奇跡は砂になりて
かつて、この世界には「ほんもの」の神様がいたらしい。
らしい、というのは、私は神様を見たことも、その恩恵を授かったこともないからだ。
神様は私が生まれる遥か昔に砂になって消えたと聞く。
そうして、この地上に唯一絶対の聖なる砂漠ができたそうだ。
「100ナノ教会だね」
今日も私は砂漠で拾ったものをお金に換える。でも、得られるのは生活に必要な額ギリギリ。エビや魚を食べるなんて贅沢はムリ。
ましてや、空っぽの右目に義眼を嵌めるなど、もってのほかだ。
私の父には多額の借金があった。この聖なる地では身体を売る(?)ということが御法度なので、私は目を売った。
身体を切り与えるのは神の子が行った、聖なる行為である。そのゆえあって私は、父亡きあと、聖堂で暮らすことを許された。
聖堂にいる多くの者は、神様の復活を望んでいる。神様、どうかその聖なる砂で我々に脚や腕をお恵みください――というわけだ。
その一方で、神様に期待しない者もいる。例えば私がそうだ。
ではどうするのかと言えば、それは勿論探すのだ。神様の残骸を。
翌朝、私はまたも探索に出かけた。神様の残骸は砂漠の下の暗い洞穴の中にあると聞く。しかし、そんなものは一度も見なかった。手がカピカピに固くなるくらい、スコップを握り続けてきたが、掘っても掘っても砂。たまにお金になる遺物が見つかるくらいで、神様の残骸らしきものは一切ない。
私はスコップを砂に立てて、その上に腰かける。高熱の地面からはなるべく離れていたかった。
ふと空を見ると、鳥が飛んでいた。それはだんだん、こちらへ近づいてきて……
「ん?」
否、それは人だ。彼はそのまま、こちらへ落ちてきて灼熱の地面に激突――
サァァァァァ……
――しなかった。砂はその人を避けるように動き、砂漠の中に巨大な縦穴を作り出した。
この穴の先に行けば、神様の残骸があるのだろうか。私は穴の中を覗き込んだ。
【続く】
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