、「んなこと知るか!いいから黙らせろ!」って冷たい視線がきます。これ、子供を持つ人にはアルアルなんじゃないでしょうか。みんな、誰に教えられたでもなく、考えたでもなく、社会動物として条件反射的にやっていること。矢部さんが社会の代わりに岡村さんを叱る。というのはこれととてもよく似ています。


<スッキリ!加藤の乱が吉本興業を成長させた?>

完全に推測なんですが、もしも矢部さんの公開説教が会社のリスク対応として計算されたものだったとすれば、そこに繋がったのは、反社会勢力への闇営業問題を発端とした「加藤の乱」の経験だったのではないだろうかと考えています。そもそもは反社への営業、繋がりということが問題の本質で、当初は会社に黙って営業活動を行なっていた芸人さん、それを仲介していた入江さんへの批判が中心でした。しかし前述のものとは異なり、仲間芸人から同情の意見や部分的擁護が散見され、世の中の怒りが鎮まらなかった。結果として吉本興業の体質というところにまで火が及び、社長の記者会見が開かれますが、そこでも「反省の色なし」と炎上は拡大。収集のつかない状態にまで至ります。そこで起こったのがスッキリの番組MCを務める加藤浩次さんが「吉本を辞める」と同番組内で発言した「加藤の乱」です。松本人志さんや明石家さんまさんなど、吉本の大御所達が精力的に動いていましたが、結果的に吉本興業を救ったのは加藤浩次さんなのではないかと、僕は考えています。当然、加藤さんは当事者ですから世の中の怒りよりも遥かに大きな怒りを番組内でブチまけた。擁護も同情もない強い言葉で。それを見た多くの人が、自分でさえ認識しないレベルで「自分たちは当事者ではない」ということに内心気づかされたと思います。ここが世の中の溜飲が大きく下がったポイントです。


<アンジャッシュ渡部さん>

「私人間の問題であって社会に謝罪する必要はない。」この意見はもっともだと思います。が、責務としてする必要があるかないかではなく、メディアへの復帰を考えるならば、世の中に嫌われたままでいることに得はありません。憶測も出るでしょうし、事実以上の噂が一人歩きする危険もあります。怒りの感情は長く続かないと科学的に証明されていますし、情報は日々アップデートされるので、ピークを超えれば、自然と多くの人は忘れていくかもしれません。ただ、事実がなくなったわけではありません。水に流すのと蓋をするのでは大違いで、渡部さんにも、岡村さんにおける矢部さん、吉本興業における加藤さん、そうしたケルヒャー並みの高圧水流で水に流してくれる存在が必要なのではないかなと思っています。

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