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【プランを遂行せよ】第9節 東京ヴェルディ【レビュー】

試合を観た感想→「よく分からんw」

という感じだった。初見ではヴェルディの立ち位置が流動的過ぎてシステムも理解できなかった。とにかく左サイドから殴り続けるヴェルディと、富樫の頑張りで苦手のカウンターを狙う長崎という構図で、後半は少しだけ長崎がボールを握り返したけど、結局スコアレスドロー。しかし見直してみると「ああ、そういうことだったのか」と思える場面がいくつか出てきた。

変幻自在のヴェルディに対して、手倉森監督の「柔軟性と割り切り」が十分に発揮された試合だったと評して良さそうな展開になった。ただ点を取りきる部分までには至らなかったが、それは今後の伸び代と思っておこう。

スタメン

長崎は前節からスタメンを4人変更。山口戦では温存された亀川、秋野、富樫と京都戦で負傷交代したフレイレがスタメン入りした。脱臼って10日くらいで治るものなのか…?前節、遠征に帯同しなかったルアンはスタメンかと思いきやベンチスタートになった。試合後のインタビューでも特に言及されてなかったけど切り札役だったのか、戦術的な問題だったのか気になるところ。

一方、前節まで2戦連続で同じスタメンだったヴェルディは今節4人を変更。福村、森田、小池、山下が先発メンバー入りした。主力の端戸や佐藤、ポルトガルへのレンタル移籍が噂される藤本はベンチスタート。

プレシーズンマッチやシーズン序盤こそ負けが続いたヴェルディだが、ここへきて調子を上げてきて4戦負けなしで長崎に乗り込んできた。特徴は何と言っても圧倒的なボール保持。流動的なポジショニングから数的優位を活かしたサイド攻撃と、ボールロスト後の即時奪還がベースになる。チャンスは作るがここまで複数得点をあげたのは2試合のみで、フィニッシャーの大久保嘉人やレアンドロの戦線離脱が影響している(と思う、ちゃんと見てないけど)。

ヴェルディのゼロトップ作戦

この試合の大半はボールを握るヴェルディvsカウンターを狙う長崎という構図で推移していく。ここまでリーグでも断トツのボール支配率を誇るデータは伊達ではなく、この試合でも6割以上の時間帯でボールを握ることに成功した。

フォーメーション予想は藤田アンカーの4-1-2-3で記載されていたが、実際に試合を見ているとかなりポジションは流動的だった。局面ごとで立ち位置が大きく変わるためコレというフォーメーションを示すことができないが、しいて言えばボール保持時は3-2-5(-0)のような形を取ることが多かった。左サイドバックの福村は1列上がってウィングバック化、インサイドハーフの森田か井出が1列降りて藤田とダブルボランチを形成、ワントップの井上は1列降りるか右に流れる。

これはいわゆるゼロトップという作戦で、簡単に言えばセンターフォワードを置かない代わりにサイドや中盤で数的優位を作るための可変システム。グアルディオラ時代のバルセロナが得意にしてたらしい(海外サッカーには疎い…)上図を見ればフレイレ、二見は本来マークするべき相手が目の前におらず、逆に中盤や左右の局面ではヴェルディが数的優位になっている。サイドを突破できた暁には2列目の選手が飛び込んできてゴールを決める、という設計になっている。

ヴェルディの3バックはボールを持つ&パスを出す能力が高く、藤田+1のボランチもパスを受けるためのポジション取りが上手いため富樫名倉のプレスでは全く圧力にならない。楽にファーストディフェンスを回避したヴェルディはサイドの数的優位を活かして打開を図る。特に味方が多い左サイドにボールを出すことが多く、福村・山下・井出(+藤田)のコンビネーションで突破を試みた。ヴェルディにとって誤算だったのは毎熊が思いのほか固かったことで、83分に決定機を迎えるまでほとんど抜かせなかった。この試合でクリーンシートを達成した功労者の一人は間違いなく毎熊だった。

ヴェルディはサイドを起点に何度か攻め込むが、26分に井出が放った決定機以外は可能性のあるシュートを打てない。ゼロトップの弊害なのか、真ん中に強さのある選手がいないため最後の局面は二見・フレイレで十分に対応していた。一方の長崎も序盤こそボールを握る意思を見せたが、2トップのプレスが掛からないことでボールの取どころを設定できず、途中からは富樫を起点にしたロングカウンター狙いに移行した。山口戦でも露呈した課題だが、この日もやはりカウンターからシュートを打てる場面は少なかった。

端戸に立ちはだかる二見

後半頭からヴェルディはワントップに端戸を投入。左右に流れたり後ろに降りたりするゼロトップ井上とは違い、端戸は長崎ディフェンスラインの裏を狙う姿勢を見せた。相変わらずビルドアップを規制できない長崎をよそ目に、ヴェルディは前半同様に左サイドの数的優位を活かして打開を図る。

フレイレを引っ張り出せたらそのスペースを狙うというのが端戸の役割だったようだが、ここでヴェルディにとってもう一つの誤算は二見の存在だった。端戸にボールが入ればことごとく二見が身体をぶつけ自由を与えない守備を披露した。両チーム通じて後半唯一の決定機となった83分、エリア内に抜け出した藤本の折り返しをカットしたのも二見だった。手元の集計では端戸の攻撃を4回ブロックしている。山口戦では不用意にマークを外し、J2最年少得点記録を更新されるゴールを16歳河野に決められるという屈辱を味わった二見(前節レビューでも書いた通り二見だけの責任ではないが)。アグレッシブな守備が今節は良い方向に作用、端戸をほぼ完封し、クリーンシート達成のもう一人の功労者となった。

手倉森監督の一手は番犬・加藤

後半に入ってもボールを握れない長崎は62分に交代カードを切る。名倉に代わって入った加藤はそのままトップ下に、大竹に代わって入った氣田は左サイドハーフに立ち、澤田はサイドを変えて右サイドハーフに移った。この交代には①攻められていた右サイドをケアするために守備に走れる澤田を補強②氣田のドリブルでロングカウンターに推進力を持たせる③好き放題やられた3バックを邪魔するためにプレスの上手い加藤を配置という3つの意図があったように思う。特に③が重要で、富樫加藤がダブルボランチを背中に感じながらプレスをスタートし、加藤がしつこく追いまわすことでヴェルディのビルドアップから余裕を奪った。結果的にサイドに取どころを設定してミスを誘発することでボールを握り返すことが出来た。ヴェルディの心臓だった藤田のガス欠も影響したかもしれない。

――今日は疲労の色が濃かったが。
今日は後半の頭くらいから足にきて最終的につってしまいました。
(藤田譲瑠チマ)

加藤の投入から2分後にヴェルディのビルドアップ阻止に成功、それから82分までの約20分間は久しぶりに長崎がボールを握る時間になった。長崎はボール保持時、秋野が1列降りて3バック化、カイオセザールと加藤がダブルボランチを組んで、お馴染みの3-4-2-1に可変してヴェルディを押し込む。氣田の推進力も助けになり3本のシュートを放つが決定機にはできない。さらに前線にパワーを出すために畑とルアンを投入したが、この交代は上手くいかない。ヴェルディの組み立てを追い掛け回す番犬役だった加藤が1列下がってボランチに入ったことでプレス強度が再び低下、特にルアンのプレスは圧力にならず再び左サイドを攻められることになる。

最終盤、ヴェルディは左ウィングに新井を投入、いよいよ左サイドを崩そうと息巻くが手倉森監督もすぐに対応、毎熊を下げて米田を入れて守備の強度を保つ。結局そのまま試合終了、長崎は9試合目にして初めて無得点試合になったがクリーンシートは達成、無敗を継続した。

プレスに行けなかったのか、行かなかったのか

変幻自在のシステム変更、数的優位を活かしながら前進してくるヴェルディの完成度はかなり高かった。長崎にとってはボールを「持たせている」と言うには少しスリリングな展開になった。その原因は相手のビルドアップを自由にやらせすぎた部分が原因だったように思う。

エリア別のパス成功率を見ると違いは一目瞭然。長崎のディフェンシブサードでのパス成功率は79%だが、ヴェルディは90%を記録している。要するにプレスが掛からなすぎたのだ。3バックの相手に対してプレスが掛からず自由にやられる展開、これは6節岡山戦でやられたパターンに似ていた。2トップで3バック+ボランチのビルドアップに圧力を掛ける方法は、京都戦で披露したサイドハーフ上げのプレスになるが、今節ではあまり実行されなかった。

なぜ前線から数的同数になるようなプレスを掛けなかったのかといえば、まずはブロックを作って失点を避け、相手の動きが落ちる60分すぎからボールを握り返すというのが当初のプランだったようだ。

まず、攻撃力のある東京Vに対してしっかり適応、対応していこうという中で、守備はものすごくピンチもありましたけど、穴をあけずに集中して対応できたなと。その中で手堅い試合を進めながら、最後にパワーを出して、なんとか1点を取ってというようなプランでしたけど、東京Vもスキを作らなかった。
(手倉森監督)
――監督はボールを握り返すことを狙っていたと話していたが、その部分について。
けっこう持たれたという印象はありますけど、しっかり要所、要所では対応できて、後半の最後の方でちょっと持てたところで仕留めることができれば良かった
――終盤になれば行けるというプランだったのか。
相手も落ちてくるだろうというのはちょっと思っていました。そこで仕留めたかった。
(澤田崇)

流動的なポジションを取ってくるヴェルディ相手に、腰を上げてプレスを掛けると穴を作って盤上をひっくり返されるかもしれない→そうなるくらいなら4-4-2のブロックをあまり動かさず、前線とサイドの数的不利を受け入れて中央を固めよう→連戦の最後で動きが落ちるであろう60分過ぎに加藤を投入してボールを握り返して点を取る。これが手倉森監督のプランで、割と思惑通りの展開になった気がするが、ボールを握られ続けたことによる消耗とルアン投入が思ったよりチームに好影響にならなかったことが想定外だったかもしれない。

この試合内容で失点しない、もっといえば決定機を2本に抑えたことが今シーズンの長崎好調の理由。手倉森監督の目指す「割り切り」を発揮した試合になった。今後はさらに消耗戦のような展開が続く中で、いかに点を取りきるのか?という部分に焦点が当たっていくことになる。

こんな試合で氣田が点を取れるようになれば、長崎はより勝ち星を積んでいけるのかもしれない。伸び代ですね。



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