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野村胡堂『銭形平次捕物控』第6話~第10話 紹介と感想

野村胡堂『銭形平次・青春篇』講談社, 1996


第6話「復讐鬼の姿」(『オール讀物號』1931年9月号)

あらすじ
与力・笹野新三郎の子・新太郎と臆病者の使用人・勇吉の前に磔柱を背負った男が現れた。
その後も、次々と不思議な怪異が起こり始め、新三郎の妻・お国に相談された利助は、使用人のお吉を捕まえる。
しかし、新三郎が家を空けている間に、新太郎と行儀見習いで奉公に来ていたお静が誘拐される。
さらに、笹野新三郎の命まで狙われる事態に、平次が命懸けで駆け回る。

紹介と感想
派手な事件が多い初期の中でも特に派手な事件であり、笹野新三郎の命まで狙われます。
今回は平次の出番も控えめなため、八五郎の出番もお休みです。
サスペンスに溢れており、その疾走感で読ませる物語でした。

レギュラー:お静、笹野、利助
投げ銭:あり

映像化
 嵐寛寿郎・主演 第2作『復讐鬼の姿』(1933)※未見
  監督:山本松男 脚本:吉田信三
  出演:淡路千夜子、今成平九郎、嵐徳三郎ほか
  ※登場人物に風太郎がいるため、第3話の要素もあるかも


第7話「お珊文身調べ」(『オール讀物號』1931年10月号)

あらすじ

八五郎と平次も参加した文身自慢の会を騒がした、腹に蛇の文身をした男と体中に十二支の文身をした女。
平次は、何かしら騒ぎが起こるだろうと検討を付けていたとのこと。
どうやら、十二支組の一味が次々と殺されている事件と関係していると狙いをつけ、調べの為に顔を出したらしい。
十二支組の生き残りは残り三人。
奇妙な発端と、そこから推論された平次の鋭い着眼が事件を解決へ導く。

紹介と感想

初期平次なので、石原の利助がまだまだ元気に活動しています。
意外な犯人ですが、読者が謎解きをするという内容ではなく、八五郎の調べで犯人は見つかります。
見どころは、出番も多く、意外とちゃんと仕事をしている、でも少し可哀そうな石原の利助になります。
平次に文身が!となりますが、もちろん平次なりの作戦でした。

レギュラー:八五郎
投げ銭:なし

映像化
 大川橋蔵・主演 第1話「おぼろ月夜の女」(1966)
 北大路欣也・主演 第1シーズン 第16話「十二人の盗賊」(1991)


第8話「鈴を慕う女」(『オール讀物號』1931年11月号)

あらすじ
徳蔵稲荷へ参拝に行こうとしていた平次は、前を歩いている浪人の更に前を歩いている若い女を尾行するように八五郎へ命じる。
若い女の袖の先に血が付いており、徳蔵稲荷の門前で売っている素焼きの狐が落ちた際に、割れた尻尾に見向きもせずに行ったことが気になったのだ。
平次は、一足先に徳蔵稲荷へ行ってみると、そこには堂守の仁三郎が惨い手口で殺されていた。
一方、八五郎は女に尾行を見破られ、先程の浪人が近くにいたため腹いせに尾行をするが、それも見破られ、最後は平次に怒られた。
堂守殺しの方は皆目見当がつかなかったが、拝殿の鈴が無くなっているのを糸口に平次は捜査を進めていく。

紹介と感想
物語としても動きがあって面白く、ミステリーとしても単純ながら推理の手がかりがサラッと記載されているため納得感があり、初期作の中でもお気に入りの一編です。
平次も八五郎も失敗することはありますが、災い転じて福となすこともあるという物語でした。

レギュラー:八五郎、笹野(地の文のみ)、利助(地の文のみ)
投げ銭:あり

漫画
石森章太郎プロ シナリオ:大石賢一
 第2話・第3話「鈴を慕う女」

エピソードの見せ方の違いはありますが大筋は原作通りに進行します。
しかし、要所要所で平次が犯人に襲われ、八五郎の生死はいかに!という引き、お静の命も危うし!という盛り上がりなど、漫画的な見せ場が追加されています。
また、この漫画シリーズは最初から万七と清吉が居るため、利助親分は出てきません。


第9話「人肌地蔵」(『オール讀物號』1931年12月号)

あらすじ
黒木長者の土塀の外にある地蔵が、何時からか早朝に人肌まで暖まっているということが発見された。
しかも、青銭が一分金に変わることもあるとあって、途方もない人気となった。
欲張りで有名な黒木長者・孫右衛門は地蔵を自分の邸内、土蔵の裏木戸があった所へ移動させる。
その次の日、孫右衛門の土蔵が破られ三千両が盗まれてしまった。

紹介と感想
初期作では珍しく物理的なトリックを使った展開になります。
しかし、根本にあるのは今までと同じく人情譚になり、もちろん縮尻平次は健在です。
少し分かりづらいトリックですが、事件を二段構えにしたり工夫がみられており面白く読めました。

レギュラー:八五郎
投げ銭:あり

漫画
木村直巳 第10話「人肌地蔵」

万七親分が登場して二人で協力するだけでなく、仲良く湯船に浸かる姿もみられます。
物語は、骨格を利用しながら展開の仕方が大きく変わっており、盗みに際してのトリックもなくなっています。人情譚として面白い作りとなっていました。


第10話「七人の花嫁」(『オール讀物號』1932年1月号)

あらすじ

祝言の席で次々と拐かされる花嫁。
八五郎に利助、平次までもが、その目の前でさらわれてしまった。
平次はお静との祝言を早めて犯人を見つけ出そうとするが、お静まで拐かされてしまう。
果たして平次はお静を見つけ、事件を解決することができるのか。

紹介と感想

平次二十七歳、お静十八歳の時に起こった年明けの事件です。
利助との和解も描かれる、初期平次の完結編とも言える内容となります。
ミステリーとしては、読者が謎解きをするような内容ではありませんが、平次が何に気づいたかはしっかり明示してくれます。
今作の見どころは、やはり、ここまでの総決算として、お静が過去の事件を振り返って母親を説得したり、捕物の場面で利助が駆けつけたりという連作物語としての盛り上がりにあります。
単発で読むより、初期の話を読んだ後に観ることで面白さが増幅するタイプの話になるので、事前に九話目まで、少なくとも第一話「金色の乙女」と第六話「復讐鬼の姿」を読むと、より楽しく読めると思います。

レギュラー:八五郎、お静、利助
投げ銭:あり

映像化
 沢田国太郎・主演「七人の花嫁」(1932)
 大川橋蔵・主演 第14話「七人の花嫁」(1966)

漫画
石森章太郎プロ シナリオ:大石賢一
 第9話「七人の花嫁」

5年前の出来事を振り返る構成になっています。最初からお鶴が怪しいという描写が追加されており、お静が平次に知らせる方法も変更しています。
また、最後の捕物は船に穴まであけるド派手なご祝儀投げ銭ラッシュが楽しめました。


木村直巳 第2話「七人の花嫁」

「金色の処女」で平次とお静の気持ちは近づきましたが、未だ付き合う前の微妙な距離感です。そこに、利助の娘・お品が登場し、お静の気持ちがざわざわするという恋愛漫画要素が足されています。
大筋は原作と同じく進行しますが、細かな展開を変えており、お静が川へ流す品物も変更しています。平次とお静の関係にサスペンスをまぶした作品として楽しめました。



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