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空飛ぶストレート

9回裏、2アウト満塁。
キャッチャーから送られるカーブのサインに、ピッチャーは首を横に振る。
呆れた表情が伝わってくるが、ここはストレート以外に選択肢はないだろう。
大きなフォームとは裏腹に、特に速くもないその球はなんなくバットの芯で捉えられた。

「打ったー!レフトスタンド一直線!逆転満塁ホームランだー!」
実況の叫びに続き、呆れた解説の声が漏れる。
「まさに『空飛ぶストレート』。なんで彼はいつも大事な場面でストレートを投げてしまうのでしょうねえ」

そう、過去のデータを見ても彼のストレートは百発百中ホームランを打たれていた。ついた異名は「空飛ぶストレート」。
マスコミでも毎日あざ笑われ、今や珍名手として国内でそのピッチャーを知らない者はいない。

ある日インタビューで「なぜそこまでストレートに固執するのか」という質問をされ、彼はこう答えた。

「野球の才能はなかったのですが、『野球選手で有名になる』という夢は諦めきれなかったのです」

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