【自分たちのサッカーとは】第2節 アルビレックス新潟戦【雑感】
①スタメン
長崎は前節からシステムを3バックに変更。澤田に代わってフレイレ、富樫に代わって都倉が先発となり、守備の枚数を1枚増やして試合に望んだ。
新潟は前節から1人変更、センターバックが早川に代わって舞行龍となった。開幕戦はアウェイで北九州を4-1と撃破して初っ端から勢いをつけることに成功した。注目選手は言わずもがな左サイドのドリブラー本間至恩、なんでJ1に行ってくれなかったのか小一時間問い詰めたくなるレベルの選手。
②「自分たちのサッカー」論
日本サッカー界隈において「自分たちのサッカー」という言葉は禁忌のように扱われている。発端となったのは2014年のブラジルワールドカップ、ザッケローニ監督の元、至上最強とも謳われた日本代表だったがまさかの1分2敗でグループリーグ敗退した出来事。この時、監督や選手は異口同音に「自分たちのサッカー」が出来なかったと敗戦の弁を語り、国内から大きなバッシングを受けた。「サッカーという競技には相手がいるんだから、自分たちのサッカーだけに固執してはダメだ」という論調が一般論として定着したような感じがする。
しかしサッカー解説者の戸田和幸氏は著書でこのように語っている。
今の時代、試合前に相手チームをスカウティングするのは当然で、対戦相手がどんなプレーモデルを持っているのかについては、ある程度予測は可能だ。そのうえで対策を練り、指揮官はゲームプランを立てる。
しかし、相手に合わせて、毎試合戦い方をコロコロと変えていては、安定した結果は残せない。自分たちの幹をどれだけ太くできるか、クオリティを上げられているかという視点を持たなければ、チームま迷走し続けるだけだ。だから、「自分たちのサッカー」という意識は、間違いではなく、逆に非常に重要なことだと思う。
(解説者の流儀:戸田和幸著/2018)
当然自分たちのサッカーだけにフォーカスしろ、と言っているわけではなく、大前提として自分たちの理想を描いておかないと場当たり的なチームになって積み上げができなくなる、という事である。
果たして、新潟戦における長崎の振る舞いがどうであったか。個人的には新潟を、というか本間至恩を少しリスペクトしすぎたように感じた。結果的に失点はフリーキックをクリアし損ねたアンラッキーなものだったかもしれないし、新潟に許した決定機も多くはなかった。ゴール期待値を見ても長崎の方が高い数値だった。しかし再現性や連動性という意味では新潟の方が美しいチームだったように思う。対する長崎は本間至恩対策、という意味ではある程度成果を残したが攻撃面では単発、即興、個人技という面がかなり目立った。
本来であれば長崎はボール保持をベースに即時奪回を仕込んで高みを目指したいチームだ。しかし今節は3バックにしたことでボール保持が機能せず、ボールを失った瞬間のプレスの方にフォーカスされていた。それでも勝てば官軍だったかもしれないが、アプローチとして本当に3バックが正しかったのか、という疑問は残ってしまった。
③「守備は良かった、あとは攻撃だけ」という幻想
サッカーという競技は攻撃と守備の場面が継ぎ目なく入れ替わるスポーツだ。野球のように攻撃と守備がターンで分かれていない。昨今盛り上がりを見せるポジショナルプレーなるものも、攻撃しながらにして守備をする、守備をしながらにして攻撃をする、という狙いをもって選手の配置を効果的に動かそうという事らしい(たぶん)つまり攻撃と守備は表裏一体であり、両者を分けて論じることにあまり意味はない。
アウェイに乗り込んでの一戦だったんですが、相手のモチベーションは非常に高いと試合前から予想し、自分たちもそれに負けないようにということで、前節(・金沢戦)と違うシステムでいきました。ある程度、守備はうまくいったと思います。攻撃はもう少し、テンポよく自分たちのリズムを作りたいところが前半の課題でした。
(吉田監督)
だからこそ、個人的には吉田監督のこの発言が解せないと感じた。攻撃に厚みが出なかったのは3バックを選択したことによる配置の影響が大きく、新潟の鋭いプレスに対してボール保持を安定させることができず、陣形を押し上げる時間を確保出来なかったためだ。スタッツを見るに前節金沢戦と違い左サイドが攻めどころだったようだが、米田とルアンが2人で孤立する場面は少なくなかった。
また普段と違うシステムで、カイオと秋野の連携も上手くいかなかった。普段であれば秋野が1列下がって縦関係になる2人だが、横並びになるとどうもボールが上手く前進しない。中盤が即興的になったため、チーム全体としても即興っぽい色が強く出たのかもしれない。
④新潟に主導権を握られた理由
新潟の強みは明らかに左サイドにある。本間が大外に開いたりインサイドに絞ったり、堀米と連動しながら脅威になり続ける。長崎の対応は前述したとおり3バック(5バック)化して毎熊と名倉で蓋をする、というものだった。
また吉田長崎のコンセプトとして前からのプレスが重要になるため、都倉・ルアン・名倉・カイオ・秋野が五角形を作りながら圧力を掛けていく。後ろは米田・二見・フレイレ・新里・毎熊が横一列に並び、ボールがある側のウィングバックが高い位置をとって牽制する感じだった。
新潟は立ち上がりからディフェンスラインの裏を狙う姿勢を見せており、ロングボールに長けた千葉・舞行龍のパスに鈴木とロメロフランクが抜け出すという形が多かった。ラインを押し上げるのが怖い守備陣、前からハメたいプレス隊、結果として新潟相手に一番与えてはいけない最終ラインとボランチの間にスペースが生まれてしまった。このスペースを上手く使ったのがトップ下の高木善朗で、プレス隊を左右に揺さぶってできるスペースに侵入してボールを引き出した。
やりたいプレー、やりたいことができているので、ストレスなく試合ができていると思います。後ろからボールをつないで相手のゴール前まで攻めていくところがうまくいっている。個人の狙いとしては、相手のボランチの脇で受けて、前にボールを進めるところをうまくできたかなと思います。
(高木善朗)
新潟はGK阿部もビルドアップに参加できるためかなり安定してボールを握ることができた。ボールを前後左右に動かしながらボランチ脇が開けば高木が、毎熊が釣れたら本間が、舞行龍か千葉がフリーで動き出しが合えば鈴木が……何本も前進ルートを確保した新潟は後出しじゃんけん状態で長崎を押し込むことが出来た。
それでも最後の部分では5バックが奏功して良い状態でのシュートは許さず、毎熊や二見、徳重の頑張りで前半は失点を許さなかった。
⑤強引に新潟をこじ開ける長崎
ここまで書くと長崎が全くダメだったような印象を与えそうだが、データは長崎の方がゴールに近かったと示している。前半終了時点でゴール期待値は新潟0.3に対して長崎は1.0となっている。
構造上どうしても後ろに重くなる長崎の攻め筋は2つ、クリアボールを都倉が収めてカウンター、もしくは前線からプレスで引っ掛けてショートカウンター。攻撃の中心は前節と同じくルアンだった。新潟の4-4-2ブロックに対して幅と奥行きを取って崩す、という事はなくデュエルを制してゴリゴリとゴールを目指した。それでもここまでシュートを打てたのは、何度か奪いきったプレスからショートカウンターが成功している証拠でもある。手倉森長崎では仕込みに時間のかかったショートカウンターだが、吉田長崎では既に型として定着しつつあるようだ。
⑥おわりに
絶望的に悪かったわけじゃないけど、うーん…という内容。去年のチームから良い部分は継続して、という話だったで金沢戦ではある程度継続性を感じられたが新潟戦は全く別チームという印象だった。これが吉田長崎のプランBなのかもしれないが、やっぱり本間至恩をリスペクトしすぎた気もする。
果たして「自分たちのサッカー」とは、吉田長崎の一丁目一番がどこなのか、序盤戦でもう少し観察する必要があるのかもしれない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?