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【値万金の決勝弾】第39節 モンテディオ山形戦【雑感】

ありがとう富樫敬真、ありがとうルアン。まだまだJ2は終わらない。

①スタメン

長崎は前節から3人入れ替え、角田・磯村・エジガルがスタメン入りした。磯村は京都戦から引き続き左サイドバックで出場、江川の安定した守備を切ってでも左サイドの攻撃を機能させたいという狙いだろう。角田は35節千葉戦以来の出場となった。

山形は前節から3人入れ替え、野田・南・ヴィニシウスアラウージョがスタメン入りした。町田戦はアディショナルタイムに2点決めて大逆転勝利。開幕当初は勝てない試合が続き下位に沈んだが中盤戦から持ち直し、シーズン折り返してからは10勝3分5敗と勝ちが大きく先行している。継続して試合を見ているわけではないので断定はできないが、ヴィニシウス・アラウージョがチームに馴染んだのが何より大きい気がする。前回対戦時より脅威が格段に増していた。渡邉、前田、末吉など単騎で勝負できる駒も揃っておりゴール期待値はJ2屈指、今年のチームを継続できれば来年は自動昇格に絡む可能性は高そうだ。

②長崎が抱える構造的弱点とジレンマ

今年の長崎はボール保持を第一に考えるチームだ。相手の守備陣形の隙間に選手を配置して丁寧にボールを繋いでいく、穴が見つかれば縦パスを通す、スペースができればドリブラーが切り込む、大外が空くなら縦に突破する…その攻撃のほとんどが最後尾、つまりセンターバックやゴールキーパーから始まる。

ボールを保持したい長崎がシーズン通して抱えている構造的な弱点、それは足元で繋げるタイプのGKではない徳重をファーストチョイスにしているという点だ。そしてジレンマとは「足元の技術は不足しているがセービングが安定している徳重」か「足元の技術はあるがセービングがやや不安定な高木和」かというGKの選択にある。

本来であれば長崎のようなボール保持志向のチームが起用するべきなのは高木和で、彼には相手のハイプレスにも臆せず冷静に顔を上げて味方を探せる、時には相手2トップの間を通してカイオに縦パスを通すくらいの技術がある。大逆転勝利を収めたホーム山口戦の4点目の起点になったのはまさに高木和の勇気ある縦パスだった。ただ高木和はどうにもプレッシャーに呑まれる場面が見られる。プロ7年目ではあるがJ2のピッチに立つのは今シーズンが初で経験不足という面はあるのかもしれない。開幕戦からしばらくは守備範囲の広さやハイボール対応の良さも目立ったが、第10節のアウェイ徳島戦で致命的なキャッチミスをしてからは時折不安定さが顔を出すようになった。

手倉森監督もしばらくは高木和と徳重の両選手を起用したが、この最終盤は徳重がゴールマウスを守っている。もう負けられない試合が続く中で、攻撃のスムーズさを多少欠いてでも守備の安定を取りたいという事だろうか。守備ではほとんど凡ミスを犯さない安定感、一対一の駆け引き、徳重の守備はJ2の中でも一級品なのは間違いない。久々の起用になったアウェイ千葉戦は相手がプレスに来ないという戦術的な理由もあって徳重起用は大いに当たったが、山形戦はかなり厳しい展開になった。

③山形のハイプレスと理想を捨てた長崎

前回対戦時のアウェイ山形戦は0−1で敗れた。大胆なターンオーバーが仇となって攻撃の機能性が落ちたこと、そして山形に運動量で大きく上回られた事が敗因となった。

今節の山形戦もやはり相手の運動量に苦しむ展開となる。前線からのプレスはかなり厳しく、特にヴィニシウス・アラウージョは何度もスプリントして徳重までボールを追いかけた。長崎はどうやらコンディション不良だった角田を先発起用したもののプレスにハメられる場面が多く、頼みのカイオも疲労が溜まって踏ん張りが効かず、徳重の苦し紛れのクリアを回収されて二次攻撃、三次攻撃を仕掛けられた。いつもの通り最後尾からビルドアップして前進したいが山形のプレスが上回る場面が多く、前半終盤には致命的なミスを2つ犯してしまう。山形のシュートミスに大いに助けられ、なんとか無失点でハーフタイムを迎えた。

手倉森監督はエジガルと角田を下げてルアンとフレイレを投入。下がった選手は2人ともコンディション不良や負傷絡みだったようだが、この交代で長崎は決定的に試合の進め方を変える。プレスに苦しんだ前半とは打って変わって、中盤を省略する長いボールを蹴り込んで押し込む方法を選択。それも執拗に山形右サイドバックの山田(170cm)を目掛けて蹴っていたのは偶然ではないだろう。山田に対して富樫やルアンが競り勝ち、近くにいる氣田がボールを拾って得意のドリブルで切り込む。窮屈になりながら最後尾でビルドアップしていた前半に比べると相手ゴールまで迫る回数は増えた。

試合終盤ならまだしも後半頭からボールを放っていくのはかなり珍しく、これまで長崎が積み上げてきた理想とは違う形だったように思う。それでも山形のハイプレスに晒されながらビルドアップをするリスクよりも、長いボールを蹴った方が勝算があるという判断だったのかもしれない。この辺は監督インタビューでも見えてこなかった部分だが、この「プランB」は予め準備したものだったのか即興だったのか…いずれにしても効果的だったように思う。

プランBで押し返したもののゴールを奪うことはできず、山形もヴィニシウス・アラウージョを中心に効果的に攻め込んでくる、ボールが行ったり来たりする展開が続く。GK藤嶋が当たっていたこともあり、このまま無得点かと思われた86分にルアンのコーナーキックを富樫が叩き込んで先制に成功、そのまま逃げ切って貴重な勝点3を確保した。

④昇格のキーマンはルアン?

今シーズンの目玉補強として加入したルアン。ブラジル1部で188試合出場26得点と十分すぎる実績を提げた鳴り物入りのJリーグ入りだったが、ここまで実力を発揮しているとは言い難い。28試合904分出場で5ゴール3アシスト、数字は残しているが戦術的にハマっているとは言いがたく、手倉森監督としても現状は切り札という使い方をしている。ルアンの融合という課題は来シーズンまで持ち越しになりそうだ。

それでも今節のルアンは確かなクオリティを見せた。惜しいミドルシュート、フリーキック、そしてアシストに繋がったコーナーキック。それ以外でもよくボールに絡み、後半からのプランBを機能させた最大の功労者だったように思う。ここへきて怪我人が続出している2列目、選手全体に蓄積疲労が溜まっている中で比較的ルアンは動けているように見えた。もしかしたらこの最終局面、昇格に向けてのキーマンになるかもしれない。

もう一人、蓄積疲労が溜まっていない秘密兵器といえばイバルボも控えている(怪我してなければ)。離脱が続く亀川、米田、澤田、名倉は誰が復帰しても大きな戦力になる。

⑤おわりに

徳島が町田相手に敗れ、福岡が金沢相手に足踏みした事で富樫の決勝点は値千金から値万金になった。自動昇格圏まで勝点2、十分に射程圏内ではあるが一敗も許されない状況は変わらない。

残り3節、各チームに懸念材料はある。リカルド徳島は戦術的な要である渡井が負傷交代している事、長谷部福岡は躍進を支えた松本泰志が負傷離脱してから勝ちきれない試合が続いている事、手倉森長崎はサイドプレーヤーの負傷が重なり推進力が出せなくなっている事…どのチームも過密日程の代償を払うようにベストメンバーを組めなくなっている。福岡と長崎は累積警告にリーチが掛かった選手が多く、特に長崎のカイオ・セザールはもう1枚警告を受けると2試合出場停止、つまりシーズン終了になるため、依存度から考えれば長崎が最もカードリスクを抱えていると言える。

次節はアウェイ東京V戦。相手を制限するプレスをあまり仕込まれていない長崎はボール保持を志向する相手に苦戦する傾向にあり、琉球・磐田・徳島には結局勝てなかった。ボール保持の最右翼である東京Vを相手に楽々勝てると考えるのは楽観的すぎるだろう。ボール保持のチームに対して中途半端なプレスは命取りになるが、構えて4-4-2のブロックを敷いても縦パスを通され続けて苦しくなる。長崎としては畑を最前線に置いて燃え尽きるまでプレスを掛けてもらい、互いに運動量が落ちる70分以降に仕留めるような戦略がハマりやすそうだが、手倉森監督がどう考えるか注目したい。

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