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チ。-地球の運動について-

noteではお久しぶりですgingerです。
最近はアコギの練習や配信が楽しく、もっぱらジャンジャカ弾いて歌う毎日でした。

そんな中、家族から教えてもらった漫画があんまりに面白くて、鳥肌と涙腺の震えが止まらなくなってしまいました。すごい。す、すごい面白くて、ふ、震える。
この感動を伝えたくて、家事の隙間時間にこの記事を書き始めた次第です。


チ。-地球の運動について-
作・画 魚豊

現在第六集まで刊行されています

作者の魚豊(うおと)さん、なんとまだ二十代半ば。いやはや、才に溢れまくった若人には希望を託したいってもんですよね。滅多なことでは新刊で本を買わないんですが(買えよ)、この作者さんには金を払いたいぞ!?と思ったので一気に6巻まで大人買いしました。

---浪費は、消失を意味しません。何故なら私は金を失ったその対価として「若き天才に希望を託した」という幸福感を手に入れたのだから。そんな感情を、愛とも呼べそうです。---
(※作中の名言が良すぎるせいでなんか似たようなことを言いたくなっているgingerである)


ところで、チ。で有名なカットと言えば、口に器具を突っ込まれてる拷問の場面じゃないでしょうか。

↑これ。見たことある人も多いだろう一枚

「ポタポタ」から真っ先に連想させられるものは「血」。だから私はこの漫画の全貌を知る前は、内容の主軸を「尋問」「拷問」「宗教」なんだと思ってた。
そういう内容の作品も大好きだけど、しかしながら「チ。」は「血」という意味だけではなかったのだ。

この漫画は、天文学(地動説と天動説)と宗教を描いたお話なんだけど、実は私けっこう宇宙にはロマンより恐怖を感じるクチである。
果てがないって事実がまず理解できないし、理解できないことが地球の外に存在してるってことが漠然と怖いし。
ブラックホールってなに!?光年って単位の途方の無さなに!?地球以外に生命体がいるかもしれないことも、地球以外に生命体なんていないかもしれないことも、よくよく考えたらどっちもメチャクチャ怖くないか?!…と、圧倒的なスケールのデカさに心底ビビってしまうわけだ。
オバケや心霊現状の方がよっぽど手に負える気がしてくるくらい。だってあれらは人間の心と脳味噌から生まれた事象だと思うから。宇宙はね、もうね、なんかね、人間が手を出していい分野なんか?と思ってしまうよ……。

チ。の各章の主人公たちは、空を見て、星の動きを観察して、宇宙の真理(地動説)の片鱗に気付いて、それを「美しい」と思う。「理に叶っている」と思う。そして「もっと知りたい」と胸を焦がす。
私は一章の主人公であるラファウくんが今のところ一番大好きなんだけど、彼はある時から宇宙の真理に魅せられて、その真理を追い求めることは茨の道だと分かっていてもなお「美しいと思ってしまうッ!!」と、歯を食いしばるんだ。
この「美しいと思ってしまう」って感覚、もう、メチャクチャに知ってる!!!!!と思って!!!!!
それ私もメチャクチャ知ってる!!!!!!!!!!(大絶叫)

少し脱線します。
私は人間の内側から生まれる弱さ汚さ狡さ不誠実不真面目不条理不道徳不倫理、そういうものをテーマにした作品がずっとずっと大好きで、そういった「汚さ」を「製作者が真摯に描き切ってるさま」にこそ、割と「美しい」を感じてしまいがちです。
けっこう前からいろんなところで言ってるけど、人間の持つ「哀しい」が、私の中の「美しい」とすごく通ずるんですよね。
「哀しい」は「美しい」と似ている。この感覚は我ながら好きなので、これからも大切にしたいなと思っているところだ。

…で、そういう個人的な前置きを踏まえた上で、ラファウくんの「美しいと思ってしまうッ!!」を見ると、あり得ないくらい胸にクる訳です。
そう、思ってしまうんだ。止められないんだ。
それはダメだよ、禁止されてるよ、法律違反だよ、その思想は断罪されるべきだよ。思うだけで有罪だよ。
そんな風に周りからいくら言われたって、思ってしまうことを止めることはできないんだ。

もし私が生きてる今のこの世界で、不誠実不条理不道徳をテーマにしている、そんな作品の一切が禁止されてしまったら。
どれだけ苦しいだろう。どれだけ逃げ道がないだろう。どれだけ呼吸ができないだろう。どれだけ世界を「つまらない」と諦めてしまうだろう。


チ。という漫画のすごくすごくすごく良いところは、理論的なところが100パーの理解力で読み解けなくても、たった一コマのキャラクターの直感的な言動で魂が揺さぶられるところだ。理系読者にも文系読者にもガツンとわかる面白さが半々にある!すごい!!!いやすごいて…すごいな…信じられない…
「世界、チョレ〜〜〜」から始まったラファウくんの物語は「命にかえてでも、この感動を生き残らす。」という想いと共に、次代に引き継がれます。物語は主人公が死んでも続く。そしてラファウくんは「チ。」という名の石版の一行目に、その名を刻んだんだ、消えない一行目が確かに刻まれたんだ。
(この記事を書いていて、今ふと「俺の屍を越えてゆけ」というゲームのことを思い出した。「死」は決して「無」とイコールではないよなぁ…)
死は無じゃない。すごいことだ。大発見かもしれない。

こんなに鮮烈に面白い一章のあと何を描いても下り坂なんじゃ…??と不安になった自分が恥ずかしくなるくらい、続く二章もめちゃくちゃに面白くて鳥肌が止まらなかったです。
二章の主人公はオクジー。悲観的でこの世に絶望していて、一刻も早く天国に行って現世から解放されたいと願っている青年だ。

オクジーがね、今度はラファウくんとは打って変わって「弱い」から始まる主人公なんですよ!でもオクジーは知識ってステータスがゼロに等しかった代わりに「視力」と「感性」がハイスペなんです。
で、オクジーが後世に残そうとしたものが何かって、論文でも研究結果でもなくてね、「文章」なんですよ。彼は自分の感じたこと思ったことを「文章」にして、それを本にして残したいと思ったんだ。
もう心が震えて何に泣いてるのか分からないまま泣いてしまうなにこれ!!!?何この漫画!!!!!???

「論文としての価値はない。が、それ故伝わる可能性は高いだろう。」「伝わる?何が…?」「感動だ。」

そう、感動を。託したんだ二章の主人公たちは。「この感動を生き残らす。」と言って幕を閉じたラファウくんの想いと、ここで繋がる訳です。

も〜〜〜〜〜鳥肌がよぉぉぉぉぉ………涙涙涙

すごいんだよな論理的な部分と心に直接訴えてくる感情的な部分の塩梅が……すごいんだよなこの漫画……たまんないな………

第6巻で、とある女の子がオクジーの書いた本にビビビと心震わせる場面があって、でもそれ感動じゃなくて「この本で大稼ぎできる」っていう直感だったんです。それもなんか凄くいいなと思いました。
この感動を後世に伝えたい!って想いは一から一へ繋げようとする強い縦糸だけど、横に広がってく可能性が低いと思う。つまり私みたいな人間は縦糸なんだきっと。
でも「稼ぐためこの本をいかに大量生産するか」という考えを持つ人間によって、横糸が現れる訳だ。横糸が現れたら縦糸と合わさって「布」になる!広がる!届くべき人へ届く可能性がグッと高まる!
いろんな思想、信念、価値観があるからこそ、3Dの真理に近づいていける気がします。
信仰は2Dで、だけど真理は3Dって感じがします。その形を知る為にはどっちもが大切で、どっちもないと後世に残っていかないし、全貌が明らかにならない。

6巻では異端とも宗徒とも違う、新たな「ナチュラリスト派」なるものが現れます。また別角度から放たれる糸だ。布はどんどん強固になる。
チ。の中で一番共鳴できるのはどの派閥?と聞かれたら、私はこのナチュラリスト派に投票する。言ってることが一番頷けて、純粋にいいなぁって、美しいなぁって思ったから。美しいと思うものに触れたい。その全貌を知りたい。もっともっと深く胸を突き動かしたい。人間の「知りたい」と思う知識欲の根源は、これが正体じゃないかと思う。

盲信というぬるま湯に浸かっている間は、恐怖や不安に苛まれることもなく脳死状態で生きていける。善悪に教科書がある。神様が心の中にいてくれる。だけど真理にはきっと近づけない。真理に近づけないと自覚することすらないまま、きっと安らかに死ぬ。
知識欲という冷水をかぶってしまったら最後、生きながら目が覚めてしまう。世界には本当の姿があるかもって気づいてしまう。それを良しとしない周囲に殺されちゃうかもしれない。でも、見上げた空があんなに美しいこと、こんなに美しいと思えることに、きっと心が震えるんだろう。

生きていていつも思う。世界や社会に漠然と存在する「当たり前」を、どうやったら疑えるんだろうって。地頭もないし学もないし、視野も狭いしものを知らないし。だから私は、きっとそれがすごくすごく苦手なんだろうな。
いや待てよ、だけどそれって、もしや私が思うよりずっとシンプルで、手の届く場所にあるのかもしれなくない?だって知識欲の根源は「美しいと思えるものをもっと知りたい」なんだから。
この漫画と出会って、私はそんな風に気付けました。

「美しいと思ってしまう」

これを、ずっと大切にすればいいだけかもしれない。ラファウくんやオクジーが「こんなに綺麗だったっけ」と、星空に釘付けになった時のような気持ちを。私も大切にする人になりたい。


さあこれから、なにを美しいと思い、その衝動に突き動かされんとするキャラクター達に、どれだけ出会えるだろう。
布は強固になって、拡がって、どれだけ歴史を動かしていくだろう。
続く物語も、とっても楽しみです。

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