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笹沢左保『結婚って何さ』(1960)紹介と感想

笹沢左保『結婚って何さ』徳間書店, 2022


あらすじ

上司に理不尽に叱られた遠野真弓と疋田三枝子は、その場で会社を退職した。
その日は飲み潰れてやろうと入った三件目のバーで、見知らぬ男と一緒に飲む事になり、流れで三人で旅館へ宿泊した。
しかし、次の日の朝には男は首を絞められ殺されていた。
部屋の鍵はかかっており、犯人として捕まる事を恐れた二人は現場から急いで逃げ出す。
事件を追うための僅かな手掛かりは、男が持っていた名詞と切符だけ。
次々と現れる疑惑の死の先にある真実とは……。


紹介と感想(ややネタバレととれる記述あるかも)

著者初期のサスペンス小説になります。
物語のテーマに、犯人像やトリックがしっかり噛み合っており、巻き込まれ型サスペンスとしての疾走感が感じられ面白かったです。

文章の読みやすさやスピード感もあり、物語は真弓の気持ちに寄り添いながら最後まで一気に突き進みます。

事件に巻き込まれた主人公が、司法の手から逃れながら真相を探るサスペンス小説ですが、手掛かりがしっかり作中に記載されているため、読者にも推理可能なもので納得感があります。

執筆が1960年であるため、文中の言葉や価値観に昭和を強く感じる部分はありますが、ある意味では現代でも大きく変わっていないのではないかと思う部分もありました。

作中、何度も男女関係や結婚や子どもと大人の違いについて真弓が考えをめぐらす場面があります。
そして真弓が辿り着く「結婚って何さ」という呟きの哀しさに、今回の事件の全てが詰まっていました。

今回、徳間書店の「有栖川有栖選 必読!Selection」で読みましたが、有栖川有栖による作品情報や解説が、作品理解に良かったので、著者の本を読む際には次回もこのセレクションの中から選びたいと思いました。

「大人達の方が割り切ってるな。あたし達には割り切れない。だから苦しむ。苦しむと大人達は無節操だとか非常識だとか非難するのよ」
「そう。あたくし達は諦めによって割り切っているのかも知れませんわね」

笹沢左保『結婚って何さ』徳間書店, 2022, p.106
真弓と旅先で出会った女性・早苗との会話より

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