桐野夏生『グロテスク』

桐野夏生『グロテスク(上)(下)』(文春文庫)

9月はだいぶんおさぼりモードで、お久しぶりのnoteになりましたm(_ _)m
シルバーウィークに伏見稲荷大社でおみくじをひいたら「焦らずにコツコツ努力しなさい」というお告げが出たので、引き続きコツコツゆるゆる更新していきます。

本書は「アメトーーク」の読書芸人で光浦靖子さんが紹介していた一冊。
都内の名門私立女子校が舞台で、とある少女(のちに成長するが)の悲劇と不条理な現実が描かれている。

今昔問わず、経済力の有無は人生に影響を及ぼす。
今昔問わず、見た目の美醜は人生に影響を及ぼす。
「自立心」を教育のモットーとしたことで奇しくも現実の厳しさと不条理が露わになり、まるで実社会の縮図のような環境になってしまったのが、舞台となる名門・Q女子高等学校である。
名門私立ということもあり、Q女子高には相当の学力と経済力が無ければ入学不可能。そんな学校に念願叶い入学する女子生徒たちは鼻高々な気分で校舎に入っていくが、そこは実社会よりもある意味で厳しい"階級社会"が普及していた…。

女子の争いは目に見えた暴力こそ無いが、心の中では血みどろの殴り合いが頻繁している。初等部から大学まであるエスカレーター式のQ女子高の序列は「入学が早い順」であり、初等部組が最上級、高等部から入学組が底辺という図式が完成していた。高等部組はその図式にすっぽりとはめ込まれるしかなく、高等部組は入学して数週間で高々な鼻っ柱をへし折られるのである。
高等部組は悔しさの余り、時間は取り戻せないのであれば学力で優位に立つしかないと躍起になるも、学力では中等部からの入学組という中位層に歯が立たず、高等部組はここでプライドを滅多打ちにされてしまう。

しかし、高等部組でも学内ヒエラルキーで上位層になれる"特例"がある。それは「飛び抜けて容姿が美しい人」である。

物語設定だけでも惹きつけられるポイントがいくつかあるが、この物語には「怪物のように美しい」少女・ユリコが登場する。Q女子高に入学し、周囲の人間を悪魔的に翻弄するという物語は想定されるだろうが、わたしはその後の言葉通りの「グロテスク」な展開に圧倒されてしまった。

頭の中で想像することは出来るが、絶対に実行してはならないこと。実行したくないこと。もろもろ想像していただきたいのだが、とにかく他者に"堕ちた"と言われないように、人はみないろんな努力をして頭の中の地獄(なのか、悪魔なのか)を打ち消しているんだろうと思う。
作中には頭の中の地獄、あるいは悪魔が暴走して振り切ってしまった、一線を越えてしまった女性の見るに堪えない悲劇が描かれている。
わたしは彼女の悲劇に対して、正直自分も「怪物」になる潜在要素があると感じて戦慄した。

この物語は「東電OL殺人事件」という90年代に実際にあった事件をモチーフとしているが、当時のことを知らなくても充分に引き込まれる作品である(わたしはその後東電OLについて調べまくりましたが)。
自分に自信が無い人にはある意味ショック療法かもしれないが、「怪物」にならないためにもぜひこの一冊をお勧めしたい。

おまけだが、男性は『グロテスク』をどう読むのだろう、と気になって仕方がない。

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