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古典文法の話7-2.1 「に」の識別:前編。

こんばんは、しめじです。

今夜は、「なむ」の識別に続いて、「に」の識別についてお話ししようと思います。

なぜ、「に」の識別?

「に」の識別の問題が、おそらく出題率ナンバーワンです。
ちゃんと数えて統計とったわけではないので、あくまで単なる主観ですが、「よく出る文法問題は何の問題ですか?」と入試指導関係者に聞いたら、多分「に」の識別だと答える人が一番多いと思います。

で、なぜ「に」の識別かっていうと、知識があればわりと簡単に識別できるんですが、その知識がなくて文脈とかだけを頼りにやると滅茶苦茶難しい、というかほぼ無理なんですよね。多分外す。
そういう意味では、ちゃんと文法学習をしているかどうかを測りやすいんだと思います。

あと、個人的に「に」の識別問題は好きなんですが、好きな理由は、「に」を私たちが普段あまりにも何気なく使っているから。
例えば原稿用紙1枚の文章を書いたら、「に」って複数回使うことが多いと思うんですが、結構働きがバラバラだったりするんですよね。
そういう、意識してないけど実は幅広く、奥深い単語が「に」なんだと思います。だから、そこに改めて意識を向けさせてくれる「に」の識別は、個人的には結構好きです。

「に」の4+1パターン

さて、「に」の識別は、大きく分けて5パターンです。

・助動詞「ぬ」の連用形。
・助動詞「なり」の連体形。
・格助詞。
・接続助詞。
・なんかの言葉の一部。

助動詞「ぬ」の連用形。

まずこれですが、見分けるポイントは二つ。
一つ目は、「直前の語が連用形の動詞であること」。
二つ目は、「にけり」「にき」「にたり」など、過去や存続の助動詞が直後にくること。

まず一つ目についてですが、直前の動詞が連用形なら、「ぬ」の連用形だな、という判断でOKです。
なぜなら、断定の助動詞「なり」の接続は連体形や体言など。接続助詞「に」の接続も連体形です。格助詞「に」も多くは体言や連体形に接続するので、直前が連用形の時点で助動詞「ぬ」である可能性が高いということです。
(ただし、あくまで可能性が高いだけです。例えば、「走りに期待しましょう」という文の場合、「走り」は名詞ですが、連用形が名詞化したものなので形の上では判断が出来なくなります)

二つ目、これは決定打です。
というか、「に」の識別問題は大体この形になっているものを狙って出されている印象すらありますので、一つ目すっ飛ばしてこっちを考えてもらってもかまわないと思います。

助動詞「ぬ」や「つ」と言った完了の助動詞は、「けり」や「き」と言った過去の助動詞、あるいは「たり」という存続の助動詞や、さらには「けむ」という過去推量の助動詞とセットで出てくることが大変多い。
むしろ連用形「に」「て」はこれでしか見ることがない、というくらい、参考書や教科書レベルの文では「にけり」「てけり」「にき」などが多いです。

で、これらは完了+過去で訳をするので、「~してしまった」「~した」と訳します。

というわけで。

「にけり」「にき」「にたり」「にけむ」の形になっている→完了の助動詞「ぬ」連用形
(訳:にけり、にき→~てしまった。 にたり→~ていた。 にけむ→~ただろう。)

断定の助動詞「なり」の連用形

これは、その後に「あり」が出てきたらほぼ間違いなくこれだと疑いましょう。「~にあり」で「~である」と訳して、これは断定の助動詞連用形+ラ変の動詞となっています。

ただ、そのまま「にあり」の形で出てくることは多くは無くて、大抵は他の言葉が「に」と「あり」の間に挟まります。
定番は、「や」「しも」「こそ」。
また、最後に打消「ず」や推量「む」が付くことも多いです。

と、ばらばらに説明されるとイメージしにくいと思うので、要するにこういう形になるよというのを書いてみます。訳は右に書きます。

にあらず→~でない
にやあらむ→~だろうか
にこそあらめ→~だろうが(文が続く場合)、〜だろう(文が終わる場合)
にしもあらず→~でない

という具合です。
これらの形になっているなら、「に」は基本的に断定です。
また、「にやあらむ」は「にや」、「にこそあらめ」は「にこそ」という具合に、後半が省略されることが多いので注意してください。

昨夜は雨の多く降りたるにや、田の水溢れをり。
(昨夜は雨が多く降ったのだろうか、田んぼの水があふれている)

という感じです。
この「にや」のあとは、本当は「あらむ」が入っています。

さらに、「あり」が敬語になっている場合もあります。
例えば丁寧語の「はべり」とか、尊敬語の「おはします」とか。
「~にやはべらむ」なら「~でございましょうか」、「~にやおはしますらむ」なら「~でいらっしゃいましょうか」などと、敬語の種類に合わせた訳にかわります。
ただ、これらも「に」は断定の助動詞連用形です。
というわけで、

「に」のあとに「あり」がある場合(でも省略されているかも)→断定の助動詞「なり」連用形。
(訳:~である)

となります。
ただ、極稀に、「にあり」となっていても、この「に」が格助詞の場合もあります。
例えば、「敵は本能寺にあり」という言葉。明智光秀が言ったとされる、有名な言葉ですが、この「に」は格助詞です。

もしこの「に」が断定だとすると、「敵は本能寺である」となってしまいますから、これだと本能寺そのものと戦うみたいです。変ですよね。
ですので、「~である」という訳が出来るかできないかは、悩んだらやってみても良いと思います。

というわけで、以上、前半でした。
助詞の「に」については、また別の機会に話そうと思います。
(全部まとめて書くと4000字超えるので、ここで分けようと思います。)

では、今夜はこの辺で。

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