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アリ・ボール主演『モンパルナスの夜』(1933)紹介と感想


あらすじ

伊達男のフェリエールは、酒場のツケも払えない程の一文無しだった。
「叔母のヘンダーソンが死ねば10万フラン出すのに」と冗談で言っていると、「叔母殺し、10万フランで請け負う」と書かれたメモが足元に落される。
ある夜、ウルタンは何者かの指示通りにヘンダーソン夫人の家へ忍びこむと、夫人が殺されているのを発見する。
そこに、指示を出した男が現れ、「殺したのはお前だ」と告げる。男は「俺に任せて逃げろ」と更なる指示を出し、ウルタンは指示に従う。
次の日、メグレ達は捜査を開始すると、手形にゴム靴の底と次々に証拠が見つかる。
実家へ潜伏していたウルタンは逮捕されるが、メグレには彼が犯人とは思えない。
そこで、一計を案じウルタンが逃亡するように仕向けるのだった。
逃げるウルタンと追う警察。果たして、事件の裏にはどのような悪が潜んでいるのか。

紹介と感想

メグレ警視の映像化3作品目となる映画です。
映画は原作から構成を大胆にアレンジしています。

物語は原作の最終盤で明かされる事実から始まります。
視聴者は、フェリエールが文無しであること、何者かがフェリエールの望みを叶えるために殺しを請け負ったこと、ウルタンが侵入した際には殺人が行われていたこと、ウルタン以外の人物が真犯人であることを分った状態でメグレ達の捜査を見ていく事になります。

そのため、原作に感じた、前半は死刑まで間が無いウルタンと警察の追いかけっこがどこに向かうのか息詰まる空気のなか見守り、ラデック登場以降はメグレ対ラデックの攻防を眺めながら事件の真相が少しずつ開示されていくのを楽しむのとは違った視聴感となっていました。

映画は、ウルタンの逮捕前の捜査や逮捕後のウルタンを交えて行われる現場検証、原作ではミステリ的な驚き以上の存在ではなかったフェリエールとエドナに描写を追加したりなど、原作以上に普通に警察ドラマをしている感じがあります。

ウルタン逃亡後からは、すぐにカフェの場面に移動し、ラデックの登場となります。ラデックの世間を憎みながら嘲笑っている様子、人に話さなければ自分を保てない様子が良く描かれていました。だからこそ、一人の女に執着する感じが、個人的には減点になってしまいます。

アリ・ボールのメグレは、ウルタンを逮捕した時点で殺人犯は別にいることを見抜いており、理知的な所を見せます。風貌は、現在想像されるメグレ像とは少し違い、口ひげがあることもありどこかの警察署長と言っても良いような感じですが、映画が進んでいくとメグレに見えてきました。

脱走後からのウルタンの存在感の薄さや、後半の展開に少し蛇足感があるなど、幾つか不満点もありますが、結構楽しんで観る事が出来ました。
この時代の捜査側主体で描かれた犯罪物が好きな人や、2時間警察ドラマが好きであれば面白い内容だと思います。

映画概要

題名:モンパルナスの夜 La tête d'un homme
原作:ジョルジュ・シムノン『男の首』(1931)
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
脚本:ピエール・カルマン/ルイ・ドラプレ/ジュリアン・デュヴィヴィエ
製作:フランス/1933年
時間:92分

キャスト
      メグレ警視/アリ・ボール Harry Baur
ステファンヌ・ラデック/ヴァレリー・インキジノフ Valéry Inkijinoff
  ジョゼフ・ウルタン/アレクサンドル・リグノー Alexandre Rignault
ウィリー・フェリエール/ガストン・ジャケ Gaston Jacquet
        エドナ/ジーナ・マネス Gina Manès
     メナール刑事/アンリ・エシュラン Henri Echourin
   ジャンヴィエ刑事/マルセル・ブルデル Marcel Bourdel


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