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「反差別ダイベストメント運動から学ぶ」①気候正義のためのダイベストメントとBDS

こちらの記事は2021年8月21日に開催されたオンラインイベント、「反差別ダイベストメント運動から学ぶ」の報告の前半です。


 ダイベストメントという言葉に聞き慣れない人も多いのではないでしょうか?そこで、今回は海外の反差別運動で盛んに用いられている戦略:ダイベストメントについて紹介し、日本ではどうすればいいのか、について考えます。

ダイベストメントとは?

 ダイベストメントは日本語で「投資撤退・投資引き上げ」として訳さ、企業や個人がある目的のために特定の投資先・取引相手から投資を撤退させることを意味する。

 一方、ダイベストメントと並ぶ戦略として「ボイコット」が挙げられる。これはある目的を実現させるために、人々が組織的にある商品を買うことを拒否したりすることを意味する。

 どちらも差別するための収入源を断つことを目指し、差別や人権侵害を行うビジネスを継続不可能なものとする。

気候正義のためのダイベストメント

 おそらくダイベストメントの戦略が最も活用されているのは、気候正義運動においてではないだろうか。大学、教会、労組や企業などに対して、化石燃料産業との関係を解消させることを求めるFossil Fuel Divestment (化石燃料産業からの投資撤退)運動である。

 例えば、米・スタンフォード大学は学生団体 Fossil Free stanford によるダイベストメントを求める動きに応じて、石炭採取企業には投資しないことを決定した。

 化石燃料を採取し、地球を破壊するビジネスはもはやダメだ、という規範が学生団体、労働組合やさまざまな団体の地道な活動によって作られ、現在では企業が自分たちが「クリーン」であることをアピールせざるを得なくなっている。(たとえ、製造過程や輸送過程で大量の二酸化炭素を排出していても。)

 では、環境運動は反レイシズムとどう関係しているのか?と考える人もいるかもしれない。

 そこで、鍵となるのは「環境レイシズム」という概念だ。

 環境レイシズムとは、気候変動や環境破壊のインパクトが全ての人々に対して平等にもたらされるのではなく、先住民や人種的マイノリティの人々、グローバルサウスの人々に対して最も押し付けられる、ということを強調する概念だ。

 先住民や人種的マイノリティの人々の土地を収奪し、そこに発電所や生態系の破壊をもたらす設備が建設されたり、資源の採取が行われる。その結果、土地や水、空気の汚染から生じる健康被害などの影響がその地域のマイノリティの人々に対して最も大きく及ぶ。環境破壊の影響は極めて不平等なものなのだ。

 これについては、Netflixのドキュメンタリー「そこにある環境レイシズム」がおすすめだ。カナダNova Scotia州で、産業廃棄物が黒人が多く地域にダンピングされ、それが癌を発病させていることや、水質汚染に反対するファーストネイションの人々の活動が描かれている。

 現在問題となっている事例としてカナダ北西部で採取した輸出用液化天然ガスを海岸まで運ぶCoastal Gaslink Pipeline建設計画がある。ガス漏れなどが現地の水を汚染し、生態系を破壊することが危惧されているだけではなく、このパイプラインはカナダのファーストネイション(先住民)であるWetʼsuwetʼen nationの居留地を通り、その土地、資源、文化を破壊する。 
(以下、天然ガス採取の様子)

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 しかし、世界中に液化天然ガスを輸出することで得られる利益が優先され、現地ではファーストネイションの人々を中心に、実力による建設阻止行動が繰り広げられている。パイプライン建設に必要な物資を運ぶ鉄道を封鎖したり、建設機械などに自分の体の一部を固定するなどして、少しでも建設工事を遅らせる、同時に、国際問題化している。

 しかも、この抵抗運動は現場で直接闘っている者のみに担われているのではない。世界中でカナダの現場と直接連帯することを目指すダイベストメント運動も同時にあるのだ。

 パイプラインの建設を担っているCoastal Gaslink社の株の約65%は投資会社KKR&Co に保有されていて、KKR&CO社は建設工事の成り行きに対して大きな影響力を持っている。そこで、パイプライン建設を支える投資会社、KKR&COに対してダイベストメント(投資撤退)を求める国際キャンペーン(#ShutDownKKR)が始まっている。

 KKR&Coの投資を撤退させれば、パイプラインの建設は経済的に極めて困難になるからだ。

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 具体的な戦略としては、KKR社の投資先、提携先企業を割り出し、こういった企業に対してメール・電話で働きかけたり、現地のオフィスの前で抗議活動やシットインを行う活動が進んでいる。

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 昨年、ロンドンのKKR社のオフィスの中で若者によるシットインが行われた。KKR社が先住民の土地の収奪によって利益を得ていることを問題化している。

 この様に、環境レイシズムに対抗する気候正義運動において、ダイベストメントは現場にいなくてもできる連帯の活動して大きな意味をもつ。

 しかも、ダイベストメントは気候正義に関するものだけではない。次に、イスラエルによる軍事占領やパレスチナの違法な入植の阻止を目指すBDS運動について紹介する。

BDS 〜 ボイコット・ダイベストメント・サンクションズ


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 BDS運動はイスラエルによるパレスチナの軍事占領、ヨルダン川西岸をはじめとしたパレスチナの違法な入植を阻止することを目指し、2005年に始まった国際キャンペーンだ。それはパレスチナの人々と国債的に連帯することを目指すキャンペーンだ。

 BDSのBはボイコットを意味し、「イスラエルのアパルトヘイト体制、それに加担するイスラエルのスポーツ・文化・学術機関、そしてパレスチナ人の人権を侵害しているすべてのイスラエルおよび多国籍企業からの支援を取りやめる」ことを目指す。

 Dはダイベストメントを意味し、「銀行、地方議会、教会、年金基金、大学などに対して、イスラエル国家やイスラエルのアパルトヘイトを支えるすべてのイスラエル企業および多国籍企業への投資を取りやめるよう働きかける」ことだ。

 そして、最後に、Sはサンクションズ(制裁)を意味し、「イスラエルのアパルトヘイトを終わらせ、その維持を援助・支援しないという法的義務を果たすよう各国政府に働きかける」ことを目指す。
(BDS公式サイトより)


PUMAボイコットキャンペーン

 BDSの一つとして、スポーツブランドPUMAへのボイコットを呼びかける#BoycottPuma キャンペーンが挙げられる。PUMAはイスラエルサッカー協会のスポンサーを務め、ヨルダン側西岸の違法な入植地区のサッカーチームを支援している。つまり、PUMAがイスラエルサッカー協会のスポンサーを務めることは、違法な入植地に正統性を与えていて、だからこそイスラエルサッカー協会と関係を解消するまでボイコットすべきだ、と。

 イギリスでは、PUMAへのボイコットを呼びかけるだけだはなく、実際にPUMAの店舗でシットインを行い、そこで、パレスチナの占領についてティーチイン(公開プレゼン・討論会)が行われてきた。

We are calling for a global boycott of PUMA until they end their sponsorship of the Israeli Football Association (IFA)....

Posted by Palestine Solidarity Campaign UK on Saturday, August 14, 2021

 また、実際にダイベストメントに成功した例としてフランスの大手通信会社、Orange社の例がある。Orange社のフランチャイズチェーン、Partner社は普段から違法な入植地への通信サービスも提供している上に、2014年夏に行われたガザへの虐殺戦争において、イスラエル軍兵士に通信支援、受信料免除、エンタメサービスを提供していた。

 そこで、2010年以降、フランス、チュニジア、モロッコ、エジプトの労組やキャンペーン団体が連携し、Orange社がフランチャイズ先のPartner社と提携を解消することを求める国際キャンペーンを開始した。

 その中でも、エジプトのBDSキャンペーンではOrange社の別の子会社Mobilnilに対する大規模なボイコットが組織された。これらボイコット・ダイベストメントキャンペーンの結果、Orange社は多額の損失を恐れ、Partner社とのフランチャイズ関係を解消せざるを得なかった。

 しかも多国籍企業だけではなく、大学や協会組織、労働組合もBDSの対象となっている。アメリカ最大の長老派教会はイスラエルに物資を提供し、違法な入植を支える多国籍企業3社の株を保有してたが、BDS運動に強い影響を受け、これら入植を支援する企業の株を売却することに合意した。

 また、イギリスの大学は、国際法に違反するイスラエル企業に対して合計4億5500万ポンド以上を投資している。そこで各大学の学生団体が連携し、世界中のBDSキャンペーンから学び、大学側に署名活動やメール、座り込みを行い、抗議してきた。2018年にはリーズ大学、2020年にはマンチェスター大学がイスラエルの入植と関わっている企業から投資撤退を決めた。そして、アメリカの労働組合とその関係者は50億ドルものイスラエル国債を保持していると言われているが、これに対しても近年、売却を求める動きが強まっている。

 少し古いデータだが、2014年の国連の報告書によると、イスラエルへの海外直接投資は、2014年に2013年と比較して46%減少していた。この数字からもBDS運動がイスラエルへの投資に与えているインパクトが見受けられる。

 以上見てきた気候正義のためのダイベストメント運動やBDSはパレスチナの人々や現場で闘っている先住民の人々に単に形式的な賛同を示すのではなく、国際キャンペーンとして、環境破壊とレイシズムの利益構造を実質的に変化させることを目指している。


 次回は極右メディアから広告引き剥がしを求める運動などを紹介しながら、日本で何ができるかについて考えていきたい。


fin.


ヘッダー画像:
(https://diplomatist.com/2020/08/05/critical-shortcomings-of-the-bds-movement-and-a-need-for-its-re-evaluation/ )

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