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八月納涼歌舞伎 第三部「狐花」2回目 感想



1回目の観劇のあと、小説をKindleで買って読み、2回目の観劇を追加。見たいと思った時に取れる幕見席ありがたい。小説から情報量を吸い取ったからか、前回よりも時間の進みが早く感じて見やすかった(笑)




今回は主に小説との違いをメモとして残そうと思います。記憶違いはあると思うので、ご容赦ください。



■ 『?』

監物が信田の屋敷を襲撃するシーン。襲撃の騒ぎを聞いた美冬が、いち早く赤子の洲齋を逃がす。美冬が”葛の葉”の文を懐から取り出し、洲齋に預ける様子も描かれる。右奥の掛け軸には五芒星が。顔を隠した監物が信田の首を掴んで部屋に入ってくる。監物から首を手渡された美冬は、泣き縋りつく。

その後炎の幕が下り、雲水が登場。屋敷が燃える様子から次のシーンへと繋げる語りをする。(この雲水の役割が結局よくわからなかった)


■ 『死人花』

ここと2幕頭とでシーンが分割されている。時間経過ののちに再会したとは考えにくく、このシーンの最後に萩之介が社の向こうに走り去っていくため、2幕はこのシーン内で暗転した時のもの?かもしれない。台詞も分割の都合で小説から順番が入れ替わっていた気がしたけど、どこからどこまで~は覚えきれなかった。「法に触れることはしていない」あたりは2幕だったはず。

七之助さんの凛とした声が良い。洲齋を警戒する声、見透かされぬように威勢を張る声、フッと力が抜けて落ち着く声…短いシーンの中で、台詞の調子が豊かに変わる。面の内側に一体何が潜んでいるのか、惹きこまれる始まり。

(ちなみに、このシーンは時系列的に『地獄花』の後ではないかと思っていたけど、『地獄花』時点で洲齋の1つ結びの髪型がショートに変わっていたため、自分の中で時系列がよくわからなくなってしまった。)


■ 『墓花』

松と雪乃の2人場面に住職が追加され、人目を憚らずはしゃぐ雪乃の幼さが垣間見える。小説では、雪乃から亡き美冬への印象だったり、監物を揶揄して入らずの森に入ろうとする雪乃が描かれることで、年頃にしては少し幼い性格が描かれる。

また、萩之介を見つけるのは必ずお葉が先。そしてお葉が萩之介を見たと話す時、雪乃や松がその方に視線を向けても誰もいない。このあたりの情報は文章の方が整理し易い。


■ 『彼岸花』

生えている彼岸花を摘んだ後、考えなしに玄関先に捨て置こうとした辰巳屋を、それでは意味がないと的場が怒る。チャーミング亀蔵さん改変(笑)

雪乃と監物のやり取りも少し異なる。「人形ではございません」と正面切って睨みつけた雪乃を監物が睨み返す所、監物がサッと視線を外したのは美冬と重なったからだろうか。

病んでいくお葉を放逐しないのは、お葉殺しがきっかけで25年前のことを詮索されたくないという理由で共通している。ただ、辰巳屋がいっそ殺せばいいのではと提案した時、監物は「戯けが!」と扇子を投げつけるほど激昂する(亀蔵さんが小声で「びっくりした」と呟くのがまた面白い)。個人的にはこの様子を見ると、監物がお葉を女中以上の存在に捉えていたようにも思える。

(ちなみに、前回は投げつけた扇子が座敷の外に飛んでいってしまうハプニングが。猿弥さんがセットから降りて取りに行き、縁側で足の砂を払い、監物に扇子を渡し、自身の台詞はじめに間に合わせるというリカバリー。なので、投げる角度を辰巳屋側へと鋭角に変えてた気がする(笑))


■ 『蛇花』

話を終えて帰ろうとするあたりからの変更。
登紀と実祢に、お葉が帰らないでくれと縋りつく。力づくで振り切って小屋から出た際、勢いで後ろの壁に衝突しかけたお葉が、フッと行燈の火を消している。その際、表情は既にお葉ではなく、ゾッとするほど冷淡な顔に見えた。そこからの早変わり、やっぱり何度見ても早くてすごい。

小屋の外でだんまりの場。舞台版の登紀と実祢は提灯を手にしていないので、本当の闇の中にある。登紀と実祢の他に、的場と洲齋(謎すぎ)の姿(この時点で洲齋が髪を切ってたかどうかは見てなかった)。狐の面をした萩之介が現れ、登紀と実祢の手に触れた後、"遺品"をその場に置いて去る。

その後花道に移動し、転換の間留まる萩之介。前回は下手寄りの席、今回は上手寄りの席だったので、この舞台側に向いている時の萩之介の顔が少し見えるようになって嬉しかった。思い通りに事が進んでいることへ想いを馳せているような立ち姿、狐面を取る所作、何から何まで美しい。
(というか見ていて気づいたのが、顎まである面だと口で固定している都合なのか、目元の穴が頬のあたりに位置していた。え、視界どうなってる?なんでするすると移動できる??)

ちなみに小説版だと、小屋から出たあとに登紀と実祢が話を整理し直しており、”刺した葛籠の中にいたのは小柄な他の生き物ではないか”という可能性にも触れている。しかし結局は、”萩之介が出る”ということをお葉が報告する意味がないとし、お葉は病んでいるのだと結論を出す。


■ 『幽霊花』

実祢が帰ってくるタイミング、萩之介が儀助と接触するタイミングが前後している。夕飯前にいつもの参拝を行う儀助。そこに萩之介が登場するも、儀助は何が何やらわかっていない。そこに実祢が帰ってくる。舞台版の方が儀助の実祢に対する距離感が近く、異変を察した儀助が部屋までささっとついていく。その後、儀助が一瞬席を外した際に、萩之介は実祢に接触する。


■ 『火事花』

萩之介の現れ方、火事の原因が異なる。行き止まり?の部屋の中に萩之介が入って行くのを見た登紀が、自らその部屋に向かって手燭を放り投げる。確実に仕留めると昂った登紀は、続いて燃える部屋の中に入って行き、それを目撃した源兵衛が止めようとして火事に巻き込まれる。ここで1幕目終了。


■ 『地獄花』

舞台版では登紀は生存しており、萩之介の狙いが娘達ではなく親達だという点が強調されている。洲齋の推理は大方一緒。

そして、的場のキャラクター像が大きく分岐する。小説では、最後まで依頼を遂行できないと悟った洲齋が依頼料をその場で返却して去ってしまい、見かねた的場が、何もかも明け透けに話して協力してもらった方がいいと暴走するため、監物がその場で切り捨ててしまう。舞台版では、一旦洲齋を帰らせた後、監物側から洲齋に全てを話して利用しようと提案する。もしその後”何か”あれば洲齋を切っていいし、その判断は的場に一任すると話し、「信じられるのはそなただけじゃ」という甘言に、的場は絆されてしまう。自分の手は汚さず、利用できるものは全て利用しようとする、強かな監物である。

ちなみに、小説では「監物は普段、公私を問わず的場を下の名で呼ぶことはない。」「だから的場は少しだけ驚いた。」という描写が冒頭にあり、そうなんだ……………(遠い目)となった。


■ 『捨子花』

前回も書いた、萩之介の身の上話の中にある「男娼として売られた」という描写が「陰間茶屋へ売られた」と変更されている。しかも改めて聞くと、あえて強調して発言しているようにも感じられ、変更した意図を感じる。

演出上、高い高い天井裏に潜む萩之介を描くことが出来ないため、舞台版では状況設定に疑問が残る。話を終えた後、萩之介が逃げるために雪乃が人を呼んで時間を稼ぐという流れになるが、わざわざ人を呼んだ後に萩之介が牢の正面からすたすた逃げようとするため、なんとも間が抜けて見える。(そもそもどうやって正面からしか出入りできない牢に入ったのか?小説のように天井裏から入ったとしても、声をかけるまで雪乃にバレずにスタンバイ出来るだろうか?生活するのに苦労しない広い牢だとはいえ。)小説版の萩之介の動線、監物との対峙までの流れが上手いので、比較するとどうにも気になってしまう。

また的場が生存しているため、逃げる萩之介と初めに相対するのは的場である。萩之介に手を貸す雪乃を、監物の敵と見做し切り捨てる的場。そこに駆けつけた監物が、的場を「不忠者」と罵り、切り捨てる。萩之介はとっさに的場の刀を手に取り相対するも、あっけなく監物に敗れる。このあっけなさ。それはそれで味わい深い部分はあったけれど、もしあの盆などを使って、屋敷の中で繰り広げられる萩之介と御家人と監物の殺陣が、ドラマチックにかっこよく描かれていたら…と思わなくもない。

五芒星の提燈を持った洲齋が花道から現れ、倒れている萩之介を発見する。背景のセットが牢のままなので初見はよくわかっていなかったけど、屋敷の外に打ち捨てられているという状況。わずかな照明の中での洲齋と萩之介の会話にぐっと引き込まれる。


■ 『狐花』

小説冒頭の、周りから全てが無くなった監物の心情描写が、個人的にはかなり好き。洲齋の「愉しいですか」という言葉が図星なのだという伏線。あとは終盤の、曼珠沙華や狐の面を切り落とす監物の姿も好き。

舞台版。洲齋は、先に屋敷内に上がって座って待っており、帰宅した監物もびっくりの大物感。そこから監物も座り、2人で座ったままの対話が続く。幽霊を”見る”シーンは、なにか動作としてのきっかけがあるわけではなく、洲齋の言葉によって監物は幽霊を見る。照明が監物を照らし、その表情により、その幽霊が真に迫る存在なのだということがわかる。そのまま監物はよたよたと座敷の外へ踏み出し、両目を両手で塞ぎ、地面に膝をつく。洲齋は監物との対話を終えると、花道へ移動し、締める。舞台上に残された監物は空を見つめる。どこからか降り注ぐ曼珠沙華は、監物が見ている景色そのものなのかもしれない。



早く舞台写真入りの筋書きとブロマイドが買いたい。。。




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