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その2:隕石と刀と万年筆

遥か昔から人々は空に対して畏敬の念を抱いてきた。
神は必ず空の上に居り、科学技術が発達して宇宙の仕組みが紐解かれて来た現代でさえ、未だにその敬いは止まらない。
そんな天から飛んできた隕石は、地層の化石と共に壮大なロマンで好奇心をくすぐり続けている。
隕石と言っても色々な鉱石で生成されているし、知らずに鉄製の武器になったり、知っていれば天から落ちてきた授かり物とされる。太古の昔のツタンカーメンの墓で発見された短剣なんかは、隕石を素材としていたとする調査結果も発表されている。これは天の力を秘めた剣を持つ選ばれた神秘の象徴と言ったところであろう。
どうやらこの考え方は世界共通らしく、日本では明治維新を旧幕府軍(蝦夷共和国 総裁)として五稜郭を戦い、後に明治政府の要職にも就いた榎本武揚が作らせた流星刀が知られている。
黒田清隆や福澤諭吉の嘆願によって助命された榎本武揚が、駐露特命全権公使としてロシアのサンクトペテルブルグに赴任した際、ロシア皇帝の秘宝とされる鉄隕石の剣を知る。そこで強く興味を抱いたことがはじまりだった。
その後、富山県東部(現在の上市町)で見付かりながら鑑定結果に難航して漬物石にされていた隕石を榎本武揚が私財で購入。刀工の岡吉国宗に製作を依頼したという。
刀の製作は困難を極めた。隕石(隕鉄)の成分は様々であるが、この白萩隕鉄1号とされた隕鉄は、刀に加工するには炭素が少なく、鉄としてはとても柔らかすぎた。加工のやり方次第では刀にもならない危険があり、相当悩まされることとなった国宗だったが、工夫に工夫を重ねた末に玉鋼の混ぜ合わせ方に光明を得、ようやく完成に漕ぎ着けたのだった。スターリングシルバーのような感じだろうか。
出来上がった大小5振の刀は「流星刀」と名付けられる。長刀1振は当時の皇太子(大正天皇)に献上され、長刀もう1振は榎本武揚が創設した東京農業大学が保管、短刀の1振は北海道小樽市にある榎本武揚が建立した龍宮神社に奉納され、別の1振を隕石の落ちた地元の富山市科学博物館が収蔵している。残る1振は行方不明だとか。
このように形成だけでも苦労した刀なので、切れ味はかなり悪いらしい。あくまで天の不思議な力を宿した神秘の象徴に過ぎない。
で、この話が万年筆にどう結び付くのか。
そう、隕鉄を使って作られた万年筆があるのだ。
デュポンが2014年に世界150本限定で製造した『メテオライト プレミアム』だ。ブラックラッカーのボディにペギオン隕石がパウダー状に散りばめており、宇宙の神秘を纏った逸品である。
ペギオン隕石とは、ナミビアに45000年前に落下したとされる隕石で、現地人により武器を作るのに使用されていた。隕石は大気中に突入した時に爆発して数千の破片に散らばった。その一部から作られたのがこの万年筆となる。
このメテオライト プレミアムに限らず、高級万年筆のペン先にも隕石が使われているのは御存知だろうか。
知ってる人は知っているイリジウムと呼ばれるプラチナ系金属合金は、ダイヤモンドに近い硬度の高級鉱石として使われており、その原石も本来地球にはない隕石によってもたらされたもの。
ひょっとしたら、皆さんも隕石から作られた神秘的な万年筆で文字を綴られているかもしれません。

【参考文献】
富山市科学博物館ホームページ

国立科学博物館 標本・資料統合データベース

http://db.kahaku.go.jp/exh/detail?cls=col_z1_01&pkey=1761027

龍宮神社ホームページ


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