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なぜ、あなたの主張は伝わらないのか

◆なぜ、伝わらないの・・?

いいアイディアなのに、上司がわかってくれない
明らかに相手が間違っているのに、指摘しても認めてもらえない
商品やサービスは優れているのに、お客様に提案が刺さらない

ビジネスをやっていると、だれしも、こんな経験があると思います。

かく言う私も、つい最近こんなことがありました。
あるプロジェクトについて、会社として取り組みの可否を検討し、上司に報告した際のことです。上司は私の報告に対して、こうフィードバックしました。

「このプロジェクトは、【A】だし、【B】だから、取り組みは見送ろう」

しかし、よく検証してみると、このプロジェクトは【A】ではないことが判明したのです。そこで、私は、こう主張しました。

「部長、検証の結果、【A】ではないことが判明したので、再度取り組みの検討をしませんか?」

ところが、上司は再検討をするのではなく「いや、でも【B】なのだから、やはり見送りだ」の一点張り。。。

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◆ロジカルかどうか

なぜ、伝わらないのか?
そう思ったときに、意識して頂きたいのが、

自分は「ロジカル」に伝えられているだろうか

という点です。

ロジカルシンキングについては、過去に様々な本が出版され、いろいろな定義がされています。私も、以前コンサル会社に勤めていたころには、様々な研修をうけました。が、非常に端的にまとめてしまうと、ロジカルであるということは、

話が整然とつながっていること

と要約できます。
結論と、その結論に至った根拠とが明確で、結論に至るまでのそれぞれの要素がきちんとつながっている状態。そのような説明であれば、どのような人が聞いても、(その結論に同意するかどうかは別にして、)説明の内容は誤解なく伝わるはずだ、というのがロジカルシンキングの考え方です。

では、ロジカルである=話が整然とつながっている、とは、具体的にはどのような状態でしょうか。これも、非常に端的にまとめてしまうと、「タテ」と「ヨコ」の関係がきちんとしていることです。

◆タテの関係

通常、ロジカルシンキングは図のような「ピラミッド構造」で説明されます。一つの結論を、複数の論拠なり事象(ファクト)なりがサポートする形ですが、タテの関係とは、その上位と下位、つまり、結論と論拠の関係のこと。

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コンサル業界では、「So What?」「Why So?」の関係、などと気取った言い方をしたりしていますが、つまりは因果関係です。「AだからB」「B、なぜならばA」という関係が成立していること。これがロジカルシンキングの1つめの条件です。

また、結論を支える論拠が複数ある場合、論拠同士が「かつ(AND)」なのか「または(OR)」なのか、あるいはただの例示(たとえば)なのか、というバリエーションが考えられますので、意識すると良いと思います。

タテの関係については、その他にも様々な各論が展開されています。代表的なものは帰納法演繹法でしょう。が、そのような細かい議論は別の機会に譲り、ここでは、「AだからB」という因果関係(直感的にもわかりやすいです)が違和感なく繋がっているか、どのように繋がっているかに着目してください。

◆ヨコの関係

ロジカルシンキングの世界で、ヨコの関係として必ず言及される概念に、MECEというものがあります。ミーシー、またはメッシーと読まれています(マッキンゼー系の人たちはメッシーと呼ぶ傾向が強いようです)。

MECEは

Mutually (相互に)
Exclusive (排他的な)
Collectively (集合として)
Exhaustive (包括的な)

の頭文字を表したもので、「漏れもダブり(重複)もない状態」と説明されます。

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MECEについては、いくつか具体例を見てみましょう。

上司から「○○社の資金調達方法について、最善のものを考えて、来週までに報告してくれ」と言われたとします。私は、長期と短期の銀行借入、社債発行、CP発行の発行などについて、可能性やメリットデメリットを検証し、その資料とともに、「長期の銀行借入がベストと思います」と報告しました。が、上司は納得せず、「おまえ、(株式増資のような)エクイティファイナンスを検証していないじゃないか、1週間何をやっていたんだ。。。」

上司から要求された分析の対象は”資金調達”でしたが、私は勝手に”デットファイナンス”に分析対象を限定してしまい、必要な全体像に対して漏れが生じてしまった(Exhaustiveでない)ケースです。
ちなみに、資金調達の方法は、上記の他に、資産の売却や流動化を選択肢に入れるべき場合もあります。

ダブり(重複)についても、例で見てみます。
たとえば、コンビニの来店客をセグメンテーション(分類)しようとしたとき、
子供・学生/若者/ビジネスマン/主婦層/ファミリー/高齢者
としたらどうでしょう。なんとなく、すべての顧客がどこかの分類に属しそうですが、子供を連れたお年寄り夫婦が来店した場合など、どちらに分類して良いか迷ってしまうケースがありますね。分類にダブりがある(Exclusiveでない)ためです。

また、「野菜をもっと食べるべき3つの理由」として、
①食物繊維が豊富だから
②腸内環境を整えるから
③大腸がんを予防するから
と説明されたらどうでしょう。どうも、②と③は同じ腸に対する効果なので、似たようなことを言っているような気がします。また、②も③も、(私自身は栄養学や医学は素人ですが、)①の食物繊維の効果かもしれません。もしそうであるとすると、①②③とも、実は同じことを異なる次元で説明しているに過ぎないと言うことになります。理由は3つではなく、1つだったのです。

◆どう伝えるべきだったのか?

冒頭の、『【A】だし、【B】だから、取り組みは見送ろう』と言っていた上司に対して、私はどのように伝えれば良かったのでしょうか?

【A】と【B】がヨコの関係で、「見送り」という判断とタテの関係で繋がっている、という図式を整理した上で、

「部長、私は、本件見送りの判断のロジックは『【A】かつ【B】だから』であると理解しています。しかし、検証の結果、前提となっている【A】という条件は真ではないと判明しました。よって、前提が崩れた以上、結論も再検討するのが妥当ではないですか?」

このように提案していれば、

「いやいや、私が言ったのは、『【A】または【B】ならば見送り』という判断によるものだよ」

とか

「実は【A】は判断に関係ないんだ。言いたかったのは『【A】だなあ。ところで、【B】だから本件は見送ろう』という意味だったんだ」

とかいう反応が返ってきたはずです。私に言わせれば、最初の上司の「【A】だし、【B】だから」という表現がミスリーディングだ、とは思いますが、少なくともこのようなやりとりがあれば、双方のロジックに認識相違があることが明確になり、建設的な議論ができます。

一方、私のように、「【A】ではないことが判明したので、再度取り組みの検討をしませんか?」とだけ言った場合はどうでしょう。
部長としては、双方のロジックが食い違っていることは認識できず、「この担当は上司の判断が不服で、文句を言っているのだな」としか捉えないかもしれません。

◆ロジカルシンキングは万能か

ここまで、ロジカルシンキングについて述べてきましたが、最後に、注意点にも触れたいと思います。これらは、ビジネスの現場でロジカルシンキングを有効に活用しようとしたときに、私の経験上、(自戒を込めて!!)気をつけなければならないと感じている点です。

第一に、ロジカルシンキングはあくまで自分の考えを正確に伝えるためのツールであり、必ずしも正しい結論を導くとは限らないという点です。
先の例で「【A】かつ【B】」が正しいのか、「【A】または【B】」が正しいのか、ロジックだけで結論づけるのは困難です。もちろん、さらに検証を進めて「かつ」が正しいと考えるロジックを組み立てることはできますが、それもあくまで考えの筋道を誤解なく伝えるということに過ぎず、最終的には人間の判断によって、正誤(どちらが妥当か、より説得的か)を決めることになります。

第二に、ロジカルさは相対的なものであるという点です。ロジカルシンキングが相手に伝えるためのものである以上、伝わらないロジカルさというものに意味はないということになります。伝える相手の立場や状況によって、事前情報の量、費やせる時間や思考の量、優先順位などが異なります。その差異を乗り越えることがロジカルシンキングの目的です。ロジカルであるかどうかは相手が決めるということを忘れないようにしたいと思います。

第三に、論破しないという点です。いくら自分のロジックの方が筋が通っていると思っても、議論の勝ち・負けを意識するのは得策ではありません。経験上、上司や顧客はもちろん、同僚や後輩であっても、ロジックで論破しても良いことはありません。

これら3点の帰結として、ロジカルシンキングは必要なときだけ使うという意識でちょうどいいと考えています。ロジカルシンキングは、前提の異なる相手に自分の考えを正確に伝えたいときに効果を発揮します。逆に言うと、前提となる価値観や考え方を共有している仲間同士では、ロジカルに伝える必要がないかもしれません。また、新しい企画の立案をする際に、最初から、「タテの因果関係は、、、ヨコはMECEになっているかな、、、」と考えていては、創造的なアイディアは浮かびにくくなってしまいます。最初から1歩1歩常にロジカルであろうとするのではなく、1km歩いた所で振り返ってロジカルに整理するような感覚がちょうどいいような気がします。

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◆まとめの代わりに

以上、ロジカルシンキングについて、細かいテクニックや方法論ではなく、その意義や、日常業務でどう役に立つのかという観点から概説いたしました。

具体的に思考方法を身につける(クセにする)のは時間がかかりますが、話の繋がりを少し意識することで、ビジネスにおけるコミュニケーションが円滑になり、あなたのプレゼン・交渉の伝わりやすさがアップするかもしれません。

参考図書もたくさんあります。私のTwitterでも時々紹介していますので、ご覧になってみてください。


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