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【完敗の伏線】第22節 アビスパ福岡戦【雑感】

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福岡戦のレビューは書かないと言ったな。あれは嘘だ!(n回目)

相変わらずほぼ感想に近いので悪しからず。

スタメン

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6試合勝ち星から見放された長崎、大一番となったホーム福岡戦は前節からスタメンを7人変更。特にGKを含む守備陣は5人中4人が入れ替わり、しかも鹿山と江川はリーグ初スタメンという挑戦的な選択。中2日で控えている徳島戦を睨み、そちらにベストメンバーを当てる前提で組んだスタメンがこの11人だったのだろう。福岡は第9節の大宮戦が延期になった影響で現在11連戦となっており、長崎戦が9試合目に当たる。アウェイで対戦したときは後半から富樫・イバルボで逆転したイメージも少なからずあったか、福岡の運動量が落ちたタイミングで主力級を投入して一気呵成に攻めるという青写真も描いていたかもしれない。

(リーグ戦)折り返しの中で、フレッシュさを出していこうという中でメンバーを入れ替えて挑んだゲーム。どちらかというと若い選手にチャンスを与えて、というところで、次のゲームが中2日ということもあったのと、また、このメンバーでアビスパを倒すことができれば自分たちが得るものは相当なものになる。
(手倉森監督)

一方の福岡は前節から1人だけメンバーを入れ替え。前述の通り11連戦という厳しい日程を課されているが、直近は6連勝と波に乗っている。長谷部監督らしい堅守速攻が特徴のチーム、ボールを奪ってからの推進力はリーグ屈指であり、長崎は変な形でボールを失わない事が求められる。

全ては福岡の掌の上

良い時の長崎はサイドハーフの立ち位置から中央に絞る2シャドー、この日で言えば吉岡と名倉が福岡のDFラインとMFラインの間でボールを受けて前を向いて相手を押し込む。中央を意識させればウィングバック化した2人のマークが緩くなり高い位置で起点にできる、というのが基本の攻め筋になる。

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福岡の守りは遠野がアンカー(カイオ)をケアする4-4-1-1か、4-4-2で長崎3バックにプレスを掛ける形が基本となった。長崎は加藤がCB化する3-1-4-2に可変するがアンカーは自由に使えず、吉岡・名倉へのパスコースもダブルボランチの前と松本がしっかり警戒。いつもは浮くはずのウィングバックもこの日は福岡のサイドハーフにきっちり対応される。

なぜウィングバックが自由になれないかと言えばビルドアップ時のパススピードや距離が足りず、福岡の横スライドで十分に対応されたためである。コンパクトな4-4-2ブロックで守る相手に対しては、磐田のような大きなサイドチェンジ(フベロ監督が指笛を吹いてたアレ)が有効だが、この日の長崎はほとんど大きなパスを出さなかった。相手を揺さぶれないから縦パスの門が開かず、足元のパスで江川・米田に渡る頃には蓋をされる、という守り方を何度も作られた。ウィングバックかシャドーを狙い撃ちにするのは福岡の明らかな狙いだった。

この日の2失点目はまさにこの形、袋小路に誘い込まれた江川のパスミス(というかガッツリ狙われている澤田にパスしてしまった)が逆起点になった。

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長崎が見つけた一つの解決策はルアンがボランチの位置まで降りてきてノープレッシャーでボールを引き出し、ドリブルなりパスなり個人技で前進することだった。ただこの形はあまり再現性がなく、ルアンもボールを運びながら次の展開を探るような格好になった。

何度か右サイドで空いた米田に繋がってフリーでクロスを上げるところまで辿り着いたが、いかんせんクロスの精度が足りない。5本の上げて1本しかシュートに繋がらなかったのは福岡CBを褒めるべきでもあるが、強いCBを相手にするならもう一工夫が必要だった。

1失点目は江川のクリアミスを速いテンポで繋がれてクロスから失点、2失点目は前述の通り。いずれも左サイドでのミスからショートカウンターで仕留められた形となった。64分、負けられない長崎は主力3人を同時投入して勝負に出るが直後のワンプレーで石津のゴラッソを喰らい3失点目。石津を褒めるべきではあるが、誰も詰めていないあたり集中力は完全に欠けていた。勝負を掛けた交代直後の失点でこの試合は終了となった。

その後の30分は見るに耐えない大混乱。なんとかカオスを引き起こそうとロングボール中心に攻めるが守りに入った福岡は相当に硬く、終了間際に名倉が一矢報いるのが精一杯だった。そのまま試合終了、勝点6の価値があった九州ダービーは長崎の完敗で幕を閉じた。

完敗の伏線

アビスパはどちらかというとこちらのミスを待ってのカウンター狙い、というような対戦シチュエーションの中で、自分たちが与えてはいけないというミスが出てしまった。
(手倉森監督)

「福岡は長崎のミスだけを狙ってた」というコメントが福岡サポの中で物議を呼んでいたが、実際福岡のサッカーはリアクションサッカーそのものだった。前回対戦時よりもボランチがボールを握るようにはなったが、そこから崩し切る攻撃はまだ途上という感じ。

しかしカウンターのキレは想像以上に増していた。ファンマに当てて遠野、というのが鉄板パターンだったが今回はそこにフリーラン、ダイレクトパスも加わり縦への推進力が格段に増していた。1点目のサロモンソンのインナーラップ、遠野の膨らんで視界から消える動きは見事だった。

やはりというか、ボールの失い方が重要な試合だったが、左サイドで安易にボールを奪われてからの2失点が致命傷となった。では(間接的でも)2失点に絡んだ江川が戦犯なのか?と言えばそれは断じてNOである。むしろそれまで長崎というチームが積み上げたもの、積み上げられなかったもののシワ寄せを江川が被ったに過ぎない。

ではこの完敗にはどのような伏線があったのか?少し雑に列挙したい。

❶本職SBの駒不足と亀川への過依存
長崎はサイドバックを亀川、毎熊、米田の3人で回してきた。特に左サイドを崩しに掛かる事が多い長崎にとって左サイドバックはビルドアップの出口であり、同時に上がった背後を常に狙われる戦術的要所である。

ここまで左サイドバックは亀川が務め、ターンオーバーする時は米田が入るのが常だった。しかし米田は元々相手ゴール付近で得点に直結する決定的な仕事をできる選手である。ペナルティエリアを伺って相手を抜き切る、もしくはカットインして振り切ってシュートという部分に最も特徴があり、リスクを背負わせる価値のある選手だ。今のサイドバックというポジションはミスが失点に直結するため、リスクを背負ったプレーはほとんど許されない。米田は運ぶドリブルやクロスが得意というわけではなく、チーム事情でサイドバックにコンバートされているのが実情であり、要は適材適所ではないのだ。右利きなので右サイドバックならまだしも、左サイドバックでは悪い面が浮き彫りになってしまう。

❷次節は中2日で徳島戦
ということで亀川への過依存状態となるが、間の悪いことに次節は中2日で首位の徳島戦。前回対戦時は手も足も出ない完敗だったが、昇格争いを考えれば福岡よりも叩く必要があるという判断があったのだろう。

結果として本職センターバックの江川を左サイドバックに起用、更には鹿山もリーグ初出場となった。ビルドアップの危うさを補強する意味で高木和先発だったのかもしれない。勝ち星に見放された中で選手を入れ替えてフレッシュさを出す、というのは良くある話だ。果たして大一番となった福岡戦で、戦術的要所に新人を起用するのはベストだったのだろうか?それまでの21節の中で既に亀川への過依存は露呈していたわけで、何ならオフシーズンに香川を放出した時点で本職サイドバックは枚数不足に陥っていたわけで、ここまで課題を先延ばしにしてきたツケを払わされた形になった。

❸自分たちのサッカー病
サイドバックの駒不足よりさらに深刻なのは縦へのスピードのなさである。最近はあまり話題に出さなくなったが、手倉森監督は就任当初は柔軟性と割り切りをテーマにしていた。柔軟性とはつまり決められた型に捉われず、ピッチの状況に対応できる戦術的な幅を持つということだ。ポゼッション(ボール保持)、カウンター、プレス、リトリート(自陣に引いて守る)の4つで弱点を作らない為に、戦術的な落とし込みを最小限にした自主性サッカーをモットーにしている。

19シーズンの失敗は監督交代もあり戦術や方針が大きく変わった中で色々な事を求めすぎたことにあった。軸がなかったチームは「秋野を中心にしたポジショナル風サッカー」という大方針を確立、ボールを動かして相手を動かす、隙を伺って縦に出して押し込むという狙いで開幕から10戦負けなしとスタートダッシュを切ることが出来た。

ところがここへきて問題になっているのは縦へのスピードのなさ、つまりカウンターの拙さである。ボールを大事にするあまり、マイボールにした後もとりあえず最後尾まで戻す。全ての攻撃が1から積み上げられるため、予習さえしておけば相手も対応しやすくなっている。手数(パス数)が多く、リスクのある長いパスや陣形が整わないところへのパスは試合を重ねる毎に減少している感がある。

サッカーは攻撃と守備が表裏一体になるという性質があり、攻めながらにして守りの(被カウンター)の事を考んがえる必要がある。ボールが行ったり来たりするオープンな展開を嫌う傾向になる手倉森監督は、相手の崩れた陣形を突くことよりも自陣が整った状態で攻める方が失点のリスクを抑えられると考えている節がある。まさにザッケローニ時代の日本代表のように「自分たちのサッカー」に固執するあまり相手の顔が見えてないような、そんな振る舞いをしているように見えてしまう。

おわりに

上記のような文脈があった中で福岡戦を迎えた手倉森監督は「あわよくば勝点1でも拾えれば」という事だったのかもしれないが、あえなく完敗という結果になった。福岡が左サイドバックと左センターバックの間を執拗に狙っていたことからも、江川を目がけて攻めていたのは作戦通りだったのだろう。

それでも江川は持ち味を発揮して見せた。良くも悪くもトップチームに染まりきっていない江川のシンプルなパス、ドリブルはチームの良いアクセントになったし、後半にセンターバックに入ってからもソツないプレーを披露した。江川個人の事を考えても、まだ歴史の浅い長崎というクラブにとっても、ユース上がりの選手がスタメンを張った経験は貴重なものになった。

勝点3を半ば犠牲にしてまで万全を期している徳島戦。求められるのは勝点3のみ。前回対戦はコテンパン(死語)にやられただけに、やり返す意義は大きい。ただ今のチーム状況を見るに徳島を上回れるイメージがあまり沸かないというのが正直なところだ。手倉森長崎の意地を見せてほしい。

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