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子ども家庭ソーシャルワーカーの資格が必要ないと思うのは私だけ?

児童虐待の件数は、厚生労働省が発表した令和4年度児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)によると10年以上一貫して増え続けています。
私は5年以上、救急医療の現場でソーシャルワーカーとして働いていますが、実際の現場でも児童虐待が増えている印象があります。
児童虐待は救急医療現場で顕在化することが少なくありません。アザや骨折等の不自然な外傷は児童虐待のサインでもあるからです。
当記事では子ども家庭ソーシャルワーカーについて考察します。この記事を読めば子ども家庭ソーシャルワーカーの現状が把握できます。

子ども家庭ソーシャルワーカーとは

先述しましたが、子ども家庭ソーシャルワーカーは右肩上がりに増え続ける児童虐待を制御する切り札の資格として誕生しました。
児童相談所をはじめ、市区町村の虐待相談対応部門民間の児童養護施設乳児院児童家庭支援センター保育所などで活躍が期待され、令和6年4月から民間資格として導入されることが見込まれています。

子ども家庭ソーシャルワーカーの専門性

厚生労働省は下記の3つを子ども家庭ソーシャルワーカーの専門性と述べています。

  1. こども家庭福祉を担うソーシャルワークの専門職としての姿勢を培い維持すること

  2. こどもの発達と養育環境等のこどもを取り巻く環境を理解 すること

  3. こどもや家庭への支援の方法を理解・実践できること

専門性の程度のイメージとしては、相談援助業務を行う現場職員が初歩的に習得する内容と、特に難しい判断を必要とする事例への対応や指導的役割を担う職員が習得する内容の中間程度(児童福祉司について言えば、児童福祉司任用後研修と児童福祉司スーパーバイザー研修の中間程度。)のものを想定すること。

厚生労働省 こども家庭福祉の認定資格(こども家庭ソーシャルワーカー)検討概要

子ども家庭ソーシャルワーカーになるには

厚生労働省のこども家庭福祉の認定資格(こども家庭ソーシャルワーカー)検討概要によれば「社会福祉士」「精神保健福祉士」「保育士」「実務経験者」の4ルートが検討されており、それぞれに実務経験等と指定の研修及び試験が課せられています。

実施団体は日本ソーシャルワークセンター

子ども家庭ソーシャルワーカーの資格は一般財団法人日本ソーシャルワークセンターが認定機関を担う予定です。日本社会福祉士会、日本精神保健福祉士会、日本医療ソーシャルワーカー協会、日本ソーシャルワーク教育学校連盟(ソ教連)の4団体が設立します。

え?社会福祉士でよくね?

子ども家庭ソーシャルワーカーが誕生したときに思った率直な感想は「社会福祉士でよくね?」でした。ソーシャルワーカーの国家資格はただでさえ社会福祉士と精神保健福祉士に2分されており、これ以上資格が増えることは双方の資格の専門性がさらに不明確になる恐れがあります。

認定社会福祉士でよくない?

社会福祉士には認定制度が存在し、その中に認定社会福祉士(児童・家庭分野)(以下認定社会福祉士)があります。そもそも認定社会福祉士の登録機関である認定社会福祉士認証・認定機構は認定社会福祉士を以下のように述べています。

高度な知識と卓越した技術を用いて、個別支援や他職種との連携、地域福祉の増進を行う能力を有する社会福祉士としてのキャリアアップを支援する仕組みとして、実践力を認定する

認定社会福祉士認証・認定機構

仮に社会福祉士の専門性が専門性が子どもに対して不足していると考えるなら、認定社会福祉士で十分ではないでしょうか。認定社会福祉士登録名簿をみると、児童・家庭分野に至っては62人で他の分野に比較してもダントツで認定数が非常に少ないです。一番普及していない分野に投資する余裕がこの国にあるのか疑問です。

児童福祉司でよくない?

児童福祉を担う資格として、児童福祉法における児童福祉司が存在します。児童福祉士は児童相談所に必置であるため、新規の資格を創設するより児童福祉司を増やすほうがコストを抑えることができます。子ども家庭ソーシャルワーカーは現時点で児童相談所に必置ではありません。児童福祉司の任用資格と位置付けています。

児童福祉司について新たな資格の取得が望まれるところ、児童福祉司のうち社会福祉士又は精神保健福祉士の有資格者は4割強である現状を考慮し、当分の間は、子ども家庭福祉分野で4年以上実務経験のある者は社会福祉士・精神保健福祉士資格を取得しなくとも子ども家庭福祉ソーシャルワーカー(仮称)を取得できることとしてはどうか。

厚生労働省 子ども家庭福祉分野の資格・資質向上 について(案)

児童福祉司を増やすために。子ども家庭ソーシャルワーカーを創設する意図があることが読み取れますが、社会福祉士や精神保健福祉士と同等の知識を身につけられるような研修及び試験でないと「専門性の担保」の観点から納得できません。これではソーシャルワーカーの安売りです。

保育士の職能団体が構成団体にない…

日本におけるソーシャルワーカーの国家資格は社会福祉士及び精神保健福祉士です。にもかかわらず保育士を子ども家庭ソーシャルワーカーに組み込む意義が不明確です。ソーシャルワーカーの専門性を追求するはずが、むしろ専門性が低下しているという見方さえできます。保育士にもソーシャルワークの視点は重要ですが、その視点でいくと介護福祉士、保健師等も重要ですのでキリがありません。
何よりも、保育士を子ども家庭ソーシャルワーカーの基礎資格にするのであれば、保育士の職能団体も日本ソーシャルワークセンターの構成団体に入れるべきです。「保育士にソーシャルワークはわからない」と間接的に伝えているようなものです。

お知らせ

新人MSW〜中堅MSW、ソーシャルワークを実践する社会福祉士向けに「社会福祉士Keiの自由研究」というブログを運営しています。このブログを通して「自分の実践を見つめ直すきっかけになった」とメッセージを頂くことが多く、非常に励みになっています。

この先は有料記事になりますので、冒険したくないという方はブログを是非読んでください。
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職能団体は反対していたはずだが…

長々とここまで書いてきましたが、ようやく冒頭のポストの本題に入ることができます。日本社会福祉士会等を構成団体とする日本ソーシャルワーカー連盟は2020年1月23日に子ども家庭ソーシャルワーカーの資格創設に反対しています。反対する内容も洗礼されており、社会福祉士と精神保健福祉士を活用するように国に訴えました。

日本ソーシャルワーカー連盟の声明

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