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時代を超えた名作映画「狩人の夜」感想&解説

め~め~。

1955年の公開当初には、興行的に失敗してしまった「狩人の夜」。

じわじわと作品が評価され、1990年になって、ようやく日本での公開がされたという、一風変わった経緯をたどる作品となっています。

英国映画協会においては、14歳までに見ておきたい50の映画のうち、トップ10にまで選ばれ、カルト的な映画として、数多くの作品に影響を与えながら、監督であるチャールズ・ロートンは、この一作品を作ったのみで亡くなってしまっています。

本記事では、そんな名作「狩人の夜」について、感想と簡単な解説をしていきたいと思います。

時代について

細かい内容については、色々なところで語られていますし、本記事をみたということは、なんらかの形で既に「狩人の夜」について知っている方だと思いますので、そのつもりであくまで簡単に書いていきます。

「狩人の夜」は、世界恐慌によって大変混乱していた時代となっています。

子供たちの為に銀行強盗をした父親が、1万ドルをもって家に帰ってきて、そのお金を隠します。

息子であるジョンと、娘のパールは、お金の隠し場所を絶対に言ってはいけないと約束させられ、父親はそのまま刑務所で亡くなります。

刑務所でお金の存在を知った偽伝道師であるハリー・パウエルは、お金を奪うために、子供たちやその親、村の人たちに取り入ろうとしていく、というのが前半の話となっています。

本作品のテーマ的なものは、冒頭はじまってすぐに語られておりまして、

「心の清きものは幸いなり。人を裁くな。裁かれぬためである。偽預言者に注意せよ。羊の姿をしていても、中身は強欲なオオカミなり。行いを見ればわかる」

と語られ、そのあとすぐに、ロバート・ミッチャム演じるハリーの素性が示されます。

悪魔のような男

女性の死体をあとにするハリー。

ハリーは、神様に向かって独り言を言います。

自分が何人殺したか覚えていないこと、伝道する自分にお金をくれること。

これだけで、ハリーという男が、いわゆる、悪魔のような存在であることがわかるのです。

この手の悪魔のような人物というのでわかりやすいのは、コーエン兄弟による「ノーカントリー」におけるアントンなんかは、悪魔というより死神そのもののような理不尽な死の象徴として描かれます。

現実世界においては、いわゆるサイコパス的な人物といっていいかもしれません。

子供たちは強い

さて、そんな悪魔のような人物の脅威にさらされるのが、ジョンと妹のパールです。

ハリーは、偽の伝道師と称するだけあって口がうまく、ジョンが住んでいるウエストバージニア州のとある町に住む住人たちは、あっという間にハリーのことを気に入ってしまいます。

シェリー・ウィンタース演じる母親も、あっという間にハリーの虜になってしまい、キリスト教なのか何なのかわからない怪しい宗教にのめり込んでしまいます。

「ママはお前より私を信じる」

ハリーはそう言って、お金の場所を教えないジョンに言うと、去っていきます。

ジョンは、幼い妹パールを守ることができるのか

ちなみに、妹は幼いこともあってか、あっという間にハリーのことを気にいってしまいます。

そのため、ジョンがお金の隠し場所を言わないようにしているにも関わらず、簡単に口を割りそうになってしまうのです。

特に、隠していたはずのお金を、ハサミで切って遊んでしまったりしていまして、妹の幼さと、危うさが、映画内の緊張感を一層高めているあたりの演出は素晴らしいです。

映像的な美しさ

「狩人の夜」は、その内容もさることながら、映像的な美しさが特徴的です。

ハリーが現れる際に、やたらと影が多様されており、白黒の陰影がうまく使われています。

特に、物語の中盤以降の、兄妹がボートに乗って川を下っていくシーンなんかは、色々なところでその美しさが言及されているところでしょう。

聖書的な道徳観を下敷きにしつつ、童話の世界のような寓話性が描き出された稀有な作品となっています。

馬に乗ってハリーが追いかけてくるシーンの美しさと、恐ろしさは、ホラー映画とは異なる恐怖を味合うことができること間違いありません。

また、ジョンの母親であるウィラが、水中で車に縛り付けられた状態で映し出されます。

湖の中の草か何かと一緒にゆれている彼女の髪と、静けさの中にみえる美しさは、それが遺体であることも忘れさせる静謐さ覚えることでしょう。

まるで、絵画における「オフィーリア」を思い出す光景です。

白黒映画であることも忘れる映像表現の面白さは、「狩人の夜」をカルト映画たらしめた要因でもあり、一見の価値があるところです。

リリアン・ギッシュ

さて、本作品においては、ロバート・ミッチェル演じるハリーと、もう一人重要な人物がいます。

それは、リリアン・ギッシュ演じるレイチェル・クーパーです。

リリアン・ギッシュの名前を聞いてピンとこない方も、D・W・グリフィス監督「國民の創生」や「トレランス」に出演していた女優といえば、そのすごさがわかるのではないでしょうか。

映画の教科書にのるような作品が「國民の創生」であり、その後に良くも悪くも影響を与えてしまった作品でもあります。

このあたりについては、別記事の「ブラッククランズマン」をみていただきたいと思います。

リリアン・ギッシュは、99歳で亡くなるまでの間に、数多くの作品に出演してきた人物でもありました。

そんな彼女が、孤児になってしまった子供たちを育てる女性として、登場してからは物語の方向が変わります。

それまで、ジョンとパールは、映画の文法において重要な、画面に右側に逃げてきていましたが、レイチェルに木の枝で、左側へと追い立てられていきます。

ジョンとパールを狙ってくるハリーを、ライフルをもって見張るレイチェルですが、そのシーンで印象的なのが聖歌です。

主の御手に頼る日は

外で、突然歌いだすハリー。

そして、ハリーと一緒に急に歌いだすレイチェル

2人が唱和するのは、聖歌503番「主の御手に頼る日は」というものなのですが、これは、二人が結局、まるっきり違う立場にいて、対立しているようにみえて、同じものを信仰しているということを表しています。

悪魔のような人物であるハリーもまた、神を信じているのです。

偽伝道師ではありますが、やはり、神への愛は本物だったりするから恐ろしいところです。

一方で、レイチェルもまた、神への愛をもっている人物です。

神への信仰への表(LOVE)と裏(HATE)が描かれている、凄まじい場面が、この歌の唱和によって表現されている、驚きの場面となっています。

ラブとヘイトとその影響

話は脱線しますが、「狩人の夜」が、一般的な認知度がなかったにしても、カルト的な人気によって、多くの作家に影響を与えています。

ハリーが手に書いている、LOVEとHATEという言葉。

これは、スパイク・リー監督「ドゥ・ザ・ライト・シング」において、同じ言葉で作られたメリケンサックがでてきたりしますし、先ほど軽く「ノーカントリー」でも紹介した、マーティン・スコセッシ監督も影響を受けています。

映画の楽しみ方というのは色々ありますが、古い映画をみることで、実は、自分の好きな作品の源流に触れることできることも映画の魅力だったりするのは、あえて書いておきたいと思います。

大衆の恐ろしさ

「ドゥ・ザ・ライト・シング」においても、せっかく、よくしてくれていたイタリアレストランのご主人がいたのですが、そのご主人の店は、むちゃくちゃに破壊されてしまうわけですが、「狩人の夜」においても、大衆の恐ろしさを表しています。

散々、ハリーのことを気に入っていたはずのスプーン夫妻が豹変します。

「処刑よ、縛り首だわ!」
「妻が25人! 一人残らず殺した。許せない!」

そして、ほかの住民たちも、レストランを破壊しつつ、手に武器を持ってハリーのもとへと行くのです。

暴徒と化した住人を後目に、ジョン達は歩いていきます。

処刑を嫌がっていたはずの刑務官も、自分の仕事に「喜んで」と答える始末であり、人間の脆さと狂気がわかります。

本作品が公開当時に興行的に成功しなかったのも、わからなくはありません。

神を信じるものの二面性を描き、且つ、大衆の愚かさを浮き彫りにさせた傑作ではありますが、既に、保守的な考え方そのものに対してカウンターが行われ、「理由なき反抗」等が公開されていた時代に見たとしても、受け入れがたいのは想像できるところです。


白黒だからといって敬遠していたのですが、現代において見返すと、あまりに普遍的な内容であったことに気づかされて驚きます。

勿論、ハリーという連続殺人鬼がしていることは悪そのものですが、例えば、クリストファー・ノーラン監督「バットマン ダークナイト」におけるジョーカーという純粋悪のようなキャラクターもまた、別の魅力があるように、「狩人の夜」におけるハリー・パウエルというキャラクターもまた、その悪であるが故の魅力があるキャラクターとなっています。

作中のルビーという女の子が「彼を愛している」といっていますが、不良系が好きな彼女からすれば、イケオジで悪いハリーは最高にストライクだったのかもしれません。

ちなみに、ハリー・パウエルは、アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100の中にもランクインしていたりします。

時代を超えてなお魅力が再発見される作品が「狩人の夜」となっておりますので、機会があれば、ぜひ見返してもらいたいと思います。

以上、時代を超えた名作映画「狩人の夜」感想&解説でした!


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