見出し画像

【連戦マネジメントの成果】第6節 ファジアーノ岡山戦【レビュー】

肉体的な疲労はミスを増やす原因になる。徹夜した体で車を運転すれば、運転ミスで電柱に車をぶつけるかもしれない。精神的な疲労、これもまたミスを増やす原因になる。例えば上司のパワハラを一身に受け続ける部下は、冷静さを欠いて運転中に道を間違うかもしれない。

では、肉体的にも精神的にも疲労した人はどうなるか。冷静さを欠いた上に運転ミスをすれば、大きな事故に繋がるかもしれない…

スタメン

長崎は前節からスタメンを7人変更という大幅なターンオーバーを実施。琉球戦で温存された亀川、角田、澤田、ルアンの4人、前節負傷した高木和に代わり徳重、対人に強いフレイレ、ここまで途中出場で相手に脅威を与えたイバルボが今季初スタメンとなった。

岡山は右サイドハーフの関戸を野口に替えただけで、それ以外は前節と同じスタメン。どうやらパウリーニョと喜山は怪我らしくベンチ外。ただでさえ厳しい連戦が続く今シーズン、同ポジションに怪我人が続くとは難しすぎる台所事情である(結局ボランチの層の薄さが岡山の致命傷となる)

前半 長崎のハマらないプレス、試合を掌握する岡山

前節の愛媛戦はヨンジェにロングボールを当てて勝機を見出した岡山。今節の序盤もとりあえずヨンジェに出してみるが、フレイレのマークは強烈でいかにヨンジェでも勝算は五分五分。

先発したイバルボとルアンは攻撃で強烈な力を発揮するが、前線からのプレスはかなり甘く、岡山は後方から余裕を持ってビルドアップできる。岡山はボール保持時にダブルボランチの一角(だいたい白井)が1列降りてCB化、両サイドハーフが中に絞りIH化、両サイドバックが1列上がってWB化、3142のようなシステムに可変する。後方は数的優位で余裕のプレス回避、中に入って長崎の両サイドハーフを釘づけにする上門と野口、空いたスペースで浮く徳元と椋原。長崎は形成的にかなり不利な状況を作られる

特に長崎のプレスはGKまで詰めに行かないため、岡山のビルドアップは出口で詰まれば《安全地帯》と化したポープまで戻せば良いという、精神的な余裕を持った組み立てができた。特にポープ、白井、上田はフリーの状態であれば相当に高精度のロングボールを蹴れる技術があり、ヨンジェを諦めて左右に移動する山本にボールを当てていく。またダブルボランチを中心に左右にボールを動かすことで長崎のブロックはスライドして対応に追われる。

一方の長崎もボールさえ持てばある程度攻めることはできる。負傷の高木和に代わって徳重が先発したことでビルドアップはやや安定性に欠いたものの、イバルボ・ルアンを中心にボールを前進させてシュートまで至る場面も作った。互いに決定機を作りあった後、CKを直接ボレーでたたき込んだ徳元の得点で岡山が先制する。

失点後の長崎は前線からのプレスを強めるものの全体が連動しているわけではなく、吉岡・澤田もプレスに関わろうとすると浮いた徳元・椋原を使われる。長崎の最前線とDFラインはどんどん間延びして、岡山は前半終了まで試合を支配する。

後半 岡山の安全地帯を取り上げ形勢逆転

ボールの取どころを失った長崎は後半頭から吉岡に替えて畑を投入する。畑を投入した意図は単純明快でボランチをケアしながらGKまでプレスを掛ける事だった。このミッションを忠実にこなした畑は後半60分までに4度GKまでプレスを掛け、3回のパスミスを誘発することに成功した。GKまでプレスを掛ける時も後方をチラチラ確認しながら走っており、ボランチへのコースを消しながらプレスするという教科書通りの守備を披露。

岡山としてはGKまでプレスに来られなかった前半は最後尾が安全地帯として機能しており、冷静にポジションを取る時間や何度も攻撃をやり直す機会を作っていた。しかし畑がGKまで圧力を掛けることで「冷静になれる時間」を失った岡山は無理なボールロストを頻発、愛媛戦からターンオーバーできなかった影響もあったか急激に運動量が落ちていった。

ボールを握り返した長崎は、ようやく攻め型を繰り出すことが出来はじめる。前半とは真逆の展開になりファーストプレスに行けない岡山を相手に秋野が1列降りる3バックでビルドアップに数的優位を確保、イバルボの圧力を受け続けた岡山DFラインはじわじわと後退していき、高い位置でボールを握れるようになった秋野・カイオがボールを左右に配給して岡山ブロックに揺さぶりを掛ける。岡山もCBとGKの頑張りで最後はやらせない守備で粘ったが、長崎の後半6本目のシュートを大竹がねじ込み、スコアは同点になった。

――後半のシステムチェンジの狙いは?
相手のダブルボランチに気持ちよくサイドチェンジを許していた前半があって、ルアンの攻撃力が守備に追われた中でルアンをサイドに出して、ボランチのケアを畑 潤基に任せて、より手堅い守備を獲得したあと、攻撃していたらルアンのところで意外とスペースが空き出して、ルアンが守備に終われていて消耗した体力を今度は大竹(洋平)にスイッチしたところ、同点にできるだろうなと。
(手倉森監督)

防戦一方となった岡山が陣地を回復する方法を見つけるには身体も頭も疲弊しきっていた。手倉森監督は富樫を投入して3トップに移行、もう一度決壊するまで岡山をとにかく殴り続ける。結局77分にカイオが逆転のコントロールショットを決める直前、右サイドから大竹がクロスを入れた場面ではエリア内にFW3人が入っており、手倉森監督のゴリ押しは実ることになった。

――2失点の要因はどういうところでしょうか?
ファーストディフェンスが決まらなかったこともそうですし、決まらない中で後手を踏んだ守備が続いて、ズレが生じて失点につながったのかなと思います。
――連戦の最後の試合でしたが、後半はかなりキツかったですか?
その中でもやらないといけないこともありましたし、できることもたくさんあった中で、コンディションの部分もありますけど、まず判断が大事だったと思います。
(白井永地)

目論見通り逆転した長崎はそのまま秋野アンカーで4141ブロックを敷きながら岡山を跳ね返し、米田加藤を入れた後は再び442ブロックに戻して前線からのプレス強度を担保し直すという細かい修正を実施。天敵・赤嶺にまたやられかけるが徳重とフレイレを中心に跳ね返し続けて試合終了、敵地岡山での初勝利は首位をキープする逆転勝ちとなった。

勝敗を分けたのは選手層と連戦マネジメント

岡山の目線に立てば、前半に追加点を奪えなかった事で試合が難しくなった。失点後の長崎は明らかに浮き足立っており、無謀な単騎プレスでブロックは穴だらけで隙だらけ、追加点を奪うチャンスは十分にあった。しかし実際、岡山は先制した直後にヨンジェが決定機を外した後は前半シュートを打てていない。穴だらけの長崎、WBで浮いている徳元や椋原が見えながら攻撃に力を使うことが出来なかった。

もう一つ、決定的に試合を難しくしたのは選手の疲弊だった。水曜の愛媛戦からスタメンを1人しか代えなかった岡山と7人代えた長崎、その差は後半から如実に出た。特に後半、畑が岡山の安全地帯を取り上げてからはガクっと運動量が落ちたように見えた。実は岡山の有馬監督は後半途中で中盤を増やす4141に変えて押し返そうとするプランもあったそうだが、パウリーニョ喜山が怪我をしている事情もあり実行されることはなかった。

――二つの失点場面では何が起きてしまったのでしょうか?
「少しパワープレー気味だったというか、CFに強烈なキープできる選手がいる中で、長いボールをおそらく入れてくるだろうなと思っていましたし、その選手にやられるよりも結局は周りの選手。セカンドボールだったり落としたボールに対して、拾い切る、マークを付くということが必要だったし、そのポジションをできるフレッシュな選手がいて、突かれてきてもケアし切れるようになっていかないといけない。(中略)[4-1-4-1]も考えていたので足が止まったときにもう一枚ボランチがいればとは思いますが、それは“たられば”になってしまうので、いるメンバーで何ができるか。そこを閉じる工夫もしながらこれからやっていく必要があると思います」
(有馬監督)

一方の長崎はこの3連戦で実に23人の選手をやりくりしながら岡山戦を戦い抜いたことで、身体も頭も少しだけ余裕があった。ここぞ、という勝負所で最適な一手を打ち、試合の流れをひっくり返して逆転勝利をつかんだ。それは岡山戦だけの話ではなく愛媛戦から始まった連戦を一つの塊として捉えて、連戦最後の後半45分に「手駒を残せた」というマネジメント(と人件費)の勝利でもあったと思う。

さいごに

肉体的にも精神的にも疲弊してしまった岡山は、逆転という事故を回避することができなかった。そのきっかけを作ったのは後半から出場して、最終ラインに圧力を掛け続けた畑だった。前節・琉球戦では決定的な場面でパスを選択し、自身も後悔したと語る畑。そんな男の、汚名返上と言わんばかりの走りはイバルボやルアンには出来ないスペシャルな働きだったと思う。

次は好調を維持する京都をホームに迎える。

願わくばバイス、ウタカ、イバルボが目立つ「怪獣大戦争」的な展開ではなく、タクティカルな試合になればブログを頑張れそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?