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『アガサ・クリスティー・アワー』(1982) 「第四の男」「マグノリアの香り」 紹介と感想


第4話「第四の男」The Fourth Man

原作:アガサ・クリスティー「第四の男」(1925)
   早川書房『死の猟犬』所収
脚本:ウィリアム・コーレット
演出:マイクル・シンプソン

あらすじ
エジンバラ行の夜行列車のコンパートメントの中に、医者のクラーク、弁護士のデュラン、宗教関係のパーフィットに、もう一人の男と4人が乗っていた。
クラークは、デュランとパーフィットに自身の公演のテーマである二重人格について話していた。
すると、四人目の男・新聞記者であるラウルが、クラークの理解の仕方は間違っていると口を挟んだ。
そこから、フェリシーと言う、自分で自分の首を絞め死んだ二重人格の女性の話が始まった。
ラウルはフェリシーと友人だった。彼は、フェリシーの死は殺人だったと言い、フェリシーとアネット、二人の少女との過去を語り始めた。


紹介と感想
フェリシーとアネットという、二人の少女の人生と、複雑な感情を描いたサスペンスです。
原作ではラウルが語る物語を映像として再現しており、二人の少女の歪さがしっかり描かれていました。

フェリシーとアネット、二人はあまりにも正反対でした。
フェリシーは力強くて健康、人当たりが悪く不器用。アネットは、ひ弱で病弱、明るく美人で高慢でした。
アネットは、フェリシーを見下し、下僕のように扱いましたが、フェリシーはアネットの傍を離れませんでした。

結核が悪化して死の間際に居たアネットは、生に執着したまま死んでいきました。
そこから、フェリシーの中にアネットのような人格が出現したのです。

果たして、これはアネットを理想化していたフェリシーが、アネットが居なくなったために崇拝の対象を失い人格を創り出してしまったのでしょうか。
それとも、アネットの生への執着がフェリシーに乗り移ったのでしょうか。
研究者たちに注目を集めようとしていると見えたのは、アネットが注目を集めようとしていたとも言えます。

物語は、多重人格なのか、アネットが乗り移ったのかに答えを出すことなく終わります。
もう一つの人格に苦しみ、死まで選んだフェリシーの哀しさが胸に残る切ないサスペンスです。

出演
  ラウル・ラウルド/ジョン・ネトルズ
      デュラン/マイケル・ガフ
    パーフィット/ジェフリー・チェイター
      クラーク/アラン・マクナータン

ラウル(子ども時代)/ロイ・ライトン
     フェリシー/フィオナ・マティーソン
      アネット/プルー・クラーク


第6話「マグノリアの香り」Magnolia Blossom

原作:アガサ・クリスティー「白木蓮の花」(1925)
   早川書房『マン島の黄金』(クリスティー文庫版)収録
脚本:ジョン・ブライデン・ロジャース
演出:ジョン・フランコー

あらすじ
リチャード主催のパーティに招待されたビンセント。
庭でマグノリアの花を観ている所、リチャードの妻であるセオに声を掛けられる。
リチャードは、何らかの意図をもってビンセントをもてなすようにセオに頼んだようだ。
しかし、そんなことは関係なくビンセントとセオの距離は近くなる。
既にリチャードへの気持ちは冷めているセオは、ビンセントに惹かれ駆け落ちを決意する。
しかし、辿り着いたホテルでリチャードの苦境を報じた新聞を目にして……。


紹介と感想
自分が感じる愛よりも、義務と責任に報いようとするセオだったが、浮気を繰り返しながらも自分を愛してくれていると思っていた男の不実な心を知ってしまう物語です。

アガサ・クリスティーの映像化と聞いた時のイメージとして、シリーズ全10話の中で最も意外な選択の話しかもしれません。

原作よりもテオの内面が描かれたり、リチャードの嫌な奴ぶりが分かりやすくなっています。
実家への抑圧から深く考えずに結婚してしまい、その違和感をずっと抱えながら暮らしてきたセオ。

リチャードは正直どうしようもない男だと思いますが、セオもある意味では欺瞞を持ち続けて生きてきました。

若い頃の近視眼的な選択が、未来の自分を傷つけることもある。
そんな物語だったのだと思います。

出演
   セオ/キアラン・マデン
リチャード/ジェレミー・クライド
ビンセント/ラルフ・ベイツ


ドラマ概要

題名:THE AGATHA CHRISTIE HOUR
製作:テムズ・テレビ/イギリス/1982年
話数:全10話
時間:51分

01.中年夫人の事件 The Case of the Middle-Aged Wife
02.仄暗い鏡の中で In a Glass Darkly
03.車中の娘 The Girl in the Train
04.第四の男 The Fourth Man
05.不満軍人の事件 The Case of the Discontented Soldier
06.マグノリアの香り Magnolia Blossom
07.青い壺の秘密 The Mystery of the Blue Jar
08.赤信号 The Red Signal
09.ジェインの求職 Jane in Search of a Job
10.エドワード・ロビンソンは男なのだ The Manhood of Edward Robinson


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