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ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(3)

ルドルフは色々と誤っていますが、それまでの修正主義説への反論が誤っているものも多くありました。

例えば、2000年前後頃に日本でホロコースト否定論が盛んに議論になった時に、肯定派側からよく持ち出された、ティル・バスティアン著、石田勇治ら訳、『アウシュヴィッツと〈アウシュヴィッツの嘘〉』(1995、白水社)があります。この中から、少々長くなりますが、ロイヒターレポートに関する批判箇所を以下に引用します。

 ロイヒターの主張の核心は、アウシュヴィッツの施設の中で、毒ガスによる大量虐殺が行われたはずはないというものであった。なぜならば、ガス室だとされた部屋は、ガスを発生させるために部屋を暖めることもできなければ、迅速に換気もできないからだというのである。さらに、彼が試しに採取したという壁面からは、青酸ガスの「はっきりした」 残留物を見つける ことができなかった。ロイヒターの目にセンセーショナルに映ったこのような「発見」は、もちろん簡単に説明がつく。まず、青酸ガス(ツィクロンB)は摂氏二十六度以上にならないと気化しない(1)ので、米国の場合、ガス室は処刑前に必ず暖められる。アウシュヴィッツでは、ナチは囚人の体温でこの室温を確保できるよう、大勢の人間をガス室に詰めに押し込んだのである。このため、密閉された部屋は、裸で怯え、泣き叫び、空気をえようともみ合う人々で溢れかえり暑さのために短時間で気化した青酸ガスの大部分が、犠牲者の体内に吸い込まれた(2)のである。つまりアウシュヴィッツのガス室に入れられた人々の呼吸数は、米国の刑務所で椅子に固定され静かに死を待つ死刑囚よりもずっと多く、そのため吸い込んだ青酸ガスもはるかに大量だった(3)のである。おそらく、これらの人々の死後、壁面から採取され得るほどのガスはほとんど残留していなかったにちがいない(4)。ナチは、米国の刑務所で通常行われてい るように、「人道的な」理由から、念のため致死量の十一倍の青酸を投与することなど必要とは考えていなかった(5)。実際、一九四一年九月三日、第十一ブロックの地下室で約八五〇人が犠牲になった最初のガス殺が行われたが、報告主任パーリッチュは、自分がその翌日ガスマスクをつけてガス室のドアを開けたとき、まだ何人もの囚人が生きていたと証言している(6)

本書の第一部で述べたように、一九四一年九月半ばからアウシュヴィッツの「第一焼却棟」 の中の死体置場がガス室として使用されるようになった。それは「労働は自由にする」という プラカードが掲げられた門の左側にある旧弾薬庫であった。死体置場がガス室に使われた理由は、それが焼却炉に近接していたためだけでなく、この窓のない部屋に残留する恐れのある毒ガス――もっとも、すでに挙げた理由からその量はわずかであったが――を排気装置で吸い出し、すぐにまた人間を入室させることができたからである(7)(ドアを開けて約三十分もすれば、 特務班の囚人たちが、死体を片付けるために中に入った)。このことと、すでに言及したような、ナチが残忍にもガス室一杯に人間を詰め込んでいたという状況を考え合わせれば、ロイヒ ターが大量殺戮から四十四年もたって、壁面に青酸残留物をほとんど検出できなかったことに も容易に説明がつく(8)。この米国のエンジニアはさらに焼却棟には他で見られるような密閉型のドアがない、とも主張しているが、もし彼がアウシュヴィッツの文書室でもっと徹底的に調査していたなら、そうしたドアの注文書など容易に見つけられたであろう。また、直立した人間は一人あたり〇・八平方メートルを必要とするわけだから、約八十平方メートルのガス室には、 せいぜい九十四人しか入れられなかったはずだ、という彼の大まじめな計算は、まるでナチが殺戮される人間にくつろぎを与えようとしていたかのように思わせる。

一方、親衛隊がアウシュヴィッツのガス室で使用した毒ガス・ツィクロンBについても指摘しておくべきことがある。親衛隊は、ツィクロンBの生産を独占していたデゲシュ社(ドイツ害虫駆除有限会社)に臭素を混合していないものを特注していた。当時、ツィクロンBは一般 に害虫駆除剤として使われていたが、元来ほとんど無臭なため、誤用を防ぐ目的で臭素(刺激剤を混ぜて製品化することが法律で義務づけられていた。もしもツィクロンBが、ロイヒターやその他の人々が主張するように、アウシュヴィッツでのガス殺のためではなく、たんなる 「シラミ駆除」等の消毒剤として使用されていただけならば、いったいなぜそのような特別措置が必要だったのだろうか(9)

ティル・バスティアン著、石田勇治ら訳、『アウシュヴィッツと〈アウシュヴィッツの嘘〉』1995年、白水社、pp.95ff:強調と()数字は私

この引用部分の強調してある部分についてが誤りなのです。ほぼ反論論拠の大半であると言っていいでしょう。私も無知な頃はこの程度で納得していたのですが、色々と知るにつれて、これはダメだと思うようになりました。困ったことに、こうした的外れな反論が、ルドルフらによってさらなる逆反論を呼ぶことになり、話を複雑にしてしまった面があります。

  1. 青酸ガス(ツィクロンB)は摂氏二十六度以上にならないと気化しない
    いいえ。チクロンBは毒ガスの素であるシアン化水素を発生させるのですが、このシアン化水素は液体の状態で石膏や珪藻土のペレットに含ませてあります。この液体シアン化水素は非常に蒸気圧(揮発性)が高く(水:2.3kPa、エチルアルコール:5.95kPa、シアン化水素:82.6kPa、いずれも20℃)、低温でも盛んに蒸発するのです。こちらをご確認ください。もちろん温めた方がもっと早く気化させることにはなります。

  2. 青酸ガスの大部分が、犠牲者の体内に吸い込まれた
    から、ロイヒターの調査ではシアン化水素残留濃度が、ガス室跡では低かったのであろうと推測とするものですが、バスティアンはそんな計算を何もしていません。人間がシアン化水素を含む空気を吸ったからと言って、その全量が必ず体内に消費・蓄積されるわけではありません。例えば大気中の酸素濃度は21%ですが、呼気には16%の酸素が含まれ、5%しか消費されていないことがわかります。人体はシアン化水素に対する空気清浄機ではありません。

  3. 米国の刑務所で椅子に固定され静かに死を待つ死刑囚よりもずっと多く、そのため吸い込んだ青酸ガスもはるかに大量だった
    これもバスティアンは何の根拠資料も示さず、計算も行っていません。理屈的には、死亡に必要なシアン化水素ガスの量を満たすのであれば死亡するのですから、死亡すれば呼吸もしなくなるので、いずれであっても同量のシアン化水素摂取量であるはずです。

  4. 壁面から採取され得るほどのガスはほとんど残留していなかったにちがいない
    これも前述のような理由で反論になっていません。

  5. 「人道的な」理由から、念のため致死量の十一倍の青酸を投与することなど必要とは考えていなかった
    根拠がありません。大量の人間を一度にまとめて殺さなければならないのですから、それなりの青酸量は必要だったと考えられます。一度に死んでくれないと最初の実験であったブロック11のように次の日になっても生存者がいたなんてことになりかねません。アウシュヴィッツの親衛隊は何度も大量虐殺を行ううちに、その経験から、効率良くかつコスト的にも適切なチクロン投入量を把握していったと思われます。しかし実際のところ、チクロンは投入後からガス室内でシアン化水素ガスを放出し続ける(ガス室内にチクロンが存在する限り)ので、一定の濃度にはなりません。バスティアンはこの基本的なことがわかっていません。

  6. 第十一ブロックの地下室で約八五〇人が犠牲になった最初のガス殺が行われたが、報告主任パーリッチュは、自分がその翌日ガスマスクをつけてガス室のドアを開けたとき、まだ何人もの囚人が生きていたと証言している
    最初の実験の時のチクロン量が少なかったことと、それ以降の虐殺時のチクロン量とは関係ありません。むしろ最初は失敗したと言えるので、その後は量を増やしたと考えるのが当然でしょう。

  7. この窓のない部屋に残留する恐れのある毒ガス――もっとも、すでに挙げた理由からその量はわずかであったが――を排気装置で吸い出し、すぐにまた人間を入室させることができたからである
    主収容所の第一ガス室の天井にあったとされる換気装置の換気能力ははっきりわかりません。死体安置室でもあったのでそのための換気用だったと思われますが、能力がわからない以上そんなことは言えません。しかし、親衛隊員やゾンダーコマンドのユダヤ人が比較的すぐに入室できたのは、ガスマスクがあったからです。

  8. 壁面に青酸残留物をほとんど検出できなかったことに も容易に説明がつく
    バスティアンは以上の通り、根拠薄弱な状態で無理やり理屈をこじつけてそう言っているだけです。残留濃度が低かったのは44年も経っていたことの他、主収容所のガス室は使用頻度が低かったこと、ビルケナウのガス室跡は破壊されていたため長年にわたって雨曝しだったこと、それらガス室では青酸ガスの滞留時間が30分未満程度と短かったこと、などが挙げられます。また対象サンプルが害虫駆除室のものであり、ロイヒターはそこからプルシアンブルーを採取したためそれとの比較で過大な差が生じたこともあります。プルシアンブルーの件は当該翻訳記事内で詳述されている通りです。

  9. 親衛隊は、ツィクロンBの生産を独占していたデゲシュ社(ドイツ害虫駆除有限会社)に臭素を混合していないものを特注していた。<中略>いったいなぜそのような特別措置が必要だったのだろうか
    これについては、バスティアン自身も知っているプレサックの『技術』に書かれているのですから、バスティアンがそれをちゃんと読んでないとしか言いようがありません。『技術』のp.17には「これは、一般的に使用されている警告剤であるブロモ酢酸エステルが不足していたためである。 フランクフルトに残っていたディゲシュ研究所の人々は、窒息効果のある塩素化炭酸エステル[クロロホルム酸メチル]に代えたかったのだが、フリードブルクの経営陣は警告剤なしのチクロンBを製造することに決めたのであった。」とあります。これを言う肯定派側の人が多いので敢えて言いますが、人を詰め込んだガス室を密閉した後にチクロンを投入するのですから、警告剤の臭いがしたところで手遅れであり、警告剤を抜こうが抜くまいが処刑作業に関係ありません

私自身は今では、少なくともバスティアンのこの部分に関しては「悪書」だと思っています。この著書を訳出しようと思い立ったのは、編著者である石田勇治氏(東京大学教授、ドイツ現代史等)らであるようですが、1995年1月17日発売の雑誌『マルコポーロ』での西岡論文の事件に触発されてのことだそうです。バスティアンは医学博士だそうですが、医学博士だからって、その本の内容が正しいわけではないことは、いろんな医学博士がいることをご存知ならば、お分かりいただけるかと思います。西岡昌紀氏は神経内科医です。バスティアンが西岡氏と同レベルだと言っているのではありませんが、少なくともこの部分の酷さだけは同レベルに感じます。ドイツでベストセラーになっていたからと言って、必ずしも正しいことが書いてあるわけではないので、石田氏らも同大学の理系の教授に確認を願うなど、もうちょっと真剣に精査して欲しかったです。

こうして、ルドルフら修正主義者からの再反論が非常に細かい話になっているのは、肯定派側の誤った反論が要因でもあるのです。中でも今回の翻訳部分は、ルドルフが一体何を目的にそんなことを言っているのか、少々把握しにくいように思えます。しかし、ルドルフがこだわっているのは明らかにプルシアンブルーであり、チクロンBで大量殺戮をやったのなら、プルシアンブルーがあるはずだと言いたいようです。そのためには、バスティアンらの言うような、投入チクロン量が少なく、シアン化水素ガスの濃度が低かったわけがない、としたいのです。

ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(1)
ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(2)
ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(3)
ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(4)
ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(5)

リチャード・J・グリーン博士の報告書

▼翻訳開始▼

リチャード・J・グリーン博士の報告書

III. 殺傷目的のために必要なシアン化合物の濃度

ルドルフは、シラミを殺すのに必要なシアン化合物は人間を殺すのに必要なものよりはるかに多いという主張に反対するために、グレイ判事の判決の一節を引用している。仮に彼の主張が完全に正しかったとしても、ルドルフの主張はアウシュビッツとビルケナウで起こった出来事の真実性に関して、

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ほとんど影響を及ぼさないだろう。考えられるのは、部屋の換気が遅すぎたのではないか、犠牲者が報告されているほど早く沈黙しなかったのではないか、あるいは何らかの方法で暴露量が増えれば、法医学者が発見したシアンの痕跡が増えるはずだということである。ルドルフの数字が大きすぎるのはほぼ間違いなく、ルドルフの数字でもそのような結果は生まれないことを示すものである。ルドルフは書いている。

13.79 アーヴィングが当初アウシュヴィッツのガス室の存在を否定した理由は、これまで見てきたように、ロイヒター報告であった。ロイヒターが行った調査結果については、上記パラグラフ7.82から7.89に詳しくまとめている。繰り返しはしない。また、被告を代表するヴァンペルトがロイヒター報告書に欠陥があり、信頼できないとして却下した理由については、上記の段落7.82から7.89で述べたとおりである。これらの理由は、反対尋問でアーヴィングに突きつけられた。彼がその正当性を認めたというのは、彼の証拠の公正な要約である。ロイヒター報告書に根本的な欠陥があることに同意したのである。化学分析に関しても。シアン化合物は人間の髪の毛の幅の10分の1以下の深さまで煉瓦と漆喰に浸透したであろうから、ロイヒターが採取した比較的大きなサンプル(分析前に粉砕しなければならなかった)に存在するシアン化合物は非常に希釈されて、ロイヒターが依拠した結果は事実上何の効力もなかっただろうというロス博士の証拠(上記パラグラフ7.106で要約)にアーヴィングは反論することができなかった。さらに重要なのは、ロイヒターが、アーヴィングも同意しているように、人間を殺すためには、衣類を燻蒸するのに必要な濃度よりも高い濃度のシアン化合物が必要であると誤って思い込んでいたことである。実際、人間を殺すのに必要な濃度は、燻蒸のために必要な濃度の22倍も低いのである。

昆虫を殺すのに必要なシアン化合物は、人間を殺すのに必要なものよりはるかに多いというのは正しく、ロイヒターはこの事実を知らなかったようである。しかし、ルドルフはこの事実を認めている。

哺乳類が昆虫よりもはるかにHCNに敏感であることは事実である。しかし、問題は、目撃者とされる人々が語るような大量ガス処刑を行うには、どの程度の濃度のシアン化水素が必要なのか、ということである。

ホロコースト否定への多くの批判者は、人間のシアン化合物の致死量はシラミのそれよりも低いので、実際にははるかに低い濃度が殺害のプロセスに使われたと主張している。しかし、300ppmのHCNが人間にとって急速に致死的であるという事実は、実際には、殺人ガス室でそのような小さな濃度が使われたことを証明するものではない。高濃度を使用する利点は2つあり、1)致死作用がより早く起こること、2)致死濃度をより早く確立することができることである。低濃度のものを使うメリットは、もちろんコストを抑えられるということである。実際に殺人に使われた濃度が、害虫駆除に使われた濃度よりも有意に(つまり2倍から3倍以上)低かったという証拠は見たことがない。

なお、害虫駆除には殺人ガスよりもはるかに多くの時間がかかったという。この追加時間のおかげで、害虫駆除に使われたチクロンから完全にガスが放出されてしまうのに十分な時間があったはずである。

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したがって、同じ量のチクロンであれば、最終的な気相のHCN濃度は害虫駆除の場合の方がやや高くなる。ルドルフは、計算のセクションで、チクロン導入口がなかったという誤った仮定に基づき、異なる結果を導き出した。この問題については、ルドルフの計算の分析で後述する。ベント(チクロン導入口)の存在を証明するものは、ケレン、マッカーシー、マザールのプレゼンテーションの中に見出すことができる[31]。ガス室の最高気相濃度は害虫駆除室のそれよりも低かった可能性が高いが、その濃度はおそらく、多くの否定派への批判者が想定しているほどには変わらなかったであろう。

これらの発見は、ロイヒターやロイヒター報告の正当性を証明するものではない。最も使用されたと思われる濃度は、証言と一致しており、奴隷労働者が死体を片付ける能力と一致しており、ガス室と害虫駆除室との化学的痕跡の違いと一致しているのである。前述の換気の項では、奴隷労働者を危険にさらすことなく、ルドルフの推定気相濃度を2倍にすることも可能であることを示した。以下では、シアン化合物の化学的痕跡の問題について述べる。ここでは、チクロンBがどれだけ使われたか、その毒性はどの程度か、という問題について論じている。

1 . チクロンBの散布量に関する目撃証言

ルドルフは主張する。

チクロンBの使用量に関する目撃証言はあまり多くないが、ポーランドの資料によると、一般に、6kgから12kgのシアン化水素が使用されたとされている。

ルドルフは出典を明らかにしていないので、彼の主張の正確さを判断することはできないし、この量がどのガス室を指しているのかも知ることはできない。仮に、火葬場2の死体安置所1を指すとすると、この濃度は12~24g/㎥に相当する。これらの濃度は、ジェイミー・マッカーシーと私が記事で行った仮定と外れるものではない[32]。我々の見積もりは、


[31] ダニエル・ケレン、ジェイミー・マッカーシー、ハリー・W・マザール OBE, 「アウシュヴィッツ・ビルケナウのクレマトリウムIIのガス室に関するいくつかの所見についての報告」、ロバート・ヤン・ヴァン・ペルトの専門家報告書の付録。(英語版はhttps://phdn.org/archives/holocaust-history.org/auschwitz/holes-report/holes.shtml日本語訳
[32] リチャード・J・グリーン、ジェイミー・マッカーシー、「化学は科学ではない:ルドルフ、レトリックとリダクション」、 1999年、 http://www.holocaust-history.org/auschwitz/chemistry/not-the-science日本語訳

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以下の点を考慮したものである。4-5g/㎥という低い見積もりは、私たちの故同僚であるマーク・ヴァン・アルスタインの見積もりから得たものである[33]。15-20g/㎥という高い見積もりは、プレサックからのものである[34]。ブロードは、1kgの缶を2つ使用したと証言しており[35]、これは我々の低い見積もりと一致する4g/㎥となる。安全側に配慮して、5~20g/㎥の範囲で使用した。これらの値は、それぞれ4500ppmと18100ppmに相当する[36]。比較のため、


[33] マーク・ヴァン・アルスタイン、私信。 ヴァン・アルスタインはこう書いている。

チクロンBには200g、500g、1kg、1.5kgのキャニスターがあったことを考えると、間違いなく「最小の缶の一つ」はチクロンBの500g缶であったろう。ということは、クレマIIでは、1.5kgか2.0kgのチクロンB(L.Keller 1のガス室の一つか両方が使われたかどうかによって異なる)が注ぎ込まれたことになる。L.Keller 1の体積は約500㎥なので、HCN濃度は約3〜4g/㎥ということになる。 (プレサック、『技術』、前掲書、pp. 16-17、21、494)

[34] ジャン・クロード・プレサック、「「ロイヒター・レポート」の欠陥と矛盾点」 、シャピロ・S、 『真理は勝つ:ホロコースト否定を解体する:ロイヒター・レポートの終焉』、NY:ベアテ・クラスフェルド財団(1990年)所収。
[35] ロバート・ヤン・ヴァン・ペルト、「二次補足意見」、p.31
[36] 大気中の微量ガスの濃度は、便利なことに、次のように体積百万分の一(ppm)で表される。種Xの濃度(ppm)=106 *(種X単体の体積)/(空気中の体積)。例えば、ジョン・H・ザインフェルド、『大気汚染の大気化学と物理学』、ジョン・ワイリー&サンズ、ニューヨーク、1986年、p.6を参照。 ディゲシュ社は出版物の中で、ppmを質量百万分の一と定義している(液相から引き継がれた慣習)。プレサックもこの用法を踏襲している。 しかし、気相毒性に関する現代の文献は、量的なものである。HCNの場合、その指摘は無意味である。HCNの分子量は27で、大気の分子量は約28.8である。したがって、同じ温度で両者の密度はほぼ等しく、2つの規約の切り替えにルーズになる可能性がある。 つまり、質量ppmの値は、27/28.8倍、0.94倍と、取るに足らない差になる。g/㎥から体積ppmに変換するには、以下の式を使用することができる。

ppmの濃度 = ((g/㎥の濃度)/27.0)* (8.31441*298.15/101325)

ここで、8.31441は理想気体定数、298.15はケルビン単位の温度(30度の温度差は10%の誤差しか生まないことに注意)、101,325は

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デゲッシュ社が害虫駆除のために提案した濃度は8g/㎥である[37]。これらは、HCNがすべて蒸発した後の最終的な濃度である。害虫駆除の際には、全濃度が発生することになる。殺人的なガス処刑の際、死亡が確認された後、換気前に残りのチクロンが取り除かれた。そのため、実際に到達した最高濃度は、チクロンがチャンバー内で完全にガス放出しなかったため、実際にはもっと低かったと思われる。

2 .ガス室で全員を殺すのに必要な時間に関する目撃証言

ルドルフはこう書いている。

「ガス室」で全員を殺すのに必要であったであろうチクロンの量を計算する間接的な方法は、彼らを殺すのに必要とされたとされる時間である。ほとんどすべての「目撃者」によると、クレマトリウムIIとIIIのガス室とされる場所では、殺すのにわずか数秒から最大10分かかったという。[ルドルフの注448]。この情報をもとに、このような殺傷時間を達成するために実際に必要なチクロンの量を大まかに計算することができる。

ルドルフは、このような大雑把な計算をするために、HCNを致死ガスとして使用した米国の死刑執行室での死亡時間とこの証言を比較する。ルドルフの主張には、重大な欠陥がある。1)ルドルフが示す以上に、目撃者間のばらつきがある。2) ガス室の犠牲者が目撃者に死んだように見えるためには、沈黙と不動が必要なだけである。3) アメリカのガス室に関するルドルフの主張は誤解を招く。

ルドルフは「ほとんどすべての「目撃者」によれば、殺すのにかかった時間はほんの数秒から最大10分だった...」と述べている。脚注448では、「唯一の例外」として、アウシュヴィッツの収容者バラック(おそらく11ブロック)での試験的ガス処刑を挙げている。ある非常に重要な目撃者(ルドルフ・ヘス)は、別の例外でなければならない[38]。


パスカル単位の大気圧である。1g/㎥は906ppm、0.09%なので、g/㎥の濃度を10で割ると、おおよそパーセントの濃度になる。
[37] NI-9912、第IX章、reprinted in ジャン・クロード・プレサック、『アウシュヴィッツ:ガス室の技術と操作』、ベアテ・クラスフェルド財団、ニューヨーク、1989年、p.19(日本語訳)。本書はCODOH(否定)のサイトでオンライン公開されている。
 https://web.archive.org/web/20010414223012/https://codoh.com/incon/inconzyklon.html.
[38] ルドルフ・ヘス、『デスディーラー:アウシュビッツのSS司令官の回想録』、スティーブン・パスキュリー編集、1996年、p. 44

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ドアはネジで閉められ、待機していた消毒班が、ガス室の天井にある通気孔から、床まで続く空気シャフトにガス[結晶]を直ちに流し込んだ。 これにより、ガスの迅速な流通が確保された。その様子は、ドアの覗き穴から観察することができた。エアシャフトの横に立っていた人たちは即死だった。 約3分の1が即死したと断言できる。残った者はよろよろと歩き回り、悲鳴を上げ、空気を吸おうともがき始めた。しかし、悲鳴はすぐにあえぎ声に変わり、しばらくして全員が静まり返った。長くても20分後には、何の動きも感知されなくなる。ガスが効果を発揮するまでの時間は、天候によって異なり、湿っているか乾燥しているか、寒いか暖かいかによっても異なる。また、ガスの質にも左右され、まったく同じものはないし、輸送の構成にも左右され、健康なユダヤ人、老病人、子供の割合が高い場合もある。犠牲者は、エアシャフトからの距離に応じて、数分後に意識を失った。悲鳴を上げた者や、老齢の者、病弱な者、小さな子どもは、健康な者や若い者に比べて早く死んでしまった。

しかし、その量が必ずしも正確でなく、また効果も同じでなかったとしても、驚くにはあたらない。実際、ガス処理から生還した人の報告も少なくとも1件ある。ニーシュリ博士は別の例外だと思われる[39]。

常備していた道具のケースを手に、ガス室に駆け込んだ。壁に向かって、他の死体で半分覆われた巨大な部屋の入り口付近で、私は、死にかけた少女が、その体を痙攣させているのを見た。私の周りにいたガスコマンドはパニック状態に陥った。彼らの恐ろしい経歴の中で、このようなことが起こったことはなかったのである。[...]

私は冷静に、自分たちが直面している恐ろしい事件を(マスフェルド親衛隊軍曹に)説明した。私は彼のために、子供が脱衣所で受けたであろう苦痛や、ガス室での死の前の恐ろしい光景を説明した。部屋が真っ暗になったとき、彼女はチクロンガスを数回吸引した。しかし、その数はごくわずかで、死と闘う集団の押し合いへし合いによって、彼女の脆弱な体は屈服してしまった。偶然にも、彼女は濡れたコンクリートの床に顔をつけて倒れていたのだ。チクロンガスは湿度の高いところでは反応しないので、その湿度のおかげで彼女は窒息せずにすんだのだ。以上が私の主張で、「子供のために何かしてあげてください」とお願いした。[...]

「どうにもならない」と、「子供は死ぬしかない」と言われた。

30分後、若い娘は炉の廊下に連れて行かれ、いや運ばれ、そこでマスフェルドは自分の代わりに別の者を送り込んで仕事をさせた。首の後ろに銃弾を受けた。

少女が生き残った原因についてのニーシュリの説明は正しくないかもしれないが、ガス処刑が必ずしも完璧な科学ではなかったことを指摘するエピソードである。必ずしも毎回理想的に行われていたわけではなく、実際、濃度プロファイルはガス処理ごとに変化していたはずである。


[39] ミクロス・ニーシュリ、『アウシュヴィッツ:ある医師の目撃証言』、ニューヨーク;アーケード出版、1993年、pp. 114-120

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3. 米国の死刑執行室での囚人殺害に要する時間

ルドルフが試みた使用濃度の概算に必要なのは、犠牲者の大半が10分ほどで死んだように見えるほどのシアン化合物にさらされたことを示すことであろう。

ルドルフの主張は、10分以内に死亡するためには、ガス室で使われた濃度は少なくともアメリカのガス室と同程度でなければならなかったというものである。彼はこう主張している。

しかし、通常の場合でも、米国の処刑用ガス室での処刑は平均10~14分かかる。これらの処刑で適用されるシアン化水素の濃度は、通常、通常の害虫駆除の際に適用される濃度(0.3~1%)と同様である。[ルドルフの注450]。犠牲者は、毒ガスが足元で発生し、顔面に上がってくるため、すぐに非常に高い濃度の毒ガスを浴びることになる。

アメリカの死刑執行で実際に死んだと報告された時間は、アウシュビッツの目撃者が報告した時間と同じではない。米国の囚人が死亡と認定されるためには、少なくとも、心臓が停止していなければならない。ガス室では、無意識、沈黙、不動が死として報告されることがほとんどであったろう。ガス室は換気されるまで、誰も入ることができなかった。換気している間も、HCNへの曝露は続いていたはずである。そのため、意識のない犠牲者は致死濃度のHCNを浴び続けることになる。だから、ルドルフの比較は本当に無効なのである。青酸カリ中毒の被害者では、外見上の生命徴候がほとんどなくなった後も、心臓が動き続けることがある。

多くの場合、死は遅れるが、非常に大量のシアン化合物を投与した場合、1~2分で死に至ることがありる。このような場合、本人が倒れて呼吸が苦しくなり、無呼吸に進行していく。痙攣や意識喪失はすぐに続く。より低用量では、シアン化合物による頸動脈化学受容器の刺激により、急速な呼吸が見られることがある...無意識と完全な失行が起こり、死亡するまでの15~60分間続くことがある。呼吸は心停止前に停止する[40]。

この宣誓書の付録として、私はアメリカの死刑執行室での死亡時刻に関するルドルフの情報源を調べている。その検証から注目すべきは2つの事実である。意識不明や不動が心臓死に先行するという考え方を裏付ける資料である。また、ルドルフが主張する死亡時刻の平均10~


[40] ジョセフ・L・ボロウィッツ、アヌマンタ・G・カンタサミー、, and ゲイリー・E・イソム、「シアン化合物の毒物力学」in サトゥ M. ソマニ、『化学兵器』、ハーコート、ブレイス・ジョバナビッチ、サンディエゴ、1992年、p. 213

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14分という数字にも疑問が残る。ルドルフ自身の資料からすると、この数字は高すぎることはほぼ間違いないだろう。

では、アメリカの死刑執行ではどのような濃度で行われたのか、という問題に移る。ルドルフは0.3-1%の濃度を報告しているが、引用しているのは単一のソースのみである。この出典は脚注450に「ニュース&オブザーバー紙、ローリー (NC)、1994年6月11日、p. 14A参照」として記載されている。上記の付録では、この同号のP.A1から始まるストーリーを引用している[41]。この記事では、使用した濃度を記載していない。濃度を推定するのに使えそうな情報もあるが、そのような推定はあまり正確ではないだろう。P.A14には、フィル・ドナヒューが連邦最高裁に死刑執行停止を訴えたという記事が掲載されている。 使用したシアンの濃度については言及されていない。ニュース&オブザーバーのサイトhttp://newsobserver.com、1994年6月11日に発生した記事を検索してみた。「シアン化物」という単語で検索すると、p.A1のビル・クルーガーの記事と、タバコ広告に関する無関係な記事がヒットした。「死刑制度」で検索すると、クルーガーの記事しか出てこない。「死刑」で検索すると、クルーガーの記事とフィル・ドナヒューに関する記事がヒットした。「濃度」で検索しても、「0.3」で検索しても結果は出てこない。A14ページのハードコピーやマイクロフィルムを入手できないので、ルドルフが正直である可能性を絶対に排除することはできないが、米国の死刑執行におけるシアン化物濃度を0.3〜1%とする値には疑いを持つべきであろう。仮にこの主張の出典を示すことができたとしても、そのような使い方の統一性はどうなのか疑問である。確かに、LC100(一定時間内に暴露した人の100%が死亡するのに必要な濃度)を推定するための方法ではない。

4 .その後の計算

一方、5g/㎥では10分間に930ppm、20g/㎥では10分間に0.37 %の暴露をすることになる。この推定値は、ルドルフの下限値とそれほど大きな差はない。ガス処刑の時間のばらつきがルドルフの主張よりも大きいこと、ガス室が彼の主張よりも暖かかったこと、見かけの死よりも法的な死に方が長いことを考えると、ジェイミー・マッカーシーと私の行った推定は無理のないものである。なお、ルドルフの0.3〜1%という見積もりは、その後の計算で魔法のように1%になっている。


[41] ビル・クルーガー、「ガス室での処刑を予定」ニュース&オブザーバー紙に所収、ローリー、NC、1994年6月11日、p. A1

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デュポンの閾値を再検討する価値はある[42]。

2-5 ppm 臭気閾値
4-7 ppm OSHA 暴露限界値、15 分間時間加重平均
20-40ppm 数時間後に軽度の症状
45-54 ppm 1/2~1 時間の間、顕著な即時性または遅延性の影響を伴わずに耐えられる
100-200 ppm 1/2~1 時間以内に致死的になる。
300 ppm 急速に致死的になる(無治療の場合)。

殺すつもりの相手に治療を施すことはないから、我々の目的では300ppmは 「急速な致死量」である。しかし、デュポンはこう付け加える。

これらの数値は、人によって効果が異なるため、正確なデータではなく、合理的な推定値とお考えください。また、肉体労働による激しい呼吸はシアン化合物の摂取量を増やし、症状が出るまでの時間を短くします。300ppmの「急速に致死的な」暴露レベルは、応急処置や医療処置がないことを想定しています。どちらを使っても、素早く使えば非常に効果的です。

(デュポンの強調)「素早く」、とはどのくらい素早くなのだろうか?

秒単位で、約200秒(3~4分)以内に治療を行う必要がある。人間毒性学誌の論文でも同様の閾値が示されている[43]。

反応                                                                       濃度 (ppm)
即死                                                                      270ppm
10分後に死亡                                                       181ppm 
30分後に死亡                                                       135 ppm
30~60分後に死亡、または生命の危険がある 110~135ppm 
即効性または晩効性のない30-60分まで耐えられる 45-54ppm 
数時間後の軽度の症状                                        18~30ppm


[42] デュポン、『シアン化水素:特性、用途、保管、取り扱いについて』、 ウィルミントン:デュポン、195071/A (1991年)
[43] J.L.ボンソール、人間毒性学(1984年)3、57-60

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この同じ記事には、500mg/㎥(450ppm)に6分間さらされた労働者が助かったという労災事故について、記事を掲載する価値があるほど顕著な事例が紹介されている。記事にはこう書かれている。

この症例は、6分間で500mg/㎥のHCNにさらされたにもかかわらず、後遺症なく生存できたという点で珍しい。特に、治療開始が暴露の1時間後であったため。

最初の暴露量が500mg/㎥以下であったとしても、その後行われた実験では、このような状況でのHCNの蓄積は急速であることが示されている。

この場合、患者は3分以内に意識を失って倒れた。彼はタンクから救出されると呼吸が止まっており、40分後に病院に到着した時には昏睡状態であった。

以上のことから、300ppmで「急速に致命的」とする主張は、せいぜい10分程度の時間に適用されるものと考えて差し支えないだろう。しかし、この値がLC100であるかどうかは気になるところである。ルドルフは致死量をどう考えるかを示さず、次のように書いている(p.190)。

1 . 致死量100%、LD100は、観察された種のすべての個体(100%)を殺すのに必要な毒の濃度または量を示す。この値は、すべての個体を確実に殺すために使用される。

2 . 致死量1%(LD1)は、観察された種の全個体の1%を殺すのに必要な毒の濃度または量を示す。この値は、その毒にさらされることが決定的に危険であることを示す閾値として使用される。

明らかに両者の値は大きく異なり、LD100の値はLD1の値よりはるかに高い。

ここでルドルフは、よく引用されるHCNの毒性値300ppmはLD1の値であり、彼の1%はLD100の値であり、おそらく10分間の暴露時間であることを暗示しているようだが明言してはいない。致死濃度について言及する場合、通常、致死量(LD)ではなく、致死濃度(LC)の値を指す。致死濃度には、それに関連する時間が必要である。ある資料では、LC50について次のような値が示されている[44]。


[44] ティモシー・C・マーズ、ロバート・メイナード、フレデリック・R・シデル、『化学兵器用薬剤:毒性学と治療法』、ジョン・ウィリー&サンズ社 (イギリス、ウェストサセックス州、チチェスター市)、1996年
ISBN 0-471-95994. Chapter 9: Cyanides, pp. 203-219

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HCNのヒトに対する急性毒性は、正確な数値は不明である。急性致死率は、動物との類似性と理論的根拠から、時間依存性があると考えられ、表2にいくつかの目安の数値が示されている。

時間          LC50           LCt50
                (mg/㎥)      (mg・min/㎥)
    15s          2400            660
 1 min          1000          1000
10 min           200          2000
15 min           133          4000 

しかし、この数字は極めて不確かなものであり、マクナマラはムーアとゲイツの推定に基づき、4400mg/㎥という高い数字を出していることを明記しなければならない...

マクナマラは、吸入したHCNのヒトに対する毒性を、ヒトとヤギのHCNに対する反応の類似性に基づいて独自に推定し、1分間のLC50を3404mg/㎥としている。

10分間で与えられた値は、181ppmに相当する。この数値の絶対的な正確さはともかく、10分間で300ppmがLC1であるとするのは馬鹿げているのではないだろうか。15秒間のLC50は0.21%に相当し、ルドルフの主張する10分間のLC100より小さい。マクナマラの1分間のLC50値は3080ppm、ルドルフの10分間のLC100値の最小値である。4400mg/㎥という値は、時間軸がないと解釈が難しい。おそらくLCtの値だと思われるが、その場合は単位がおかしい。人間に対してLC100を正確に測定する倫理的な方法はない。米国のガス室の時間から適切な推定をするにも、使用された濃度が必ずしも一定ではなく、サンプル数も十分でないため、問題がある。ルドルフの見積もりは、無価値といえるほど問題が多い。なお、(0.1%)1000ppmは、10分間のLC50の推定値の5倍以上である。10分間0.1%でLC100を大きく上回らないとは考えにくい。ルドルフは書いている。

...シラミが0.03%のシアン化水素で死ぬように、賢くて健康な人間が1%のシアン化水素に5分間さらされただけでも生き残れる可能性がある。

ルドルフはこの主張に対して何の根拠も示していない。

使用されたチクロンの量が5~20g/㎥(4500~18100ppm)であったという上記の推定から、犠牲者は5~15分以内に450~1810ppm、つまり上記のLC50推定値の

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2.5~10倍にさらされたと控えめに推定される。この推定値は、チャンバーが15℃しかないことに依存する。ガス室は、彼が研究した最も暖かい温度よりもずっと暖かかったと思われる。例えば人間の体温は37℃であるが、チクロンが投入される前のチャンバーには人が詰め込まれていた。このような状況では、チクロンがより早くガス化し、暴露量も多くなってしまうのである。

ルドルフは書いている。

アウシュビッツなどでのチクロンBによる大量ガス処刑の目撃者とされる人々が報告した殺傷時間は、米国の処刑と同様かそれよりも短いので、少なくとも米国の処刑で適用されたのと同様の濃度(0.3%〜1%)を必要としたであろうことは明らかである。実のところ、チクロンBはシアン化水素を非常にゆっくりとしか放出せず、最初の10分間で10%程度である[ルドルフの注451]。さらに、部屋全体に素早くガスを行き渡らせる器具がなかったことは明らかなので、すべての犠牲者が高濃度のシアン化水素に包まれるまでに(部屋の隅に立っていた犠牲者も)もっと時間がかかったはずである。したがって、これらの部屋に導入されるチクロンBの最小量は、害虫駆除に通常使われる量の10倍であり、部屋の最奥部であっても、実行の最初の5分から10分ですでに同様の濃度に達したと考えなければならない。

イルムシャー論文[45]の図1を見ると、彼が調査した最も低い温度でも、約5分から15分の間にチクロンの約10%が蒸発することがわかる。イルムシャーは-18℃から15℃の温度範囲で研究を行った。後述の計算(宣誓供述書235頁参照)において、ルドルフはイルムシャーのデータを関数形1-exp(-t/43.5)(tは分)で当てはめている。このフィットをイルムシャーのデータにプロットしてみたところ、妥当な一致が見られた[46]。もし、このデータを早い時間に外挿できると考えるなら、10分以内に約20%が蒸発するという結果になる。ガス室は、彼が研究した最も暖かい温度よりもずっと暖かかったと思われる。例えば人間の体温は37℃であるが、チクロンが導入される前のチャンバーには


[45] R・イルムシャー、ノクマルス:「Die Einsatzfähigkeit der Blausäure bei tiefen Temperaturen」 (青酸の低温での効率)、衛生動物学・害虫駆除学雑誌、1942年2/3月、pp. 35-37。https://phdn.org/archives/holocaust-history.org/works/irmscher-1942/で閲覧可能。本宣誓書の付録IIも参照。
[46] 本宣誓書の付録Ⅱを参照。

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人が詰め込まれていた。実際、ガス室が加熱されていたことを示すいくつかの証拠がある。ジョン・ジマーマンは次のように書いている[47]。

モスクワのアウシュヴィッツ文書館の発見は、「ガス室」を暖めるという技術的問題が克服されたことを示唆している。オーブンの製造業者からアウシュヴィッツ当局への請求書には、1943年6月に設置された火葬場IIの「温風導入システム」[warmluftzufuhrung]の代金が請求されている。

さらに、実際にはガスを部屋中に行き渡らせるための装置もあった[48]。つまり、ルドルフの最小見積もりは最悪のケースであり、いくつかの前提条件がある。

  1. アメリカのガス室での死亡の10-13分という平均が正確であること。上に示したように、いくつかの死はたしかにこれほどの時間を要したが、平均時間として正当化することは難しい。

  2. アウシュヴィッツでのガス処刑の目撃者が、意識不明や運動停止ではなく、完全な法的死を報告すること。

  3. アウシュビッツで報告された時間の長さは、たった一つの例外を除いて、10分が上限であること。

  4. 導入装置がなかったこと。

  5. 低温が存在したこと。(彼は15℃のチクロンBのデータを使っている)

  6. 0.3~1%がアメリカのガス室で使用された濃度の正確な主張であること。

  7. 0.3%ではなく1%を使うべきであること

  8. 10分以内に蒸発するのは10%だけであり、後にイルムシャーのデータに適合させるために与えた関数形が20%という値であるのとは対照的であること。

1%は11g/㎥に相当する。この濃度を15℃、わずか10分で達成するためには、最悪の条件で10倍の量を使う必要があると仮定すると、110g/㎥が必要になる。比較のために、ディゲシュ社が害虫駆除のために提案した濃度は、


[47] ジョン・C・ジマーマン、『ホロコースト否定:人口統計、証言とイデオロギー』、アメリカ大学出版局、2000年、p. 193.。彼の参考文献は次の通り。"AA File 502-1-327, Reel 42, p.2のメモにある1943年8月20日付のトプふ・アンド・サンズ社からの請求書。
[48] ジェイミー・マッカーシー、マーク・ヴァン・アルスタイン、「チクロン導入柱」https://phdn.org/archives/holocaust-history.org/auschwitz/intro-columns/日本語訳

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8g/㎥[49]からである。 一方、ジェイミー・マッカーシーと私が、5〜20g/㎥の濃度が使われたという証拠に基づいて作った数字を見ると、合理的な図式が浮かび上がってくるのである。以下のプロットでは、ルドルフが示したチクロンBのガス放出の関数形式が有効で、チクロンはわずか10分後に除去され、換気量はルドルフが示した1時間あたり9.94部屋分の交換であると仮定している。

スクリーンショット 2020-11-15 19.01.21

注意すべきは、換気中も被害者はHCNにさらされ続けるということである。まだ死んでいない意識のない被害者は、死体が運び出される頃には、どう考えても死んでいる。なお、最小限の試算では、犠牲者が


[49] NI-9912、第IX章、reprinted in ジャン・クロード・プレサック、『アウシュヴィッツ:ガス室の技術と操作』、ベアテ・クラスフェルド財団、ニューヨーク、1989年、p.19(日本語訳)。本書はCODOH(否定)のサイトでオンライン公開されている。
 https://web.archive.org/web/20010414223012/https://codoh.com/incon/inconzyklon.html.

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300ppm以上の濃度に14分間さらされることになる。10分間のLC50は約181ppmであることを思い出して欲しい。この条件下では、被害者は181ppmを超える濃度に18分間さらされることになる。犠牲者がそのような処置を受けても生き延びることができるかもしれないと主張することもできるかもしれない(実際、ルドルフとアーヴィングは間違いなく主張するだろう)。そんな疑問は、私たちの最大限の見積もりで解消されるはずである。その試算では、300ppm以上の濃度を24分間、181ppm以上の濃度を27分間浴びることになる。また、犠牲者は1000ppmを超える濃度に16分間さらされることになることにも留意して欲しい。この値は、1分間のLC50に相当する。3分間で3000ppm(0.3%)を超える濃度となる。この濃度は、15秒間のLC50に相当する。ルドルフの試算が過大評価であることは疑いようがない。

今度は、20分間チクロンを除去しなかった場合の結果をプロットしてみる。

スクリーンショット 2020-11-15 19.07.12

小さい方の試算では、被害者は300ppm以上の濃度に27分間さらされることになる。ここでも、10分間のLC50は約181ppmである。この条件下では、被害者は181ppmを超える濃度に31分間さらされることになる。ルドルフでさえ、このような処置で

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被害者が生き残る可能性があると主張するとは信じがたい。ここでの最大推定値は、ほぼ間違いなく大きすぎる。この試算では、0.1 % ppm(註:0.1%=1000ppmのこと)以上の濃度に29分間、0.3 % ppm以上の濃度に16分間さらされることになってしまう。この濃度は、15秒間のLC50に相当する。

ルドルフの根拠を認めないまでも、我々の推定値の差は実質的に取るに足らないものであることは言うまでもないだろう。たとえルドルフが10分以内に1%の濃度にする必要があると正確に判断したとしても、この値と殺人的ガス処刑の既知の事実との間に相容れないものはない。このように、1%の濃度であれば、それなりの時間で容易に換気することができる。その濃度を2倍にしても、換気システムが十分であったことが上記で示されている。以下に示すように、1%の濃度ではプルシアンブルーの形成は保証されない。実際、以下に述べる考察を考慮すると、ガス室でプルシアンブルーが大量に生成された可能性は極めて低いと思われる。このような濃度は、ガス室と害虫駆除室との化学的痕跡の違いと相容れないものであることが以下に示されている。プルシアンブルーの形成に及ぼす影響の重要性については後述するが、ここでは、これらの濃度について、歴史的証拠と矛盾するものがないことを述べておく。一方、ルドルフは、殺人的なガス処刑には害虫駆除の10倍の濃度が必要であったと推定しているが、これは大きすぎる。しかし、ルドルフの推定値でさえも、奴隷労働者の安全性や、IFFRがガス室で検出した残留シアン化合物と一致しているのである。

▲翻訳終了▲

ルドルフはこちらで以下のように書いています。

システムの構成が悪く(注入口が排出口の真上にある)、死体で部屋が過密状態であったとされるため、たとえ何時間もガスを放出し続けるチクロンBがなかったとしても、ガス処理後のシアン化水素の無害化には30分では不十分であった。したがって、火葬場IIとIIIの死体安置室1で20分から30分後に十分な換気がなされたとする目撃証言は、信用できない[138]。

(強調は私)

ルドルフは一応は、強調した通り、火葬場2や3にあったとされる金網導入装置によるチクロンの撤去を意識はしていたようですが、彼はインチキ統計計算を行なってもガス濃度の計算を行ないませんでした。記事中で示されているようなシアン化水素ガスの濃度計算は、イルムシャーの実験値と換気能力に基づく計算式で比較的簡単に計算できたはずです。

しかし、インチキ統計計算の実例は、ルドルフ自身だって理解していたはずではないかと私自身は思っていて(あまりにも明らかすぎるから)、ほとんど無理やりシアン化水素濃度を高く見積もろうとばかりしていることも含めて考えるに、ルドルフは一応は換気能力の計算をやった上で、それが否定論的には都合が悪いので、使わなかったのではないかと思っています。もしかしたら、インチキ統計計算を思いついたのは、換気能力計算を出さないための誤魔化しなのかもしれません。

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