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『汝、星のごとく』 凪良ゆう 感想(長いです)

269 暁海 私にとって、愛は優しい形をしていない。どうか元気でいて、幸せでいて、わたし以外を愛さないで、わたしを忘れないで。愛と呪いと祈りは似ている。
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感想📕

2023本屋大賞受賞作品。
やっぱ本屋大賞ってすごいんだね。

装丁が綺麗すぎてひとめぼれで買った本。
読んでみたら表面が美しいだけじゃなくて、内容や文体まですっごく綺麗だった。
ジャンルとしては、恋愛小説に入るし、軸となるのは櫂と暁海の恋なんだけど、単純にそれじゃ括れない、二人の人間の人生を描いた物語だった。
小説だし、フィクションだけど、そこにあるのは紛れもなく現実で、どこかにいる、誰かの物語だった。

櫂も暁海も苦しい人生を送っていくんだけど、個人的には櫂がとにかくきつかった。
涙もろいので、よみながら死ぬほど泣いた笑

凪良ゆうさんは初めて読んだけど、登場人物の輪郭をつくるのが上手すぎて感情移入どころの騒ぎじゃなかった。
あと細かいけど、普段は漢字表記するようなところがあえてひらがなになっていて、文体がすごく優しかった。
(星の如く=星のごとく、わたし、ぼく、ふいに、にぎりしめる、などなど、これはぜひ読んで感じてほしい。)
次は凪良さんの流浪の月を読んでみようかなと思う。

切なくて苦しくて目を背けたくなるけど、この作品から大きな勇気をもらえた。
自分にとってすごく大切な物語になった。
夏にぴったりなので、夏になったらまた再読しようと思います。
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↓印象に残ったところ↓
19-20 櫂 俺にとって物語は夢ではなく、俺を現実から連れ去ってくれる必須の手段だった。

20 櫂 俺にはよくわからない。足りないことは俺にとって苦しみや寂しさでしかない。歪なものに、歪であるがゆえの価値を与えるのは常に他人だ。

27 暁海 お酒の匂いには子供のころから慣れている。でもそれらと別種のお酒があることを、わたしは最近になって知った。陽気なお酒よりももっと強く香るのは、ひとりぼっちで飲むお酒だ。お母さんの酒量は日毎に増えて、台所の流しの下には酒瓶が増えていく。

47瞳子さん 確かに必要ないんです。けれど必要ないものを愛でる、それこそが文化です。オートクチュール刺繍はパリを代表するメゾンに愛されてきた芸術です。

56 櫂 恋をすると男がすべてになる母親の目には映らなかったのだろう。恋が最高潮のとき、息子の俺ですら母親の視界から弾き出される。いまさら腹は立たない。深く考えなければいい。欲しても与えられないものなんて最初からないものだとあきらめればいい。期待しなければいい。

74 瞳子さん 自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?
誰かに遠慮して大事なことを諦めたら、あとで後悔するかもしれないわよ。そのとき、その誰かのせいにしてしまうかもしれない。でも私の経験からすると、誰かのせいにしても納得できないし救われないの。誰もあなたの人生の責任をとってくれない。

147 暁海 もう、ふってくれればいいのに。
でも無理だろうなと思う。あのお母さんとの関係に育まれ、いろんなことを我慢して、あきらめなければいけなかった子供時代に根ざした深情けのような過剰な櫂の優しさ。それは切るべきものを切れない弱さとよく似ている。

147 北原先生 自分がかわいそうと思わなければ、誰にそう思われてもいいじゃないですか。

176 櫂 手ぶらで生まれる子供と、両手に荷物をぶらさげて生まれる子供がいる。自分を助けてくれる親か、自分の足を引っ張る親か。自分は免れていても、尚人のようにパートナーが荷物を持っていることもある。できるなら、みな身軽で生きていきたい。
中略
自ら選んだ時点で、人はなんらかの責を負う。他人から押しつけられる自己責任論とは別物の、それを全うしていく決意。それを枷と捉えるか、自分を奮い立たせる原動力と捉えるか。なんにせよ、人はなにも背負わずに生きていくことはできない。

209 櫂 絵理さんを本当に好きになれたら楽だった。けれど曉海の時のような切実感がなく、かといってその切実感が正しいとも思えない。永遠に辿り着けない場所を目指して疾走するものが恋ならば、ゆったりと知らないうちに決定的な場所へ流れ着くものが愛のような気もする。

232 北原先生 子供が親を養わなければならない義務はありません。
紋切り型の言い方に腹が立った。
そんな正論で割り切れないじゃないですか。
ええ、割り切れません。ぼくたちはそういう悩み深い生き物だからこそ、悩みの全てを切り捨てられる最後の砦としての正論が必要なんです。

263 暁海 それならぼくと共に生きていきませんか。それは愛や恋とは別の、けれど何よりもわたしを救ってくれる言葉だった。
一方で、誰とでも、なにとでも、結婚できればいいのにとも思う。男同士でも、女同士でも、ペットでも、物語の登場人物でも、理由が恋や愛以外でも、本人たちがいいなら三人でも四人でも結婚できればいい。結婚しなくても結婚と同じ保障があればいい。籍を入れなくても手術の同意書を書かせてほしい。危篤の時は病室に入れてほしい。遺産を譲りたい人だけにスムーズに譲らせてほしい。名字の変更はしたい人だけがして、しなくてもいい人はそのままでいさせてほしい。他にもある数限りない不便や理不尽がなくなってほしい。

323 暁海 会社と刺繍のダブルワークに加えて、母親の世話をしていたあのころと比べたら軽いと思える。ならば、あのころのわたしを絶望させていたことも無駄ではなかった。過去は変えられないというけれど、未来によって上書きすることはできるようだ。とはいえ、一番のがんばれる理由は『ここはわたしが選んだ場所』という単純な事実なのだと思う。


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