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戸森しるこ/作、結布/絵『トリコロールをさがして』感想

戸森しるこ/作、結布/絵『トリコロールをさがして』ポプラ社, 2020


あらすじ

小学四年生の真青は、二歳年上の幼馴染・真姫が大好き。
二人はいつも一緒に過ごしていたのに、六年生になってから真姫が変わってしまい距離ができたと感じていた。
真姫が離れてしまう事が寂しくて、ずっと一緒にいようとするほど、二人の距離は開いていく。
成長の早い子ども時代、真青は真姫との関係に悩みながら前に進んでいく。


感想

真青の一人称で語られる物語は、真青と真姫の関係を中心に、真姫が憧れているデザイナー・羽田瑞樹の娘・真白も絡みながら、新たな関係へと踏み出していく子どもたちの変化が丁寧に描かれていました。

デビュー作『ぼくたちのリアル』でも感じられる、自分への劣等感や他者に対する憧れや妬みなどの感情、それらが他者とのやり取りを通じて自身の中で紐解かれていく感覚が、物語の中で自然に描写され、考えさせられる内容ながら、最後には気持ちよく読み終わることができます。

個人への依存とその依存からの脱却についてをメインテーマに、個性的でいたい、みんなと同じでいたい、それぞれが感じる必ずしも言語化できない心情をリアルに感じる描写は、ストレートであるため対象となる主人公たちと同年代の子達にも伝わりやすく、同じ悩みを抱いていると言語化による救いと同時に苦しさを感じてしまう可能性もあります。

この感情は子どものころ特有の問題ではなく、大人になってからも、形は変われど誰もが経験する事だと思います。

そのような時に、変に鬱屈せず真っ直ぐにテーマが書かれている児童書は、大人になって捻くれた自分の心にも真っ直ぐに届いてくれます。

随所で挟まれるイラストも暖かみのあるタッチで物語の雰囲気を丁寧に伝えています。

ストーリー展開も好みな傑作でした。オススメです。

戸森さんは、上記に書いた二冊の他にも、『十一月のマーブル』や『ゆかいな床井くん』、『レインボールームのエマ』など、他にも面白い本をたくさん書いているオススメの作家さんです。


うれしいようで、さみしいようで、胸のところがきゅっとなる。これはなんていう名前なのだろう。
 変わるのは苦しいけど、悪いことではないって、瑞樹さんはいっていた。もしかして、なにかが変わるときに、人はこういう気持ちになるんじゃないかな。
 苦しかった。
 苦しかったよね、真姫ちゃんだって、きっと。

戸森しるこ/作、結布/絵『トリコロールをさがして』ポプラ社, 2020, p.146


参考文献
・戸森しるこ/作、佐藤真紀子/絵『ぼくたちのリアル』講談社, 2016

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