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採用の戦略的視点~採用成功の三つのポイント「正確」「公平」「賛同」Vol.6(2/4)

4.コンピテンシーの要素をキーワードとして抽出する

この会社の特徴としては、

○もともと社歴の古い会社であるが、部門間や上下関係の風通しはよかった。
○社内の和が保たれ、旧来のやり方をよしとし、あまり社内に競争意識がなかった分、比較的のんびりした会社であった。
○そうした風土に、新社長がスピードとチャレンジの風を吹き込んだ。
○現場の課長クラスにはそれが歓迎され、若い社員の動きにも活気が出て、一定の成果にも結びついている。
○こうした動きは、同社の将来に向けた新しい社風・カルチャーに育ちつつある。
○しかし、スピードとチャレンジの意味をはき違えた一部の若手社員に“暴走”が見られるようになり、役員や古株社員たちによる批判がはじまっている。

というふうにまとめられるでしょうか(実際のコンサルティングでは、こうした推量は逐一確認していきますが、ここでは省略します)。

この会社の将来方向を見据えてコンピテンシーの要素を考える場合、すぐに社長の言葉にある「スピード」「チャレンジ」あるいは「行動力」といったキーワードが思い浮かぶでしょう。また、同社の風土からは「コミュニケーション」という言葉が案出されるかもしれません。

一方、マイナス面を補う要素としては「先を読む」「リスクを勘案する」「計画性がある」などのキーワードがすぐに出てくるでしょう。

これらのキーワードと評価シートに記された「協調性」や「積極性」といった言葉といちばん大きな違いは、前者には先のような議論の中で語られたこの会社の現実が、その言葉の背景に息づいているということにほかなりません。つまり、同じ「コミュニケーション(能力)」といった言葉であっても、前者はけっして一般論ではないため、同社に固有のコンピテンシーを策定する有意の材料となるのです。

とはいえ、これらだけでは単なるキーワードの域を出ません。この段階ではまだ、評価シートに記された項目と同じレベルにあるといえます。この段階の次に行うべきことは、これらの言葉の定義づけです。

5.言葉の定義づけをしていく

言葉(概念)の定義づけの過程では、提案された言葉が統合されたり、あるいはほかの言葉に言い換えられたりすることが少なくありません。たとえばその議論の中で、

「『スピード』というのは、我々(上司)の指示を聞いたらすぐその業務にとりかかり、時間をおかずに外に飛び出していく『身の軽さ』かな」

「それはどうかなぁ……。そういう定義づけをしたら、猪突猛進の飛び込み型営業を奨励することになるんじゃない?『スピード』といっても、単に『動きが速い』ということではないんじゃないかな」

「うん。我々から大枠の指示を受けたら、それに従って自分がどんな動きをしたらいいのか、そのことの細かな指示まで待つのではなく、まあ、必要な確認はするとしても、あとは自分自身で判断して行動に移す。その結果としての『スピード』だと思うんだけど」

「たしかにそうだね。その意味でなら『自律性』といったほうがいいんじゃないかな。つまり、『自分の頭で考え、自分の足で動く』といった」

「それはたしかに大切な要素なんだけど、『先を読む』とか『リスクを勘案する』とか『計画性がある』とか、それに『行動力』も含めて、みんなその『自律性』の中に入ってしまうわけ?」

「ちょっと違うわよねえ。『自律性』の定義が広すぎるのよ、きっと。これを『戦略的思考力』と『積極的行動力』といったような言葉に変えたらどうかしら。つまり先ほどの発言にあったように、私たちの包括的な指示内容のポイントを理解して、自分がとるべき行動に落とし込める、といった能力ね。それと、細かな行動まで指示されなくても、自ら考え、自らどんどんと行動する能力。指示待ちされたんじゃ困るもの

というようなやりとりがなされるわけです。表現はともかくとして、コンピテンシーの要素の一つとして「積極的行動力」が挙げられ、その定義は「目標達成のために迅速に行動する。要求される以上の行動をとる能力」ということになったとしておきましょう。

同様の議論をした結果「コミュニケーション能力」も同社にとって必要なコンピテンシーの要素として設定され、その定義としては、「相手を尊重し、相手の話にはよく耳を傾けるとともに、自分の話の内容をわかりやすく相手に伝える能力」となりました。

さて、このような形で、この会社にとって必要とされるコンピテンシーの要素かいくつかにまとめられ、それぞれの定義づけがなされたら、いよいよ次は、それらの定義に基づいて、コンピテンシーを具体的な行動の要点(キーアクション)として決めていく議論に移ります。

6.キーアクションとは何か~コンピテンシーの定義を具体化する

ここでは議論の例示は省略しますが、実際に新卒者を預かって早期に戦力化するため、彼らの教育・育成も担当する現場の管理職がさまざまな意見を出しあったと想定してください。その結果、たとえば「積極的行動力」については、先ほどの定義に基づいて次のようなキーアクションが列挙されたとしましょう。

①問題に直面したら、即座に行動する。
②ほかから促されなくても、可能性のあることは自発的に実施する。
③周囲が行動したり、要請してくるのを待たず、自ら進んで動く。

キーアクションはコンピテンシーの定義を、具体的な行動例として面接官がイメージしやすくするためのものです。つまり、前項のようなやりとりを通して、「何」を「どのように」行うことがそのコンピテンシーに該当するかを、より詳しく、汎用性の高い行動にして作成します。

次に「コミュニケーション能力」についてですが、そのキーアクションとして、

①コミュニケーションの受け手に敬意を払う。
②目的と重要性を明らかにして、内容を組み立てて話す。
③コミュニケーションの受け手に合わせる。
④相手からのメッセージを正しく読み取り適切に応答する。

が挙げられたとしましょう。

ちなみに、先ほどの「積極的行動力」に加えて、「コミュニケーション能力」を重視しているのは、社歴の長い同社にとって、自ら積極的に行動する新人が、社内の少し考え方の古い上司に“出る杭”として打たれないようにするためだと考えられます。つまりコミュニケーション力は、ことに組織内の人間関係において、新入社員がその組織の中で成功する鍵となるコンピテンシーであり、同社はその重要性を「自社らしさ」として強く認識しているのです。

少々ステレオタイプの例になってしまいましたが、「求める人材と必要コンピテンシーの内容はそれぞれの企業によって違う」という一例として、みなさんにご理解いただければと思います。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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