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時事雑感 入試の大規模な採点ミスについて。

こんばんは、しめじです。

とんでもないニュースですね。
茨城県の受験生と教員、それらにかかわる方たちには申し訳ないですが、もし自分の働く自治体だったら、もし自分の職場だったら、もし自分が採点した箇所だったら、と思うとぞっとします。

というわけで、今夜は、高校入試に対してちょっと思っていることを書いておこうと思います。

あと、所謂クソリプ防止のために言っておくと、今から書く内容をもって、「だからミスは仕方がない、教員に責任はない」という話をするわけではありません。
加えて、私の勤務する自治体における国語の試験を前提に話をします。他の教科は監督中にちらっと解答用紙なんかが見えている程度ですし、採点も当然国語にしか携わったことがないので、他の科目のことは知りません。

1 採点の利便性は一切考えられていない用紙類。

どうやら報道によると、5点分が小計に漏れていたとのこと。
まあ、採点している身からすると、一番起こりそうなミスですね。

まず、小計欄がありません
例えば縦に記号問題が3つ並んでいるとして、その3つの問題の点数の合計は、その上の余白に書く、みたいな感じになります。

それだけなら、ただ単に上に、あるいは横に書くだけでいいんですが、国語には記述問題がありまして。
で、記述問題は当然採点にめちゃくちゃ時間かかる&労力使うので、例えば国語科だけで採点するとしても、特定の記述問題はその特定の記述問題担当者だけで採点する、という割振りを行うケースがほとんどです。(脳みそに苔生えたみたいになりますよ。本当に)

単純に、その状態で記号まで採点したほうがミスるからです。
人間の集中力にも限界があるので。
しかし、問題のならびはばらばら。記述と記号と語句解答と抜き出しが混在しています。
一方で、全部の縦の列に、問題数の多寡にかかわらず小計を書いていくと、余白の数字が多くなり、それもそれで合計するときにミスを招くと、管理職から指摘されるわけです。

結果として、ちょっと離れたところの点数を目で確認して足さざるを得なくなる。
どっちの方がミスりやすいのか、そんなもんの統計を一学校でわざわざ取ることもないので(まあ、実験したうえでできれば最善ですけどね。でもやるとしたら教育委員会がすべきことですね)、どちらがいいんでしょうね。

また、抜き出し問題も30文字前後の抜き出しを平気で出してきたりもします(抜き出しですから、原則として一字一句そのまま答えないとアウトです。つまり、30文字すべてを1文字ずつ、漢字を間違えていないかとか、そういうのを見ながら採点することになります)

漢字も、

「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)について」 というオフィシャルな指針が公表されているので、これに準じて採点しろと言います。
教育委員会から配られる「模範解答、採点基準」には、そうやって一言書いてあるわけです。
そうやって書くのは簡単ですが、実際に採点するのはこちらの仕事
無論、全ての常用漢字の、考えうるすべての書き方が網羅されているわけではないので、場合によってはこれを見ながら「どっちだ・・・・?」と考えることになります。

で、この書き方はOKにした、この書き方はNGにした、みたいな膨大なメモを作りながら採点することになります。
同じように書いたのに、受験者Aは〇になっていて、受験者Bは×になっている、みたいな状況は絶対避けなければならないからです。

また、記号問題が縦に3つ並んでいて、配点が3点、2点、3点みたいなこともままあります。
全部揃えろよ、と毎回思います。

2 そもそも採点しにくい。

私の自治体の国語の問題は、かならず作文が出ます。
で、模範解答例も載っているわけですが、まあ中学卒業段階の子どものうちで、あれだけ書けるのは何人いるのよ、という代物で、実際の採点の参考にはなりません。

しかも、「具体的な体験の記述があれば〇〇点」とか基準に書いてあるわけです。
さて問題。

1 つらい経験をしたが、他人のことばで救われた。
2 つらい経験をしたが、友人の「一緒に頑張ろう」の言葉で救われた。
3 部活でつらい経験をしたが、友人のことばで救われた。
4 テニス部でくじけそうになったが、友人の「一緒に頑張ろう」の言葉で救われた。
5 部活でくじけそうになったが、友人の言葉のおかげで辞めずに最後まで頑張れた。
6 テニス部でくじけそうになったが、友人の言葉のおかげで救われた。
7 部活でつらい経験をしたが、友人の「一緒に頑張ろう」の言葉のおかげで最後まで辞めずに頑張れた。

1~7を、「具体的体験」が記述されたものとそうでないものに分けなさい。
また、分けた理由を明確に説明しなさい。

入試の国語で、作文を採点するというのはこういう作業をする、ということです。
ちなみに選択肢は1~7ではなくて、学校によっては1~300くらいまであります。
何をもって「具体性がある」というのか、高校入試は情報開示があるので、例えば友達同士二人で開示請求をして、互いの答案を見比べた時に、「なんで○○さんのは2点で、△△さんのは3点なんですか」という、その「1点」がどこから生まれたのか、全て説明できるようにしておかなければならない、というわけです。出来ているかどうかはさておき、少なくともそういうことを要求されています。

3 情報開示があることによって、ミスしやすくなる状況。

情報開示があるので、少なくとも私の自治体では、答案用紙に直接メモすることにかなりの制限がかかっています。
例えば、主語と述語がねじれている時、普段のテストなら主語と述語を〇で囲んで、線でつないで、「ねじれてるよ!」なんて書けばおしまいですが、入試の答案はそれが出来ません。
私の自治体では、生徒が解答を記入する欄内にはほぼ何も書けません。
だから、例えばこのような主述のねじれを、視覚的にわかりやすくメモしておくことは出来ないわけです。
それが二行の記述問題などであれば、欄外に線を引いてメモしたりできますが、作文問題の中ほどにそれがある場合は、ほぼ何もメモできない。

例えば、語句・語法の誤りなどの減点のルールも、教育委員会から渡される採点基準には明記されていますが、そもそもそのカウントをメモするのが難しいわけです。

4 ちなみに、8時間でやります。終わらないけど。

これを、8時間、つまり1労働日で終わらせます。
昔は、試験終了後の夕方からやってたらしいです。
だから、これについてはまだましになったのかな。

ちっちゃい学校も、おっきい学校も同じです。
ちなみに私の勤務先は450人が受験しました。
国語の答案用紙は450枚あります。

8時間で終わるはずはありません。
「仕事なんだからそれでも終わらせるのがプロだろ、これだから教員は社会を云々」言われても知りません。やれるものならやってみればいいです。どうせ無理なので。

ちなみに、終わらないとわかり切っているのに、なぜか給特法が定める超勤4項目に含まれていません。ですので、残業代は出ず、年休が余る仕事であるにも関わらず、振替休暇での対応になります。

5 共通テストみたいにしたらいいじゃん。

共通テストで記述式問題の導入が見送られましたが、まあ、こういうことです。
それを、互いにその場ですぐ確認を取りあえる同じ職場の教員同士ではなく、全国津々浦々の採点者が50万人分一律でやろうとするわけですから、まあ、無理よね。
(私が記述式導入に反対した理由はそこじゃなかったんだけど)

高校入試も、全部マークシートにしたらいいと思いますよ。
ミスないし。

もちろん、ここまで書いたことを以て、「だからミスは仕方がない、教員を責めてくれるな」というつもりはないですよ。ミスはミスですからね。
ただ、とりあえずブラックボックス化している「採点現場」がどうなっているか、というのは、ちょっと知って欲しいな、というお話でした。

では、今夜はこの辺で。

何とか省の何とか田大臣(笑)が、「すべての都道府県で入試答案をチェックしなおせ」とかいきなりいいださなければいいな。

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