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愛が憎しみに変わる時

ミュージカル”オペラ座の怪人”がすごく好きだ。
劇団四季さんの公演はもう何度も観ているけれど
毎回ものすごく感情を揺さぶられて帰宅する。

主人公、ファントムの狂気を帯びた愛。
どうしようもなく好きで愛おしくて
なんとかして相手を自分のものにしたい。
醜い容姿故、過去に愛されたことはない。
何度も傷つき、酷い扱いに耐え抜いてきた中で
ようやく見つけたクリスティーヌという光。




自分の愛する相手が、他の人を愛している。
自分の元に来ることはない。
自分は選ばれなかった。
この事実って尋常じゃなく辛く苦しい。
その時点で自分の感情を相手にぶつけることさえ
許されなくなるわけだから。

その結末に至るまでに
2人の間で積み上げてきた時間があればあるほど
思い出にも囚われることになるし
執着や依存にも苦しめられることになる。

これまで”Angel of Music"として
クリスティーヌの音楽の師として
共に時間を過ごしてきた。
その時間ってきっとファントムにとって
かけがえのない時間だったのではないかと思う。




相手が自分のことだけを見てくれる時間。
愛する人が自分を尊敬し、信用してくれている。
共に過ごす時間を大切に想ってくれている。
幸せな、満たされた時間。

だからこそ
ラウルとクリスティーヌが再会してからの
ファントムの言動について
私は狂気よりも切なさを感じてしまう。
相手を失うことの怖さや苦しさ。
自分の一方的な思いでは
どうすることもできない辛さ。


”好き”だったり”愛しい”って気持ちが
怒りや憎しみといった
負の激情に代わる可能性って
誰しもが秘めているんじゃないかと思う。

自分はこんなに相手のことが好きなのに
相手はその気持ちに答えてくれない。
憎い、恨めしい。
元々好きな気持ちが一方的で
相手は自分のことを何も思っていなかったのなら
この負の感情は身勝手すぎるし
相手にとってはいい迷惑すぎる。

でも、相手も自分に対して
好意を持っていたことが確かだったのなら。
これまで2人で築き上げてきた
時間があったのなら。
突然自分から離れていく相手に対して
裏切られたと感じることも
そこから生まれる負の感情も
当然なんじゃないかと思う。


だから私はファントムに思いを馳せてしまう。
どれだけ苦しいだろうと。
つい先ほどまで自分の元にいて
自分を慕ってくれていた人が
突如他の人と幸せになっていく姿を見て
正気でいられるはずがないと。

クリスティーヌのファントムに対する気持ちは
恋愛ではなかったのかもしれないし
一概にファントムを擁護することもできない。
でも、自分がもし
ファントムの立場だったとしたら
絶対に気が狂ってしまうと思うのだ。

流石に人を殺しはしないにしても
どうすればクリスティーヌが
自分の元に帰ってくるのか
自分を選んでくれるのか
苦しくて苦しくてどうしたらいいか分からず
選択を誤ったりするだろうと。


私は誰かを好きになる度に
どうかこの人のことを嫌いになる日が
きませんように、と毎回願う。
傷ついたりすることがあってもいい。
辛くて泣くような日があってもいい。
でもどうか、好きな気持ちが消える時がきても
憎いとか恨めしいとか思わずに
穏やかに素敵な人だったと思えますようにと。

好きだった人を憎むことって
同時に自分の精神もすごく削られる。
できる限り形は変われども
ずっと相手のことを好きでいたい。
綺麗な幸せな思い出であってほしい。


ファントムは最後にクリスティーヌの愛に触れ
その結果、ラウルと共に自分の元から去るよう
クリスティーヌに命令する。

ラウルの命を助けるために自分にキスをした。
その行動に対してのファントムの気持ちは
そこまで相手を愛しているのかという
絶望や苦しみもあっただろうけれど
愛する人に触れられて
ようやく執着や依存から解放された
そんな側面もあるんじゃないかなと思っている。

去りかけたところでクリスティーヌが一度戻り
ファントムに指輪を渡すシーンが私は好きだ。
クリスティーヌにもやっぱり何かしらの形で
ファントムへの愛があったのではないか
そう思えるから。救いだと思えるから。


我が愛は終わりぬ
夜の調べと共に
ファントムが歌う最後のフレーズ。
夜の調べと共に、私の愛は終わった。
何度聞いても胸が苦しくなって
毎回泣いてしまうシーン。

愛した人との終わりは悲しい。
どれだけ楽しかった、綺麗な思い出があっても
もうその時に戻ることはできないから。
そして、これからの
その人を知ることができないから。

本当だったらその人と歩みたかった未来は
絶対に訪れないと認めないといけないから。



オペラ座の怪人が好きな理由は
こんな風に"人を好きになる"ということに
色んな想いを馳せることが出来るから。

人を好きになるって怖い。
できたら傷つきたくないし
苦しみたくなんかない。
ただ好きになったからこそ得られる
幸せや心に残る時間も沢山ある。

一方で終わりを迎える時にはその幸せな記憶は
進むための大きな足枷になるし
途端に自分を苦しめる要素になる。


私は今まさにやり切ったと思える状況にいる。
そもそも、ファントムのように
狂ってしまうほど相手を好きなレベルには
今回の恋愛は達していなかったけれど。

やり切って、傷つき切って
正直疲れ果てている今。
振り返った時に今回の恋愛についても
良い経験だったと思える時がくるだろうか。

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