見出し画像

職場は戦場。サム・ペキンパー「戦争のはらわた」解説&感想

め~め~。

戦争映画の金字塔として知られているサム・ペキンパー監督「戦争のはらわた」ですが、そのタイトルが強烈すぎて、ついつい、関係ないにも関わらず、「死霊のはらわた」を思い出して、ホラー映画か何かかと思ってしまう人もいるかもしれません。

本作品は、「わらの犬」「ワイルドバンチ」などで、圧倒的な暴力描写によってその後の映画シーンをかえたサム・ペキンパー監督ということもあって、戦争において行われる人間の浅ましさを笑ったものとなっており、時代を問わず楽しめる作品となっています。

多少内臓が飛び出たりしますが、グロテスクな表現は、わりと控え目ですのでご安心ください。

それは、感想と解説がてら述べていきたいと思います。

蝶々

物語の冒頭では、戦争の様子やヒトラーの写真と共に、童謡でお馴染みの「蝶々」が流れ出します。

学校で習ったり聞いたりしたことが大半だろうこの曲ですが、原曲は、ドイツの「幼いハンス」となっており、日本でよく聞く「蝶々」は、歌詞を替えたものになっています。

幼いハンス少年が、旅をして成長し、生まれた町に戻ってきたら、母親だけが自分に気づいてくれた、という歌です。

それが、作品の冒頭と最後でかかるわけですが、その痛烈な皮肉と、まじりあわないその曲のギャップが物語を盛り上げてくれます。

歴戦の下っ端

「戦争のはらわた」という作品は、サム・ペキンパー監督の代表作の一つでもありますから、その当時の製作状況がいかに困難だったか、監督の置かれていた立場もまた戦場であったということも含めて面白いエピソードがありますが、本記事においては、1970年に公開された本作品を現代で見たときに、どんな風に感じるか、という点に寄せて考えてみたいと思います。

主人公であるシュタイナー伍長(後に、昇進)は、現場での戦いが長い人物です。

シュトランスキーという男が西部戦線から赴任してくるのですが、彼は、砲弾の音にいちいち驚き、まわりをきょろきょろしながら歩きます。

現場に慣れていないのが一目瞭然です。

そんな何もわからないが名誉欲だけはある上官シュトランスキーと、現場でたたきあげられたシュタイナーがうまくいくはずもありません。

現代で言えば、無能な上司と、現場でバリバリ働いているけど、上司受けが悪いせいでいつまでも出世しない下っ端社員みたいなものでしょうか。

とはいえ、仲間からの信頼は異常に厚く、戦場で多くの仲間たちを助けたことから、上官からもあの男は特別だ、といわれるぐらいです。

シュタイナーという男は、「全ての将校が嫌いだ」といっています。
とはいえ、反逆者であるかといわれると、勿論そうではありません。

無能な指揮官が嫌いであり、戦争そのものが好きというわけでもないのです。

戦闘によってダメージを受けて、幻覚やフラッシュバックに悩まされたシュタイナーでしたが、恋人となった看護婦が止めるのもきかずに戦場に行ってしまいます。

普通だったら、自分のことを思ってくれる恋人ができたんだから戦場なんか行くなと思うところですが、同じく戦場で負傷していた仲間をみつけると、うれしくなって一緒に戦場に戻ってしまうのです。

戦場は職場。

「戦争のはらわた」は、たしかに戦争の物語ですが戦争を職場と言い換えれば、理解できない世界ではなくなります。

会社においても上司についての愚痴や何かは言っていても、食べるためには仕事をしなければなりませんし、そこで一緒に働く職場のメンバーは、頼もしい仲間であり友人でもあります。

仕事か、家族か、といわれれば、昭和のサラリーマンは、家庭をないがしろにしてでも戦場(職場)へと赴くことでしょう。

シュタイナーもまた、上司への怒りや何かはありますが、小隊の仲間たちとは、ものすごく楽しそうに話をします。ですが、上官に対しては実にそっけない男です。

それが上官の不興を買ってしまうこととなり、戦場にシュタイナーの小隊だけが残されてしまう、という悲劇を招くことにもなってしまうあたり、組織において上官(上司)に嫌われるというのが、どういうことかを暗に示しているところです。

鉄の十字勲章

ところで、「戦争のはらわた」は、日本における題名ですが、実際は、「cross of iron」という原題となっています。

作中でも度々でてくる、鉄十字勲章と呼ばれる勲章を指しており、仲間を助けたり武勲をあげたものに対して送られるものとなっています。

ただ、これは仲間のために戦った結果としてついてくるものであり、勲章欲しさに戦うものではないことは、説明するまでもないでしょう。

西部戦線から赴任してきたシュトランスキー大尉は、プロイセンの貴族出身であり、貴族社会で箔をつけるためには、鉄十字賞がどうしても必要だということもあって、かなり激しい戦線である、東部戦線へとあえて赴任してきたのです。

そのため、ソ連軍の奇襲の最中、指揮官であるはずシュトランスキーは通信機の前から動けずにおり、戦線が崩壊しかけるのですが、マイヤー中尉(少尉)のおかげで、なんとか持ち直します。

しかし、その後、シュバルスキー大尉は、自分が指揮をとったおかげで戦線を持ち直したということにして、鉄十字章をもらおうと部下に偽証させようとするのです。

「あなたは、鉄十字章の名誉には、値しない」

シュタイナー自身は、鉄十字章についてなんとも思っていません。単なるバッチに過ぎないと思っているのです。

鉄十字賞を欲しがる理由が、シュタイナーの納得できるものであれば協力したかもしれませんが、自分の保身の為に、他人からの推薦が欲しいとなれば、いくら名誉とかに興味がないシュタイナーでも、そんなものに同意はできないとつっぱねるしかないでしょう。

主人公はドイツ軍兵士

さて、現代の職場でもそうでしょうが、必ずも会社に所属しているからといって、会社に忠誠を誓っていたり、思想も同じとは限りません。

「戦争のはらわた」においては、ドイツ兵を主人公にする、ということについても画期的な試みであったことは記しておきたいところです。

なぜそれが画期的かといえば、ナチスドイツが第二次世界大戦においてもたらした影響によって、歴史的な事実や世間的な評判にしても、悪そのものとして語られる為です。

最近でこそ「帰ってきたヒットラー」のような、コメディ映画がつくられたりしていますが、ナチスの取り扱いというのは非常にデリケートなものとなっているところです。

主人公といえば、だいたいが、いわゆる勝者である連合軍側を描くものですが、ドイツの現場の兵隊を描き、且つ、ナチスの信奉者でもない、というところは面白い点です。

「お前の心情や信念はどうでもいい。お前の義務はここに。その責任を果たさなければ、銃剣をケツに突っ込む。いいな」

と、嫌悪感をあらわにするところもあり、全ての人間がナチスに傾倒していたわけではない、ということもはっきり劇中で示されています。

あくまで、戦争というのは、子供みたいな奴らが起こしたしょうもない出来事だ、ということを揶揄しているようにもみえるところが、本作の皮肉のきいたところです。

シュタイナーは笑う

冒頭で、童謡「蝶々」こと、「幼いハンス(原曲)」が流れるということを書きましたが、物語の最後でも流れます。

「これが、プロイセン貴族の戦い方だ!」

と、上官(大尉)にも関わらず、下士官であるシュタイナーに付き添って、戦場を走るシュトランスキーは、彼からすれば、少年兵と変わりません。

「俺が、鉄十字勲章の取り方を教えてやる!!」
もうやけなのか、シュタイナーは、彼を小隊の部下といいはります。もう、この時点でどうかしているとしか思えませんが、大尉は、やる気をだしてしまいます。

弾の装填すら満足にできないで大尉になった人をみて、暗い笑いがとまらなくなるのも、仕方のないことでしょう。

見てみると気づくのですが、シュタイナーとその部下以外は、若い人が多いです。

特に将校については、大佐はやたらに老齢なのに、それ以外は比較的若い。

前線で長く生きるということは、それだけですごいことなのですが、シュタイナーが白髪の初老に近づいているにも関わらず、幼いハンスのような将校たちは戦争を続け、しかも、それが負け戦だというのですから、笑うしかありません。

オススメ作品

さて、第二次世界大戦前後を描いた作品のみならず、戦争映画というのは枚挙にいとまがありません。

抑えておきたい映画といえば、いかに、兵士というのが消耗品として使われるのかを描いた「西部戦線異常なし」も見逃せないところです。

もし、戦争映画について別のアプローチで興味をもちたいというのであれば、「幼女戦記」は面白いところです。

タイトルで損をしていますが、我々が生きている歴史と似ているけれど、魔法が存在する世界での、ドイツに相当するライヒ帝国に転生した主人公の活躍と苦難を描いた物語となっています。

古今東西の戦いが参考にされたりしており、第二次世界大戦における世界情勢の流れを汲みながら行われているので、現実の戦争を理解する際にも役立ちます

「戦争のはらわた」は、現代と比べるとはるかに低予算でつくられた映画ではありますが、1970年代につくられたとは思えない迫力があり、戦争映画の金字塔として紹介されるだけのことはある作品となっています。

以上、職場は戦場。サム・ペキンパー「戦争のはらわた」解説&感想でした!


この記事が参加している募集

#映画感想文

67,494件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?