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なぜ、アメリカ式教育は「緩い」のに、アメリカという国はイノベーティブなのか(1)

先日、マレーシア在住の編集者・文筆家で『子どもが教育を選ぶ時代へ』の著者である野本響子さんとお話する機会がありました。

イギリス式カリキュラムを中心に、アメリカ式、カナダ式他さまざまな教育カリキュラムを採用したインタナショナルスクールが180校以上もあるマレーシア。その地で10年以上、多種多様の学校や生徒・保護者への取材を重ねてきている野本さんと、

なんでアメリカ式の(小学校・中等教育学校の)教育システムは「緩い」のに、アメリカの大学のレベルが高かったり、創造的で革新的なものはアメリカで生まれたりしているのだろうね。

という話になりました。


🏫「緩い」のに結果はスゴい。アメリカってどうなってるの?


比較的ゆるく小中学校時代を過ごしているように見えるアメリカ式教育。

でも、ご存じのように、大学になると世界のトップランキングには上位にアメリカの大学がズラリと並び、経済・産業の面でみても世界の時価総額ランキングでは上位のほとんどがアメリカ企業であるのが現実です。

MIT、スタンフォード、ハーバード、カルテック…世界トップ10大学のうち半分がアメリカの大学(QS World University Rankings 2023)


世界トップ15企業のうちほとんどがアメリカ企業(https://companiesmarketcap.com/)


いったい、どのタイミングでどのようにアカデミック面が伸びるの?
誰が伸ばしているの?
それとも、アカデミック面以外のなにかあるの??

という疑問がわいてきます。

そこで、アメリカと日本の教育を両方知り、3人のお子さんが現在高校生と大学生、という海外進学生の親系ブロガーであるゆたかさんと、その三男のYさん(17歳)にお話を伺い、疑問の答えの糸口を探してみることを試みました。

長いため、連載記事(おそらく5回連載+)になります。続きが気になる方はどうぞ、しおりがわりに「スキ」「フォロー」のボタンを押しておいてくださればと思います


🏫アメリカ→日本→そしてアメリカの高校へ


3人の男の子の父親であるゆたかさん

長男・次男は双子で現在大学4年生。二人はアメリカ東海岸のボーディングスクールを経て、今はそれぞれが、入学難易度が高く優れた教育を行っているとして国際的に知られるアメリカの大学に通っています。

そして今回お話をうかがう三男のYさん(17)は、現在高校3年生(アメリカの高校は4年制なので、来年大学受験の学年)。Yさんもお兄さんたちの背中を追いかけるようにして15歳の時に単身アメリカに渡り、東海岸に所在する伝統あるボーディングスクール(男子校)に入学しました。

Yさんは、父親であるゆたかさんの海外赴任を理由に幼稚園から小学校3年生までをアメリカの公立小学校で過ごし、その終了に合わせて日本に帰国、小学校中学年から中学3年生1学期までを日本の公立小・中学校で過ごしています。

中学2年生のときにお兄さんたちの影響からボーディングスクール受験を決意し、そこから受験に備えて勉強し、エッセイを書き、面接を経て、最終的に複数の受験校から合格を獲得。合格校の中から家族で話し合って進学先の学校を選び、中学3年生の秋(アメリカの高校1年生の新学期)から現在のボーディングスクールに通っている、という経緯です。

そのように、アメリカ(公立)→日本(公立)→アメリカ(私立)という遍歴をたどったYさんと、その父親であるゆたかさんのお話から、アメリカの教育の姿を見せていただこうと思います。


🏫毎日が充実。アメリカのボーディングスクール生


現在は日本在住のゆたかさん、アメリカ在住のYさん、カナダ在住の私、と三元でつないだZOOMでのインタビュー。アメリカは貴重な週末の夜にも関わらず快く取材に応じてくれたYさんは、

「すみません、ゴルフをしていて少し遅れました」(といっても5分以内。とても礼儀正しい…)

と、夜のキャンパスの灯りの下でもわかる日に焼けた健康的な姿をZOOMに現し、爽やかな笑顔を見せてくれました。

高校生らしいTシャツとキャップスタイル。
Yさんのいかにもスポーツマン、といった雰囲気から、何かスポーツをやっている?と訪ねると

「今は、ラクロスと陸上とアメフトをやっています。サッカーとバスケも高校1~2年生のときにやっていました」

と答えます。

ラクロス・陸上・アメフト? そんなにたくさんのスポーツをいっぺんに!?
と、日本の常識から考えると驚くところですが、北米やイギリスの学校ではスポーツはシーズン制。いっぺんに全部やるわけでなく、季節によって取り組むスポーツ(学校が授業やクラブ活動として提供するスポーツ)が変わります。〇月~〇月はバスケット、〇月~〇月はサッカー、といった具合です。そのため、一人が複数のスポーツのクラブに所属するのは珍しいことではありません。

正式に所属するクラブの他、今日のように趣味としてゴルフをするなど、Yさんは余暇は友達とスポーツをして過ごすことが多いそう。Yさんのルームメイトは「ハンティング(狩猟)」を嗜むとのことで、さすがアメリカ!といった感じです。

充実した毎日を送っている生き生きとしたアメリカのティーンエージャー、というのがYさんの第一印象でした。


🏫学生視点で語る「アメリカの名門ボーディングスクールってこんなところ」


さっそく学校の様子を伺います。まずは授業について。

Yさんは「アメリカでも中学校までは日本と同様、ほぼすべてが必修科目」で、「高校生からは選択科目が多くなり、好きな教科が選べる」と教えてくれました。そして、特徴的なのは主要な教科はレベル別に分かれていて、科目を選べると同時にレベルも選べる、ということ。

例えば、数学や英語など受講者の多い必修の授業は、ハイレベルな「Honors(オーナーズ)クラス」と普通の「Regular(レギュラー)クラス」、さらにその上の「AP(Advabced Placement:アドバンスト・プレイスメント)」等に分かれていて、得意だったり「頑張りたい」と思う生徒は科目ごとに「Honors」のクラスを履修することができます。
(Yさんの学校は私立校ですが、アメリカの公立校でもこのようなレベル分けクラスが用意されています)

日本の高校では、「偏差値の高い学校」の授業は全教科がレベルが高く、「普通の学校」は全教科が普通、というように、習熟度別のクラスをもつ学校も一部はあるものの一般的ではなく、一部の芸術系科目の選択教科以外は一つの学校の中では全員が同じ授業を取ることが一般的。私立校などで「特進コース」と「一般コース」などとしてレベル別の授業を提供していたとしても「一般コース」の生徒が「特進コース」のクラスをひとつだけ取る、といったことも耳にしません。

一方、

「アメリカでは、偏差値という考え方がないため、私立校であってもレベルの高い学校・一般的な学校、と別れているのではなく、1つの学校の中に『レベルの高いクラス』と『一般的なクラス』があるから、入学後に選ぶ自由があります」

とYさんは語ります。
そして、自分はできる限りのハイレベルなクラスをとっていて、その「選べる自由」を100%活用しているのだ、と笑顔を見せます。


🏫「誰でも入学可能」な高校でも「ハイレベル」な授業が受けられる理由


なお、アメリカでは高校までが義務教育であるため、私立校に行くのでなければ、アメリカ人なら誰でも近所の公立高校に無試験で入学できます。私の住むカナダでも同様です。

偏差値という考え方がなく入学試験もありませんが、やはり「学力レベルの高い生徒が集まる学校」「そうでない生徒が多い学校」の差はあります。それはすなわち、その学区に住む住人の質の差になります。

端的に言って、親が高学歴だったりお金持ちだったりする場合は子どもの教育にも熱心なので、そういった地域・高級住宅街にある公立校はレベルが高い傾向があります。また一般的に、北米には寄付やボランティアの文化があるため、お金持ちは我が子の学校に寄付やボランティア等の協力を惜しみません。そのため、学校のリソースが充実し、ますます得られる教育のレベルが上がります。

ただし、みんながみんな、「少しでもレベルの高い学校へ行きたい!」と躍起になることはあまりありません。もちろんそういう人も中にはいるでしょうが全員ではありません。それは、Yさんの言うように、公立校においても「1つの学校の中に『レベルの高いクラス』と『普通のクラス』がある」ので、誰でも「置かれた状況の中でより高い努力をする」ことができ、またその努力は正当に認められるためです。また、学区内に家がないとそもそも通えない、学区内でも交通手段の面から通えない、などの理由もあるでしょう。


🏫「High Standard(高い基準)に馴染みたい」


Yさんの通う、伝統的ボーディングスクールの話に戻ります。

ハイレベルなクラスを取ることを「選べる自由として」行っていると語るYさん。
しかし、「Honorsクラス」等を多くとれば当然勉強が忙しくなるわけですが、「普通のクラス」でラクをしたい、とは思わないの?という質問にYさんは、

「(尊敬する)先輩たちの背中を見て、自分もHigh Standard(高い基準)に馴染みたいと思ったし、『Honorsクラス』には学年成績トップテンの子たちもいて刺激されるので」

とキッパリ言いきります。

17歳にして「高みに自分を置きたい」というそのモチベーションは、いったいどこから来るのでしょう。
その質問に対しては、

「期待にこたえたい、って常に思っています。僕を受け入れてくれたアドミッション(入試担当)の人をがっかりさせたくないし、アメリカに行かせてくれた両親、応援してくれている人、僕を知って声をかけてくれる学校の先生や先輩…。なんていうか、そういう人たちにGive back(恩返し)したいといつも思っています」

と語ります。

「それに、計画的にクラスをとっていけば、数学・英語・スペイン語などの必修科目を3年目までに終わらせることができます。すると4年目は興味のある科目だけを取れる。環境学、会計学、ビジネスなど、日本の高校にはあまりないような授業もたくさんある。自分の興味のある事だから楽しいし、やりがいがあります」

と意欲を見せるYさん。

「人は、どんな人が周りにいるかが大事」とよくいわれます。これほどの意欲を出させてくれる環境こそが、建学の理念に基づき長い歴史をかけて築いてきた伝統の校風を持つボーディングスクールの魅力なのだ、と思わされます。

学校を作っているのは「人」。
そんな環境を作る先生、また先生と生徒の関係はどのような感じなのでしょうか。

次回は、そうしたアメリカの伝統的ボーディングスクールの先生について、学生目線で語るYさんの意見についてのお話からスタートします。

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🏫今回のまとめ


世界のトップ大学、トップ企業はアメリカばっかり

☑アメリカの名門ボーディングスクールの生徒はスポーツをたくさんしている

☑アメリカの高校は1つの学校の中に「ハイレベル」と「普通レベル」のクラスがある(学校自体に対する「偏差値」がなく、さまざまな「偏差値」の学生が同じ学校にいる)

ハイレベルなボーディングスクール受かるような生徒は前向きで性格もイイ!

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なぜアメリカは、教育は「緩い」のにイノベーティブなのか|Yuriko | 教育移住ライター|バイリンガル海外子育て4年目☕|note

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