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映画感想文「TAR/ター」 とにかく揺さぶられた

映画館で現在公開中の「TAR/ター」を鑑賞しました。
感想を書いてみようと思います。

※ネタバレありです。これから観に行くよって方はお気をつけくださいませ。

2022年 アメリカ
監督 トッド・フィールド

ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。

映画.comより

はい、公式サイトにより詳しいあらすじが掲載されているのですが、詳し過ぎて映画を観ていないのに観たような気になってしまうので、これぐらいの分量がいいかも。
公式サイトのあらすじから受ける印象と映画を観た後の印象はちょっと違うかな。

ケイト・ブランシェットさん演じるリディア・ターという女性オーケストラ指揮者の話なのですが、まあ簡単に言っちゃうと、この人は才能はあるのだけど、パワハラ・セクハラの人なのです。
で、ターさんは告発され、どんどん追い詰められていく。
そして最後には苦労して上り詰めたベルリンフィルの指揮者から降ろされる。

というのがお話の肝なのだけど、なんていうんだろう、それはあくまでも「ストーリー」としての肝であって、映画の肝じゃない気がします。

じゃあ「映画の肝はなんやねん?」というと、観客にいちいち判断を迫ってくるところだと思う。「あなたはターの行為をどう思いますか?」って感じで、じりじりじわじわくる。
なので観終わった後、決してスカッとする映画ではありません。
才能にかこつけて好き勝手した女性が成敗されて終わり、っていう作品ではないと思います。

先ほどターはパワハラ・セクハラの人だと書きましたが、この映画の中ではっきりハラスメントを描いているわけではないんです。
ターと関係があった若い指揮者が自殺してその両親がターを告発するのだけど、ターとその指揮者の間に具体的に何があったかは描かれない。
他の描写からターならこんなこと(最初は好意をもって近づいたけど、他に好きな人ができたら関係を切る。もしくは自分の言葉に従わないと関係を切るとか)したんだろうなと匂わせるぐらい。

これって、ネットニュースの芸能人のパワハラ・セクハラニュースと似てますよね。
自分はその場にいたわけじゃないけど、まあそういう記事が出てるのだから、とか、「火のないところに煙は立たぬ」だしな、って感じ。
でも直接見たわけじゃないから実際どの程度のものかよく分からない。
(ハラスメントを容認しているわけではありません)
しかも相手がある程度見返りを得ている場合もあって、こうなってくると一方的な加害・被害の関係なのかってことにもなってくる。

そういう人間関係の微妙なところをいや~な感じで突いてくる映画です。
観客に「本当にハラスメントだと思いますか?」って。
その象徴的なシーンが、ターがある講義で学生から「バッハは生涯で複数の女性にたくさんの子どもを産ませたひどい奴だから評価しない」といわれるのだけど、ターは目の前でピアノでバッハの曲を弾き、「この美しい旋律とその背景って関係ありますか?そんなことより、もっとこのメロディーを感じなさい」てなことを言う。

正直に言うと、自分も確かにバッハの旋律にうっとりしてたんだよなあ。
でも現代の文脈でいうと、「(そんな人間性の)バッハの音楽はどうなの?」ってことにもなる。
他のクラシックの作曲家だって問題のある人はたくさんいただろうから、じゃあクラシック愛好家はどうなの?ってことにもなる。
そんな感じで、観ている人に揺さぶりをかけてくるのです。ふう~。

映画のラストも、ベルリンフィルを追われたターは東南アジアの国でゲーム音楽のコンサート指揮をとる。
そのお客はみんなしっかりコスプレをしていて、コンサートが始まるのをいまかいまかと目を輝かせて楽しみにしている。
それをどう受け止めるか?

クラシック本場の有名楽団から転落したターを「身から出たさびだ。ざまあ見ろ」と思うのか?
それともクラシック音楽とゲーム音楽に優劣はなくて、お客さんから熱心に求められる音楽に携われるのだから、指揮者として幸せなのか?
どう思うかはほんとに人それぞれだと思うけど、自分は後者寄りの感想を持ちました。
(公式サイトでラストシーンに対するアンケートを公開しています。興味ある方はどうぞ。でもネタバレありです、ご注意を)

ターがVHSでモノクロのオーケストラの演奏を観て涙ぐんでるシーンがある。
目覚まし時計の演奏を「これは誰誰の指揮だ」って指摘するシーンもある。
そこで「ああ、この人はほんとに音楽が好きだし、努力もしてきたんだな」っていうのは分かる。うるっときそうになる。
でもその一方で「じゃあ努力していて、音楽好きなら何やってもいいんですか?」「自殺に追い込まれた人の気持ち、子どもが自殺した両親の気持ちはどうなるのですか?」ってまた揺さぶられる。ぬう。。。

もしかしたら、現代社会は細いロープの上を綱渡りしているようなものかもしれない。
誰しもがターになる可能性があるよなあ。
とにかく揺さぶられっぱなしの2時間38分でした。。。

話は全然変わるけど、「ケイト・ブランシェット」ってなんか優雅な響き。
「エディ・レッドメイン」も優雅に感じません?

総合評価 ☆☆☆

☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆  →まあまあ。
☆☆   →う~ん、ちょっと。。。
☆    →ガーン!

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