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RPGの職業とは一体何なのか

それ、本当に「職業」ですか?

突然ですが、これを読んでいるあなたに質問があります。
RPGの「職業」とは一体何でしょうか?

日本の総務省統計局によれば、「職業とは、個人が行う仕事で、報酬を伴うか又は報酬を目的とするものをいう。」とされています。
しかし、典型的なRPGのパーティが行う仕事とその報酬といえば、戦士であれ魔法使いであれ、平和を脅かすモンスターを倒し、モンスターが持っていた財宝や素材を手に入れることや、依頼人から受け取る金銭が主でしょう。そこに道具の違いはありません。

https://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/ihou/68/pdf/2-2-685.pdf

つまり「冒険者」じゃないかと言いたいかもしれませんが、今回の論点はそこではありません。
そもそも「職業」ではない何かを「職業」と呼んでしまっている、と言われればどうでしょうか?

なぜこうなったのかを紐解くには、まずどこでこじれたのかを見つけるため、源流までさかのぼる必要があるでしょう。
そしてRPGの事といえば、源流はただ一つ―「RPG」と呼ばれるありとあらゆるものの元祖、TRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下D&D)です。

歴史をさかのぼる

D&Dの「クラス」

D&Dでは、一般に日本で「職業」と呼ばれる要素に「クラス」という単語が当てられています。
クラス(class)という単語は通常学校の「科目」や「学級」、社会の「階級」、生物分類の「綱」など、総じて「分類」という意味があります。
ここで言う「分類」とは、ファンタジーのキャラクターの「分類」です。
現行のD&D第5版で言えば、戦闘を専門とする「ファイター」や盗賊、暗殺者といったタイプの「ローグ」であったり、魔法の系統別でクラス分けされたり、他にも信仰魔法と武具の扱いを兼ねる「パラディン」は『ファイナルファンタジー』の「ナイト」像や『ドラゴンクエスト』の「勇者」に近いイメージがあるでしょう。

君のキャラクターには何ができるのか、それを最も端的にあらわすのがクラスである。クラスは単なる職業ではない。それはいわばキャラクターを呼び招いた天命である。クラスは君が世界をどう考え、世界と、さらには多元宇宙の多くの種族や勢力と、どのように関わってゆくかを方向づける。

ダンジョンズ&ドラゴンズ第5版『Player’s Handbook』(2014年版)第3章:クラス 冒頭より

D&Dの解釈では、ファイターとして戦闘技術を修めることや、ウィザードとして魔法を研究する事はキャラクターの「職業」とは関係ない場合もあり得るのです。
別作品ではありますが、TRPG『トーキョーN◎VA』ではこのクラスにあたるものが「スタイル」と呼ばれており、日本人のカタカナ語知識としてより近い意味の単語が使われています。

ここでは現行の第5版を例に挙げて話していますが、70~90年代―主に現在の日本のRPG像に直接的に影響のあるクリエイターたちの世代が遊んでいたD&Dの古い版でも、ルール上の意図は変わっていないと思われます(独自研究のため間違っていたら教えてください)。
クラスの名称や役割は異なっていますが、マジックユーザー(現行のウィザードにあたる)が魔法を誰に学んだか、ファイティングマン(現行で言うファイター)が貴族の生まれかどうかなどはクラスの能力に直結はしなかったと筆者は記憶しています。
第5版では「背景」が大なり小なりゲーム上の利益をもたらす要素として組み込まれていますが、クラスからは独立した要素として扱われています。

日本上陸―その時、歴史が動いた

D&Dの誕生以降、やがて日本でも専門のサークルなど、各地に英語のルールブックを訳して遊ぶプレイグループが誕生したようです。
当時はインターネットの誕生や普及以前、もちろん今程英語の得意な日本人がいたり、アクセスできる訳でもありません。辞書を引きながらなんとかルールブックを読み進めていたグループがほとんどだったのでしょう。
そうしたグループや海外から輸入された『Ultima』や『Wizardry』といったコンピューターRPGが礎になって、日本でもテーブルやコンピューターのRPGの流れが生まれました。コンピューターのRPGに関してはPCを中心に発達しました。
この中で、盗賊や僧侶といった現実の歴史的な職業とある程度結びついたクラスの存在から、長い時間の中で「職業」という解釈が広がったのだと思われます。

ファミコンが広く普及しはじめた所で、『ドラゴンクエスト』が誕生しました。ですが、1から3の三部作は、ファミコン向けにRPGを出すにあたって、コンピューターのものから様々な簡略化がされています。1の時点では戦闘システムはクラスもへったくれもない勇者の一人旅です。

しかし、RPGの典型から大きく簡略化されたドラクエ1に対するカウンターとして、『ファイナルファンタジー』が生まれました。
ゲーム開始時に選べるクラス的な要素を、「ジョブ」―「職業」の英訳で呼んでいたのです。

その後ドラクエの戦闘システムも2の固定パーティによる戦闘→3のルイーダの酒場で選べる「職業」と段階を踏んでシステムを拡大しています。
簡略化の過程の中で、ドラクエも「クラス」というカタカナ語を「職業」と呼び替えているのです。

この2シリーズがそれぞれ平行して「職業」という解釈を使用していることから、この時点でこの訳は既存のRPGファンには浸透していたと思われます。そして、この両者が有名な事は説明の必要がないため、ここが認知度のターニングポイントである事は間違いないでしょう。

その後の「職業」

国産のRPGにおいて

国産のRPGの中で、キャラクターが固定化された作品においては「職業」はキャラクター同士の能力の差異やバランス調整でしかありません。
しかし、能力的な類型(アーキタイプ)は、大なり小なりD&Dをはじめとする古典RPGの「クラス」に求めることができるでしょう。

「なろう系」などにおいて

RPGのメタ的成分をフィクションに組み込んだ小説―俗に言う「なろう系」の一部―の中で直接的に扱われる場合は、神による天賦の能力(『織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので』など)であるパターンや、本人の適正を魔法的な手段で分類したもの(『この素晴らしい世界に祝福を!』、以下『このすば』など)などがあります。

この中で、『このすば』のアクアは神という立場でありながら、冒険者ギルドがアクアを神である事を信じなかったために、僧侶系の上位―「アークプリースト」の職業(クラス)をあてられています。作中で使われる「職業」という表現を額面で見ると違和感がありますが、「クラス」の原義からすれば彼女は「僧侶」の類型に当てはまった、と解釈できるでしょう。


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