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大瀧純子『女、今日も仕事する』

大瀧純子『女、今日も仕事する』(ミシマ社)

「ワークライフバランス」「自己実現」「バリキャリ」…どれもピンとこない女性たちへ

と書かれた帯とシンプルな装丁に惹かれて読んだ。

本書は著者の経験・苦労を通して女性の理想の働き方を説いた一冊である。これまで「たたかう読書」と称して自分の生き方働き方を模索するために読書をしてきたが、本書ほど「しっくりきた」ものはなかった。
母子家庭で育ったせいか、自分が母親になっても「専業主婦」という選択肢は考えられず、かと言って独身の頃と同じようにガツガツ働けるのか?と考えると「無理?!いやできる?!かも…(とにかく弱気)」と思う。世の中は「マタハラ」とか「モラハラ」とかが蔓延しているみたいだし…子どもがいても働きたいわたしはどうすればいいのー?と悶々とする。独身のうちからこんな不安にかられる。
わたしと同じ考えの女性は数多くいるだろう。そんな女性たちは著者の苦労に裏打ちされた「理想の働き方」像に、深く頷けるはずだ。

「えー、嘘でしょー?」
妊娠を報告したときの、上司のひと言です。(中略)
「……はい。でもぎりぎりまで働きますので」と、私はつとめて明るく答えました。
たとえそれが翌年であったとしても、同じことを言われたはずです。働く女性が妊娠する「ベストなタイミング」なんて、じつはない。あるとしたら、その人はそもそも戦力外で、会社としても円満に退社してくれるのを望んでいた、というような場合だと思います。
(17頁 第一章「女、仕事する」)

ひー、これです、わたしが恐れていることは!!はじめから厳しい現実をつきつけられる。著者は男女雇用機会均等法が施行されて間もない頃に就職しているため、風当たりがとにかくキツい。著者は数回の転職を経てとある会社の社長になるのだが、それまでの著者の苦労が余すところ無く語られる。産後うつになったり、勤めていた会社を途中でクビになったり、苦労が絶えない日々が語られるが、理解ある夫に支えられているところが大きいようで、働くために理解あるパートナー、協力者は必須だな…と改めて思う。

協力者に支えられながらがむしゃらに働き、著者が行き着いた理想は、女性ならではの「細やかさ」「しなやかさ」を追求したものだ。

女性にはやっぱり知恵がいると思うのです。(中略)
先にふれたように、私もかつて男女差別を感じて会社を辞めたことのあるひとりですが、そのルールを変えることはとても困難で、そこに真正面から立ち向かっていっても、自分ばかりが消耗してしまいました。同じ女性であっても、そういう現状を仕方ないと諦めている人も多く、ひとりきりのレジスタンスになる場合も多いのです。
でも、もし、こういう社会で息苦しさを抱えている人がいたら、「その気持ちや男性社会への違和感をなくさないで」と伝えたい。「そう感じているあなたは間違っていないし、その感覚は忘れないで」と。
それと同時に、男性と同じ土俵にあがって、この人を言い負かさなくちゃいけないとか、男性以上にバリバリ働いて必死に偉くなって、女だからって何か言われないようにするとか、そういうパワーゲームに乗らないということが、女性の知恵として大事なのではないかと思います。
(30頁 第一章「女、仕事する」)

ついついパワーゲームにのっかり、身体の疲れがとれなくて、休日は寝たきり…ということしきりのわたしにとってグサリとくる引用である。
やわらかく頭を使うこと、考えたことを実行する勇気が、働く女性の息苦しさを救う突破口になるということに深く頷き、これからの時代の働く女性に必要な考え方だと思った。

最近、ワークライフバランスという言葉をよく耳にします。(中略)
背景には、「仕事は九時から五時まで。そのあとはプライベートの時間」というふうにはっきり区別しないと、自分の暮らしや人生が脅かされてしまう、つまらない仕事人間になってしまう、自分らしい豊かな人生が送れない、という考えがあるようです。
朝九時から夕方五時まで必ず社内に在席し、逆に帰ったら仕事は一切やらない。育児期間中は退社時間を切り上げて夕方四時まで、などの措置が多くの会社でとられていると思いますが、子育てをしながら働く女性にとっては、それは必ずしも成果の出しやすい望ましい働き方ではないと思うのです。(中略)
「夜でも必要があったら遠慮なく連絡してください、メールくらいなら打てますよ。でも、昼間の時間も必要があったら子どもの用事で出かけさせてください」とか、あるいは「子どもの保護者会があるので、今日は二時で帰ります。その代わりに家で明日の資料、完成させておきますね」というほうが働きやすい人も多くいると思うのです。(中略)
もちろん難しい職種もあります。ただ、会社、個人、双方が少しずつ融通を利かせて、知恵を出し合って、柔軟性をもって考えていけば、今よりもっといろいろな働き方や時間の使い方ができるようになります。
(132頁 第六章「女の仕事、七カ条」その2 ワークとライフを分けない)

引用が長くなったが、この部分は目から鱗が落ちる気分だった。会社組織のしがらみがあるため、柔軟な働き方はなかなか浸透しにくいだろうとは思うが、この働き方を理想に、できることからコツコツと交渉をすることが大事だ、と著者は言いたいのではと感じた。

柔軟な働き方をすること、協力者と支え合い生きていくことは簡単なようで難しいが、著者は困難な状況であっても思い切って持って行動することの大切さを説いている。「女、今日も仕事する」という本書のタイトルは、「いつも通り」というニュアンスが感じられる。この言葉通り女性が働くことが「いつも通り」になることを願って、そうなるために社会が適切に動いていくように、という願いが込められているのだろうと思う。そして著者は「いつも通り」に働き、理想を体現している女性のひとりとして日々奮闘しているのだ。

本書は不安にかられる働く女性たちにとって、強い味方となる一冊である。本書の理想を胸に仕事を頑張りたい、と思わせてくれた一冊だった。

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