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【新作映画レビュー】 『ハウス・オブ・グッチ』 レディー・ガガが本気出して演技で勝負!華麗なる一族を引っかき回すヒロインを快演!

世界有数の高級ファッションブランド「グッチ」。その創業者一族の内紛を激化させた女性にあのレディー・ガガが扮した実録ドラマ『ハウス・オブ・グッチ』(1月14日公開)。巨匠リドリー・スコット監督が実話を基に、華々しい外見の裏で展開したグッチ一族の泥沼の争いをサスペンスフルに描いた人間ドラマ。そのあらすじと見どころをご紹介しよう!

『ハウス・オブ・グッチ』あらすじ(ネタバレなし)

1978年、イタリア。美しく魅力的だが貧しい家庭出身の若い女性パトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)は、父親が経営する小さなトラック運送会社で事務の仕事をしていた。ある日、パーティに出かけた彼女は、イタリアで最も裕福で格式高いグッチ家の後継者の一人であるマウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)と知り合う。世界でもトップクラスのファッションブランド「グッチ」の創業者の孫でありながら、会社経営には興味がなく弁護士を目指して勉強する純朴な学生だったマウリツィオを魅了した彼女は、グッチ家の財産と経営権を狙って彼との結婚を目指す。

当時、グッチ家の経営権は創業者の四男と次男、つまりマウリツィオの父ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)と伯父のアルド(アル・パチーノ)が握っていた。特に商才に恵まれているアルドは、積極的に海外進出を勧めるなどブランドの国際的な地位を確立していた。しかし彼の次男パオロ(ジャレッド・レト)は、デザインのセンスは長けていたが経営には向いていない人物だった。

一方、妻に先立たれた後、一人息子のマウリツィオを溺愛していたロドルフォは、パトリツィアの真の目的を見抜いて二人の結婚には強硬に反対した。しかし、結局二人は結婚に漕ぎつける。

パトリツィアは一族の権力争いを巧みに利用し、マウリツィオにグッチの経営の実権を握らせることに成功する。そのため、グッチ一族の分断も決定的になってしまう。しかし、その頃から二人の結婚生活に陰りが見え始め、ついにはパトリツィアすら予想していなかった事態が起きてしまう…。

一族の崩壊を仕掛けた「グッチ家の鬼嫁」

原作となったサラ・ゲイ・フォーデンのノンフィクションは、すでに2000年代初頭にはスコットによって権利が買い取られていた。マーティン・スコセッシ、そしてパトリツィア役にはアン・ハサウェイ、アンジェリーナ・ジョリー、ナタリー・ポートマン、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス、マーゴット・ロビーらさまざまな監督や出演者が候補に挙がるなど長年の紆余曲折を経て、ようやく完成したのが本作というわけだ。

有名な実話の映画化は、結末(話の流れ)が広く知られているためなかなか難しい。最終的には「見せ方」に懸かってくる。『エイリアン』(1979)、『ブレードランナー』(1982)、『ブラック・レイン』(1989)、『グラディエーター』(2000)、『オデッセイ』(2015)…と幅広いジャンルで高いクオリティの作品を生み出してきたスコットらしく、その手腕は確か。さらに、本作と同じく実際の事件を題材にした『ゲティ家の身代金』(2017)では、主役クラスの出演者だったケヴィン・スペイシーが過去のセクハラ疑惑が発覚して公開直前に降板、クリストファー・プラマーを代役に立てて約10日間で撮り直すという離れ業を成し遂げた。現在84歳のスコットだが、本作でも歯切れのいいテンポでパトリツィアの野心が実現していく様から意外な展開までを描き切り、2時間半を超える上映時間を感じさせない面白さで観客をグイグイ引っ張っていく。

「他人の家の揉め事を覗く」という一見えげつない内容ながら、それを一級のエンターテインメントに仕上げている。その語り口の巧さは、強いて例えればかつての2時間サスペンスの名物シリーズの一つだった、市原悦子主演の『家政婦は見た!』に通じるものがあるかも知れない。同シリーズの家政婦は正義感に駆られて家族の仮面を剥いでいたが、こちらはあくまでも私利私欲のために一家を大混乱に叩き込むのだ。

歌抜きのガガ様の堂々たる“表現者”ぶり

そんな「グッチ家の鬼嫁」に扮したガガは、前回の主演作『アリー/スター誕生』(2018)では自身を投影しやすい歌手役ながら、世間の予想を遥かに上回る素晴らしい演技を披露し、アカデミー主演女優賞にノミネートされた。そして今回は歌と無関係な、しかもどちらかと言えば“悪女”的なヒロイン役。マウリツィオを誘惑したり、結婚してからのグッチ家の中に入ってからの計算高い立ち振る舞い…。堂々とした女優ぶりを披露しているが、そこには「人気歌手が話題作りのために映画に出演している」といった感じの「片手間感」はまったく感じられない。歌などのアーティスティックなものだけでなく、政治的な立場などを常日頃から発信し続けている、まさしく“表現者”としての彼女の才能と意志の強さが感じられる。その証拠に、彼女はゴールデングローブなどさまざまな映画賞の主演女優賞にノミネートされている。

もちろん、共演者たちも実力を遺憾なく発揮している。ドライバーはシャイだったマウリツィオが次第に変化していく様子を好演している。さらに、一族の中に深刻な対立を生んでいた兄弟にアル・パチーノとジェレミー・アイアンズという名優たちが、エキセントリックなパオロをジャレッド・レト、そしてパトリツィアを支えることになる占い師ジュゼッピーナにサルマ・ハエックと、充実したキャストが揃えられた。


世界中のファッション界を震撼させた大事件を巨匠が巧みな手腕で映画化した、見応え十分のエンタメ大作だ。

<『ハウス・オブ・グッチ』公式サイト>

https://house-of-gucci.jp/

<『ハウス・オブ・グッチ』予告編>

https://www.youtube.com/watch?v=QHhHpK3TJHg

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