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【インドに初めていく人必見】一晩中、騙され続けて詐欺にあった話『#5詐欺ツアー契約』

友人はクレジットカードを持っていたらしい。今の今まで気づかなかったようだ。本人も持ってきていないつもりだったが、さっきふと財布を見たときに入っていたと言った。こうして俺たちは幸か不幸かツアーを組めるだけの資金力を手に入れたことになる。

車はまた別のオフィスの前に到着した。この時間だと当然閉まっているらしく。ドアを叩いても反応がない。ドライバーが看板に書いてある番号へ電話をかける。車の中で10分ほど待つ羽目になった。

それにしてもインドのツーリストオフィスはどこもかしこも似たような佇まいをしている。日本で旅行代理店と言えば、H.I.Sなどの綺麗な営業事務所を想像してしまうだろうが、インドはそうではない。薄汚れた2階建の15平米にも満たない建物の1フロアで営業している。看板にはのっぺりとした青地に白い文字でTOURIST INFOMATIONと書かれた文字。そして汚れたガラス張りの壁に、インド各地の観光名所であろう景色の粗い写真が2,3プリントしてある。

そんなことを考えていると、内側からドアの鍵が開けられ、引き戸が開いた。中からは、派手なアロハシャツに短パン姿のいかにも遊び人といった出で立ちの中年のインド人男性が出てきた。

「ハロー!入れ!入れ!」彼はこれまで巡ってきたどのオフィスの人間よりも、陽気に俺たちを迎え入れた。

そして握手をする時、彼の口から思いもよらない日本語を言った。

「ちんこ、まんこ。」彼はニヤニヤしながら言った。意味は理解しているようだ。

「急に何を言いよるんやこいつは」突然インド人の口から、女性器と男性器を表す言葉を聞くことみなるとは思わなかった。不意に笑ってしまった。なんだか久しぶりに笑った気がする。「どこでそれを習ったん?」と聞くと、前にオフィスに来た日本人が教えてくれたと言う。そして彼はFacebookを見せ、いろんな日本人の友達がいることをアピールしてきた。

俺が気になったのはFacebook上の日本人の友達よりも、彼の持つiphoneだった。おそらく最新のものだ。まだインドに着いて間もないが、誰一人としてインド人がiphoneを持っているのを見ていない。皆、おそらく廉価版であろう中華スマホを使っていた。インドで高価なiphoneを持っているということは、かなりの稼ぎがある人間のように思える。


「今から泊まれる安宿を探しとるんよ。あと、ツアーは組まんで!」俺はソファに腰掛けると、今までと同じように単刀直入に言った。

「OK、ちょっと調べてみるから待ってな」そう言って、彼は机の上のデスクトップパソコンをいじり始める。

タタタッと鳴るキーボードは、いかにもあなたのために仕事をしていますよ、と言っているようだ。だが、次に彼の口からはお決まりのあのセリフが出ることを予想するのは容易い。

「ダメだ。全部予約で埋まってるな。いっぱいだ。」

彼のその返答を聞いても驚くことも落胆することもなかった。このシチュエーションで発せられる”Full"という単語は俺の中でもう予定調和になっている。そして、続けざまにこう言うはずだ。「プランを組まないか」と。

「デリーは物価が高いから出たほうがいいぜ。旅行プランを組もう。」

「プランを組めるほど、金を持ってないわ。200ドルしかないんよ。」

「それなら尚更、デリーを出たほうがいいぜ。お前らには高すぎる。俺がチケットを手配してやるよ。」

「いや、wifiを繋がせて欲しいんよ。自分で調べるけえ。」

「wifiはここにはないぜ。俺がもう一度調べてやるよ。」

wifiが無いわけがない。スマホを見ると明らかにwifiが飛んでいるし、彼はパソコンを使っている。だが、そんなデタラメな嘘に対抗する気力はもうすでに無い。

「2件見つかったぜ。80ドルと100ドルのところだ。」

「高すぎるの…。どうなっとるんや。俺に見せてや。」俺は彼のパソコンの画面を覗く。

すると、そこには確かに80ドルと100ドルの値段が表示されたエクスペディアのサイトがあった。驚いた。ただデマカセに高い値段をふっかけてきているのかと思っていたのに…。安い順に表示を変えてみてもその2件しか出てこない。

「まじ!?…………なんでこんな高いん?」

「インドは今、暴動が起きていて危険な状況なんだよ。だから、デリーの宿泊施設はほとんど閉まってるんだよ。政府の決定だぜ。これも見てみろ。」

そう言って彼は、パソコンで新聞記事のページを開き俺たちに見せてきた。俺は目を疑った。そこには、驚愕の事実が記載してあった……

『"政府の命令によって、ニューデリーの宿泊施設の80%はシャッターを下ろした"』
見出し部分に太字でデカデカと”80%” “close” “ Government”の文字が書かれている。

「まじだったんか…………。」今見せられたエクスペディアのサイト、新聞記事は決定打だった。俺は言葉を失った。その隙をつくように、彼は説明を時始める。

「この記事にあるように今デリーの宿のほとんどが休業状態なんだよ。残った数少ない宿に、今いる旅行者が泊まっているんだよ。だから、どこも満室なんだぜ。きっとお前らが行こうとしていた宿も開いてない。物価も宿泊料金もかなり高い。だからお前らは今すぐデリーを出て、他の州に行った方がいいんだよ。」

「………………。」

ここまで証拠を見せつけられてしまったら、反論のしようがない。今まで合計で3つもオフィスを回ってきたが、彼らの言うことは初めから間違っていなかったと信じざるを得なかった。ただやり口が強引なだけで、言っていることは正しい。

だが、この疲れ切った脳みそで大きな決断をすべきじゃないことだけはわかっていた。今、ツアーの購入をするべきじゃない。

「インドの今の状況はよくわかったわ。じゃけど、今は頭が回らんくて決断できん。取り敢えず高くてもいいけえ、宿に行きたいわ。」

「わかったぜ。じゃあ電話して空いているかどうか聞いてみろよ。」

そう言って彼はスマホを手渡してきた。サイトに載ってある宿の電話番号を入力して電話をかける。だが案の定、どちらのホテルも”full’と言って断られた。八方塞がりだ。どうやらもう俺たちには、ツアーを契約する道しか残されていないらしい。

「どうだったよ?」彼はあたかもその返答を知っているかのような素振りで、俯く俺の顔を覗き込む。

「だめじゃった。いっぱいだと……」もうなす術がない。

「そうか。だったらお前たちはツアーを組んで今すぐデリーから出た方がいいぜ。田舎に行けば安全だし、金もかからないぜ。ちんこ。まんこ。OK?」
無意味に語尾につけられた”ちんこ。まんこ。”という日本語。それは、彼が落ち込む俺を励まそうとしているのか、それともしてやったりという気持ちの表れなのか、定かではない。

「わかったわ。一番安いプランにしてくれるんじゃったらツアーを組む……。」
もうツアーを組まざるを得ない。一番安いツアーを組むというのは、この状況で俺たちに残された最後の選択肢だった。せめて値段交渉をして費用を最小限に抑えるしかない。

それから彼はデスクの上に白い紙を一枚置いた。そして地図を見ながら、その紙にこれから行く町々の名前や移動手段、泊まる宿の名前などを書いていく。紙に書きながら同時に電卓を使い、料金を計算している。誰も言葉を発さなくなり、静まりかえったオフィス。ボールペンが紙の上を滑る音と電卓をパチパチと弾く音だけが、まるで単調なメトロノームのように一定の間隔で、無機質に響いている。何だか頭がぼーっとしてきた。睡眠不足のせいだ。今まで何とかして意識を奮い立たせてきたが、もう限界が近い。彼が使う青色のボールペンを無意味に見つめていた。

数分後、彼は机の上に指先で軽くペンを放った。ガラス製のデスクとボールペンがコンと軽くぶつかる。その少し高めの音は、夢うつつな俺を我に帰らせた。値段交渉だけは何とかしなければならない。

「終わったぜ。見てくれ。1ヶ月のプランで1,000ドルだぜ。」そう言って彼はルートの説明を始める。だが疲れた俺にはもう彼の英語を聞く気力がない。どこに向かおうがどうだっていい。ただ気になるのは、1,000ドルという金額だけだった。

「高いわ。……」俺は力なくexpensive言って、首を横に振った。

「OK。もう一回やり直すよ。」そう言うと彼は新しい紙を取り出し、先ほどと同じように地図を見ながらルートを修正していく。

「800ドルだぜ。どうだ?」

「高いわ……無理。」

「OK……」彼はまたやり直す。

「このルートで600ドルだぜ。これ以上は安くできないよ。限界だぜ…。」

「高い…もっと安く…」

「できないぜ。俺が紹介できるのはこのプランまでだよ。これ以上安くしてしまったら、お前たちはどこも観光することができないぜ。」

「…………。」

彼は安いと言うが、俺にとってこの金額は高い。普通に考えれば、1ヶ月間を600ドル(7万円弱)で旅行できるとなると高い金額ではない。だが、インドを貧乏旅行するというのが俺たちの当初の目的であったから、手持ちの200ドル以内で済ませたいのが本望だ。だが、一刻も早くこの状況から解放されたいという願いもまた強くなってきていた。このままだと終わりが見えない。ここまで親切に付き添ってくれたドライバーにも悪い。ふと外を見てみると、ドライバーが退屈そうにぶらぶらと辺りを歩いている。俺たちはドライバーに相談することにして、彼を事務所の中に入るように声をかけた。

「こいつは600ドルで1ヶ月のツアーを組めるって言いよるんじゃけど、どう思う?やっぱり俺は理想で言うと、200ドルにしたいんよ。」

「600ドルはものすごく安い。1ヶ月だ。ヨーロッパで1ヶ月旅行しようと思ったら、600では足りない。私はこのプランでいいと思う。」

「そっか……」

「最初は1500ドルだったんだ。それが半分以下の600になった。これ以上安いところなんて見つからないだろう。」

「そうよね。なるほど……。」

確かに彼は正しい。中立的な彼の意見には、俺を決断させるために十分な根拠を与えてくれた気がした。だが同時に俺は、「まだ他にも方法があるんじゃないか?」と自問していた。しかし、考えれるほど頭が働かないのも事実だ。一方、事務所のオーナーは「早く決めた方がいいと催促してくる」。俺が「ちょっと待ってくれ」と頼んでも構うことなしに喋り続けてくる。まるで考える隙を与えないように。俺は友人といったん事務所の外に出てタバコを吸うことにした。

事務所の外で、俺は最後に友人に相談を持ちかけた。

「俺は600ドルのプランでも良いと思うんじゃけど、少し納得しとらん自分もおる。別の方法もある気がするんよ。」

「わからんけど、俺はもうこれしかないと思う。あれだけ言われた後じゃ、あいつはあながち間違ってないんじゃないか?ドライバーもああ言っとったし。何しろどこでもいいけえ早く寝たいわ。」

「そうじゃの。わかったわ。600ドルで契約しようか。」

友人の意見を聞いて、俺は完全に購入を決意した。友人も俺も同じように精神的にも肉体的にも疲弊している。インドを旅行するというよりも、休みたいと理由の方が大きかった。


ほどなくして、事務所に戻った俺たちはオーナーの彼に購入する有無を伝え、友人のクレジットカードをきった。一人600ドル。二人で1,200ドルだ。オーナーは「今回の旅行は全て俺に任してくれ」と笑みを浮かべながら自信満々に言った。お互いに「ちんこ、まんこ。」と言って握手を交わす。こうして俺たちはインド旅行ツアーに参加することになった………

早速ツアーは始まるようで、1時間後に送迎用の運転手がくることを伝えられた。今から向かうのはジェイプールという町らしい。ここに至るまで、本当に紆余曲折があった。とりあえずやっと休むことができるわけだ。俺はソファの上で大きく安堵のため息をついた。気付けば時刻は朝の6時になっていた。外を覗くと、すでに夜は明けている。

「はあ………やっと終わった………」

無事ツアーが決定し安堵すると同時に、4時間にもわたってここまで付き添ってくれた空港のドライバーに申し訳がない気持ちでいっぱいになってきた。600ドルは俺からしてみれば高い気もするが、逆に言うと彼がいたからこそ600ドルに収まったのだ。親切な彼と別れることが少し寂しく感じる。

「無事に決まって安心したよ。私はもう行くからね。言いにくいんだけど、約束の200ルピーをもらいたい。」

仕事が終わった彼は、もう帰るらしい。ここでお別れのようだ。俺は少し友人と話して、ここまで付き合ってくれた彼に多めのチップを払うことにした。空港で困っていたところを助けてもらって、俺たちは本当に彼に感謝していた。

「1,000ルピーあげるわ。チップじゃけね。長い時間まじでありがとう。受け取ってや。」

俺はそう言って彼に5倍の金を払いハグをすると、彼は事務所から出て行った。彼はこれまで本当に嫌な顔一つせず、俺たちが納得するまで待ってくれた。彼の優しさには本当に感謝しかない。




1時間後、送迎ドライバーが到着した。送迎車はプリウスとは比べ物にならないほどの代物だった。トヨタの旧車クラウンよりも全体的に少し丸みがかったデザインの白の普通車。インドの国産車だろうか、見慣れない”T”のマークが前後に付いている。フロントガラス上部には遠目でも分かるようにはっきりと、白ペンキで”TOURIST”の文字が書かれている。後部座席の片方のドアは故障のため外側からは開けれないらしい。

そんなオンボロ車の中から出ててきたのは、少し天パ気味にもっさりとした白髪頭の口髭をたくわえた老人男性だった。彼は名を、イシャーンと言った。イシャーンは、身長は高くないわりにでっぷりと出たお腹が特徴的だ。彼の着ている薄みがかったブルーのシャツは、ところどころほつれが目立ち、ボタンが一つ無かった。自慢げにiphoneを使う事務所のオーナーとは打って変わって、あまり稼ぎがなさそうな印象だ。イシャーンはオーナーと少し話すと、俺たちに「行くぞ」と合図した。


「よろしく。悪いけど今はすぐに休みたい。疲れすぎた。ジェイプールまではどのくらいかかるん?」

「はじめまして。よろしくな。そうか長旅だからゆっくり休め。ジェイプールまでは6時間だぞ。」

「OK。6時間か……」

どうやらいきなりの長距離ドライブらしい。俺は後部座席にぐったりと深く座り、自己紹介もしないまま目を閉じた。やっと眠れる。どれだけこの瞬間を待ち望んでいただろうか…。車の荒々しいエンジン音をよそに、いつの間にか深い眠りについた。







ゴンッという車の振動で目が覚めた。時計は午前10時過ぎを指している。約3時間もの間、夢さえみずに深く眠っていた。短い睡眠だったが、目が冴えている。ようやく冷静さを取り戻せたようだ。高速道路らしき道を走る車の窓から外の景色を見ながら、もう一度これまでの経緯について考えてみる。

俺たちは空港で寝ていたところを職員に起こされた。そしてドライバーに連れられ宿に向かった。しかし、バリケードがあったため通れず、仕方なしにツーリストオフィスを巡る羽目になった。3軒目のオフィスで新聞記事とエクスペディアのサイトを証拠として見せられ、信じ切った俺はツアーを契約し、今に至る……。

もし仮に、あの新聞記事とサイトが嘘っぱちだったらどうだろう。そう仮定したら、俺たちはまんまと罠にはめられたことになる。空港専属ドライバーの親切な彼も全員がグルで俺たちを騙そうとしていた、としたら………俺たちがツアーを契約した時間は既に早朝だった。朝なら俺たちをどこかで解放したっていいはずだ。そもそもなんで、彼はオフィスに行った。ホテルに直接連れて行ってくれれば話が早いものを……考えれば考えるほど、どうもきな臭くなってきた。一番の違和感は、この目で見た黄色いバリケードだ。あれは確かに道の真ん中に設置されていた。あのバリケードは本当にエリアを封鎖するためのものだったのだろうか?。あのバリケードの存在意義さえ証明できれば、いいように組み込まれ完成したパズルが全て崩せるような気がする。もう既に金を払ってしまったので、あとの祭りに過ぎないことだが。友人が眠っている横で、そうこう考えていると、車はサービスエリアらしき所に駐車した。「昼メシの時間だ」とイシャーンは言った。

サービスエリアの中のレストランに入ってみるも、どのメニューも想像以上に高く食べる気にならなかった。暇を持て余した俺が辺りを散策していると、駐車場に一台、ジープを模した白いインド車が停車した。フロントガラスの上部には俺たちが乗る車と同じように”TOURIST”の文字が書かれている。すると中から日本人らしき色白の女性二人組が出てきた。彼女らもランチの時間のようで、レストランに入っていった。

そして、彼女らがレストランから出てきたところを見計らって声をかけてみた。

「あのー。もしかして日本人ですか?」

「そうですよ!インドを旅行していて今からデリーに戻るところなんです!」

案の定日本人だった。彼女らは俺と同い年で、一週間ほどインドを旅行していたらしい。「やっとちゃんとした情報を聞くことができる!」と思った俺は、彼女たちにいろんな話を聞いた。

「デリーが今、危険な状況だっていうのは本当ですか?俺たちこうこうこんな感じで、ツアーを組まされて今に至るんですけど……」

「う〜ん…よくわからないけど。私たちも強引にツアーを組まされました!多分高かったけど、ドライバーはちゃんと仕事してくれますよ!」

「えっ……てことは、どの宿も埋まっているって言われたのは…?」

「私たちもおんなじことを言われましたよ!でも後で確認したら、どうもそういう手口らしいです!」

いよいよおかしい。俺はこの時点で騙されたのだとほぼ確信した。俺たちも彼女たちと同じように詐欺にあったのだ。だが、自分のした決断は正しかったと思いたいのは人間の性分で、2割ほど「本当にデリーは今危険な状態なんだ」と信じていたい自分もいた。彼女たちに別れを告げ、俺は車に戻った。「宿に着いたらすぐにwifiを繋いで確認しよう」。真実を知りたい衝動にかられ、残った移動時間は一睡もできなかった。

それから3時間後、車はジェイプールという町に着いた。「イシャーンがこの町には〜があって……」と色々説明してくれているが、そんなことはどうでもいい。車が宿に着くと、荷物を部屋に置き、一目散にwifiを繋いだ。スマホでインドに関する情報を片っ端から調べてみる………

騙されていた………デリーが危険な状況で宿がほとんど閉鎖されているという情報なんて存在しなかった。俺たちは長い時間をかけ、疲弊された挙句、キレイさっぱり騙せれたのだ。念のため、本来止まる予定だった日本人宿サンタナ・デリーに電話をかけてみることにした。ホームページの電話番号を確認すると、電話をかける以前にありえない事実が判明した。





電話番号が間違っていた……俺がインドの入国審査用に出国前に調べてメモした電話番号とそこにホームページに書いてある電話番号の下一桁が間違っている。俺が書き間違えたんだ……。この時点で俺はひどく落胆した。そもそも電話がかかるはずがなかった。にもかかわらず、ある時は日本語が喋れるインド人が、ある時は英語で話すインド人が電話口に出てきた。

気を取り直して、宿の電話を借りて正しい電話番号に電話をかける。電話口には、辿々しくもなくはっきりとした発音の日本語が聞こえる。その声は“本当のサンタナ・デリー”だった。電話に出てくれた男性はインドのことをきちんと日本語で説明してくれた。『デリーが危ない』『どのホテルも埋まっている』というのは定番の騙し文句であること。彼らは非常に巧妙で、騙される日本人が後を絶たないこと。ずっと気になっていたバリケードのことも尋ねてみた。

「宿街に入るときに、バリケードが設置されてたんですけどアレはなんですか?」

「あーー。あれは、車が進入してこないように夜中だけ置かれてるんすよ。別に危険だからとかじゃないっすね。単に交通整理みたいな感じっす。

「そうですか………」

「ってか、何日間のツアー組まされたんすか?」

「1ヶ月です……。」

「まじで!1ヶ月!めちゃ長いっすね!」

男性がそう言った後、受話器の向こう側で彼とは別の男性が「ハッハッハ!やばぁ!長すぎ 笑」と言っているのが聞こえた。1ヶ月というのは、爆笑されるくらいの期間らしい。悔しかったがきれいに騙された立場上、何も言い返すことができない。

「まあでもきちんと仕事はしてくれるっぽいんで、楽しんでくださいね!」

「わかりました。まぁなんとか楽しみますよ。わからんけど…笑。ありがとうございました。それじゃあ!」

全ての疑問が解決された。3軒目のオフィスのオーナーが自慢げにiphoneを使っている様子を思い返したら憎たらしい。どうせこんな詐欺ビジネスで儲けた金で買ったのだろう。ここまで長時間に渡って組織ぐるみで巧妙に騙してくるとは思わなかった。想像していた十倍手が混んでいる。そういえば、プリウスのドライバーにはチップまで渡してしまった。俺たちは本当に都合の良いカモだったわけだ。


こうして、俺たちは詐欺にあいましたとさ。めでたし、めでたし。

PS.もしみんなもインドに行くことがあったら、”ツーリスト・オフィス”には気をつけるんよ!100%詐欺じゃけえね!ここまで読んでくれてありがとう!




〜〜終わり〜〜


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