映画感想文「ハケンアニメ!」 ネガよりポジ
配信で「ハケンアニメ!」を鑑賞しました。
感想を書いてみようと思います。
ネガ
まずネガティブなことを書きます。
アニメーション業界を描いた作品ですが、今現在の状況とはズレを感じました。
物語の軸である、2つのTVアニメーションの視聴率を競う、というのがピンとこない。
TVを見る人は減ってるし、さらにリアルタイムで見ることに血眼になる人はもっと減ってると思う。
「視聴率を競う」って、なんだかなあ。
また天才肌の監督と努力型の新人監督の対決なのですが、これもなんだかなあ。
天才だろうが努力の人だろうが、それはその監督の持ち味なのだから、対決させるんじゃなくて、各監督が持ち味を最大限発揮できるようにするのが本当の創作現場だと思う。
それで傑作が2本作られれば視聴者にとってこんないいことはないのだから。
あと新人監督が声優にダメ出しをする時に「違います」を連発するのだけど、この描写はもう時代錯誤も甚だしい。
劇中では声優の力不足を表現する意図があったと思うのだけど、監督なら自分の望む方向にもっていくように言葉を重ねるべき。
これは声優の力不足ではなく、監督の演出力不足では。
監督がどんな言葉をチョイスするかも演出力だと思うので、否定するだけでは何も生まれないと思う。
相手も委縮するだろうし。
加えて、新人監督の方のプロデューサーが監督をプロモーションに連れまわすのだけど、「売れないと二度とアニメ作れなくなりますよ」的なことを言います。
これって、もう脅しでは?
そんなこといちいち言われなくても本人が一番分かってますよね。
もういっこ。
天才監督が急遽コンテを書き直すと言い出して追加の作業が必要になり、プロデューサーが制作スタジオに頭を下げて協力(仕事)をお願いしたり、おにぎりを握って労をねぎらうのだけど、ほんとにそれでいいのだろうか、と思ってしまいました。
日本的な労働慣行なのかもしれないけど、「そういうの、もうやめませんか?」と。
ひとりひとりの貴重な時間(ダラダラするのも貴重です)を、お辞儀やおにぎりでチャラにできちゃうのがよく分からない。
原作(未読)が2014年刊行なのでタイムラグがあるし、原作を尊重した結果なのかもしれません。
でも自分はいろいろ引っ掛かりを覚えました。
ポジ
と、ここまで辛辣なことを書いてきましたが、自分がネガで言ったようなことって、もちろん世界で初めて自分が気づいたことではありません。
みなさん、とっくに気づいてますよね。
でも、それがなかなか現場レベルで改善されない。
本当はそこが問題なのですが、じゃあ現在進行形で過酷な現場で頑張ってる方の足を引っ張りたいかというと、そうじゃない。
この作品はアニメーション業界を描いてるものですが、全ての業界に通じるものを描いています。
当然、吉野監督の映画業界愛も感じました。
過酷な労働環境で頑張ってる目の前のスタッフの気持ちに応えたい、っていう誠実な思いが伝わってきました。
映画の現場だって、監督の他にいろんなスタッフがいて、監督の世界を実現させるために身を粉にして働いている。
なんなら現場には一度も顔を出さないけど、持ち場で一生懸命仕事をしている人もいる。
そもそも、映画制作陣も時代錯誤的なものには気づいていると思います。
じゃあこの作品を映像化する際にどういう形がいいのかと考えた時に、ネガのような視点を入れるべきかいなか。
今回はあえて「一歩引いた視点」を入れないことで、作品の完結性が高まり、強度が上がってる。
そこがこの作品の良点である熱量の基盤になってると思います。
ツッコミ(ネガティブ)どころも多いけど、現場で働いている方たちへの賛歌(ポジティブ)が上回っていました。
あ、話は全然違うけど、新人監督を演じる吉岡里帆さんが大きい眼鏡をかけてるところが好きです。
大きい眼鏡の人って、なんか好きなのです。
最後に
自分は映画業界とは関係ない人間だけど、業界の労働環境が良くなればと願っております。
批評性だけで感想文を書いてるわけじゃない。
応援する気持ちだってちゃんとあるぜよ。
というわけで、吉野監督の次作が楽しみです!
総合評価 ☆☆☆
☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆ →まあまあ。
☆☆ →う~ん、ちょっと。。。
☆ →ガーン!
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