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Last Night in Soho

1.映画概要

【タイトル】ラストナイトインソーホー
【公開】2021年
【監督】エドガー・ライト
【主演】トーマジン・マッケンジー
    アニャ・テイラー=ジョイ
【備考】R15

2.あらすじ

ファッションデザイナーを夢見るエロイーズは、ロンドンのデザイン学校に入学する。しかし同級生たちとの寮生活に馴染めず、ソーホー地区の片隅で一人暮らしを始めることに。新居のアパートで眠りに着くと、夢の中で60年代のソーホーにいた。そこで歌手を夢見る魅惑的なサンディに出会うと、身体も感覚も彼女とシンクロしていく。夢の中の体験が現実にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズは、タイムリープを繰り返していく。だがある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。その日を境に現実で謎の亡霊が現れ始め、徐々に精神を蝕まれるエロイーズ。そんな中、サンディを殺した殺人鬼が現代にも生きている可能性に気づき、エロイーズはたった一人で事件の真相を追いかけるのだが…。
果たして、殺人鬼はいったい誰なのか?そして亡霊の目的とは―!?
(ラストナイトインソーホー公式サイトSTORYより引用)

3.評価

【ストーリー】5/5
【映像】4/5
【演出】5/5
【音楽】5/5

【総合】19/20

おすすめ→1960年代の音楽やファッションに没頭したい人!主演2人が可愛い&綺麗で、60年代デザインを着こなす2人を観たい人はぜひ!あとは夢に向かって頑張りたい、頑張っている人にファンタジーではあるけど背中を押してもらえるような映画なので、目標に向かって頑張っている人にもおすすめです。
※ホラー要素や微グロ要素があるので苦手でない人。性的なシーン・トラウマシーン含みますのでご注意。

4.感想(ネタバレなし)

舞台は現代のロンドン・ソーホー地区と1960年代のソーホー地区。
まずはソーホー地区について。
イギリス・ロンドンにある地区で、20世紀には歓楽街として発展しており、今作の舞台となる1960年代には、ファッションや映画・音楽等の文化がこの町を中心に流行していった歴史を持つ地区。スウィンギング・ロンドンと総称される歴史的なカルチャーを流行らせた中心地で、今作のようにデザインや歌を仕事にする人々やそれらを楽しむ人々がたくさん集まった過去を持つ。急速に発展した地区でもあり、街の中心は輝かしい歓楽街、一本脇道にそれると売春宿などがたくさんあった地区でもあったとの記録がある。
そんなソーホー地区で現代と60年代とを行き来しながら、そしてシンクロしながら進んでいく物語に観客も翻弄される。

はじめは正直芋くさいような田舎から街へと繰り出した、トーマシン・マッケンジー演じるエロイーズが、60年代に住むサンディにシンクロし、段々と垢抜け、自信を持ち輝いていく過程には、わくわくする感情の高ぶりを抑えきれない。ファッション・髪型・メイクなどとても可愛く魅力的で、明日からの自分も真似したくなってしまう気持ちになる。

そして物語が不穏な雰囲気へと変貌した時、エドガー・ライト監督の手腕に唸ってしまう…。
音楽・音響に対するこだわりを感じ、60年代の音楽がベースに映像とシンクロしてく気持ちよさがありながら、俳優の演じるセリフまでも音響に含めて表現していく、ある意味の気持ち悪さがこの作品をより魅力的にしていく。
これは映画館で観てよかった!と強く感じられた。

今作はタイムリープ・サイコ・ホラーとして売っているところもあり、ひたひたと迫ってくるような恐怖や亡霊のびっくり要素はもちろんあり。でもそれよりも、身体にまとわりつくような気持ち悪さの連続があり、その表現の方が気持ち悪い&ホラーに感じた。
この点について、配信で視聴した時は観客が気持ち悪いと感じた時点で一時停止することができるけれど、映画館という空間で一時停止が効かない状態でみることによって、より強く・深く実感する。映画館で観ることに意味があると強く感じた。
(配信などで観る場合は一時停止せず最後まで見ることをおすすめします)

サスペンスホラーでありながらも、最後にはすべての伏線を回収して綺麗に終わるためかなりスッキリ。そしてエロイーズの成長を感じ、ひたむきに夢を追い努力することの大切さを実感でき、観た人の背中を押してくれる作品になっていた。

アパートの大家さん役のダイアナ・リグは今作を撮り終えた後に亡くなっています。ダイアナ・リグの思い出とともに。

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5.感想・考察(ネタバレあり)

冒頭の田舎に住んでいるエロイーズの部屋のポスターがすでに1960年代をリスペクトした内容になっているところから細部へのこだわりも感じるし、
エロイーズのはじめのシーンが雑誌の切り込みで作ったオードリーヘップバーンのティファニーで朝食をのドレスというのもものすごくいい…!それだけエロイーズが1960年代にあこがれを持っていることが一目でわかること、デザインが好きなことが観客にすぐ理解できるようになっている。

ロンドンへ行くとき、エロイーズの祖母は「ロンドンは怖い街。飲み込まれてはいけない。」と繰り返しエロイーズに注意していたことを思い出しながら、タクシーの男性運転手にさえも怯えながらロンドン生活を始めるエロイーズの姿に微笑ましく、自然とエロイーズを応援したくなるような感情になる。

デザイン学校に入学したものの、寮の相部屋の子はギラギラのブランドで全身を固めた、マウント女子。いるよね…こういう子…。私の方が辛かったアピール、私の方が注目を集めるべき存在アピール。

そうして孤独になってしまうエロイーズを支えるのは、新居のアパートの夢でであう1960年代に歌手の夢を追うサンディと、現代で陰で支えてくれるジョン。

現実の出来事が夢に反映されることがあっても逆はなかなかないはずの常識の中で、エロイーズはサンディに憧れ、サンディのファッションや髪型・メイクを参考にし現実へとシンクロしていく過程が違和感なくてすごい。
はじめに夢でサンディを見る時、現代から60年代へとタイムリープする表現も街の小道を抜けたらネオン輝く60年代っていう手法が素敵すぎる。

結局サンディは歌手になるために半強制的に売春することとなってしまうその顛末を第三者的目線でエロイーズと共に見る観客。サンディにまとわりつく男の、女を性的なものとしてしか見ていない視線が観客の身にもまとわりついて、これが気持ち悪くてしかたがない。
サンディが殺されるシーンもショッキングすぎるし、サンディに気持ちが入ってしまっていたエロイーズがショックを受けるのも納得がいく。
同じ夢を見る女性として、エロイーズはサンディのことを過去とわかりながらも応援していたんだなということがよくわかる。

そして顔のわからない亡霊たち。亡霊でありながらもサンディを性のはけ口として使った男たちなんだろうと推測がつくものの、迫りくる感覚や突然現れる描写に恐怖を感じた。(ちょっと半泣きになりました)

結末はまさかのサンディが男たちを殺していたというどんでん返しだけど、それが明らかになる亡霊の助けを求める声もあって無理やり感は一切なく、納得。屋根裏部屋に殺して隠していたサンディ。その真実をエロイーズに教えるもエロイーズの口を封じようとするサンディ。そして、その男たちに救いの手を差し伸べず、サンディがやってしまったことややりきれない気持ちに寄り添い、サンディに生きてほしいと話すエロイーズのシーンには感動。

キリスト教では死者が復活できるように、死後土葬するのが主であることに対し、罪人は復活できないよう火葬する、というような話があることを考えると、サンディを性奴隷として使っていた男たちは屋根裏部屋で亡霊となったもののアパートの火事により火葬され、自ら死を選んだサンディもアパートの火事により亡くなってしまう結末は、罪人は火によって復活できないよう葬られることも示唆していて、ものすごくきちんと作りこまれているなと考えられる。

そして私の激推しポイントはジョン!!!
ジョンがいなければエロイーズはデザイン学校で孤独だったし、ジョンのようにエロイーズの言うことを笑わず真剣に向き合ってくれる存在は、どんなに孤独で暗い世界にいたとしても希望の光となり、道しるべになるんだなと強く感じ、他者に対して自身もジョンのような存在でありたいなと、思わぬところで感じられる作品でした。

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