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【いいところを語る映画評】「ベイビー・ブローカー」 命の祝福、是枝流エンタメです

現在公開中の「ベイビー・ブローカー」を映画館で鑑賞しました。
で、ネタバレしない程度(公開中ですしね)に感想を書いてみようと思います。

※画像は映画館にあった看板パネルです。

はじめに

まずは簡単な情報です。
監督・脚本・編集 是枝裕和
韓国
出演 ソン・ガンホ(カンヌの男優賞受賞。おめでとうございます!)
   ぺ・ドゥナ(「グエムル」とか「空気人形」とか)
   カン・ドンウォン(かっこよかった)
   イ・ジウン(別名IUさん。シンガーソングライター)
   イ・ジュヨン など

あらすじとしては、
サンヒョン(ソン・ガンホ)は小さいクリーニング店の店主。借金に追われています。
そんなサンヒョンの裏稼業はベイビー・ブローカー。
赤ちゃんポストがある教会施設で働くドンス(カン・ドンウォン)と一緒に、子を望む夫婦に赤ちゃんを「売って」います。
ある時、赤ちゃんを置き去りにした母親・ソヨン(イ・ジウン)が思い直して戻ってきます。
赤ちゃんがいないことを不審に思ったソヨンは通報しようとしますが、2人は慌ててそれを止め、報酬を分ける約束でソヨンを説得します。
そして、3人は養父母をさがす旅に出る。
一方、そんな3人をつかまえるために刑事2人(ぺ・ドゥナとイ・ジュヨン)は尾行を続ける‥‥


身構えなくて大丈夫

ここからは観た感想を書いていこうと思います。

まずはじめに言っておきたいことは、見出しにもありますが、身構えなくて大丈夫。エンタメです。

自分は是枝監督の作品だし、赤ちゃんポストの話だし、ちょっと重い話なんだろうなと身構えて席に着いてしまいました。
これがよくなかったですね。反省。

実際映画は重いタッチで始まりますし、他の観客も自分と一緒というか、身構えてる感じがスクリーン内にありました。

ただ物語が進んでいくにつれて、どんどん明るい方に転調していくんですね。
それに伴い、スクリーン内の雰囲気もやわらかいものに変わっていきました。
ああ、笑ってもいい話なんだと。自分も同じでした。

もちろん「赤ちゃんの売買」という重たいテーマを扱っていますが、この映画でそのテーマを追求(追及?でも誰の責任も問うていません)しているかといわれれば、違うかなという気がします。

話しの発端ではあるけど、それよりも「命の祝福」に力点が置かれてると思います。
それを監督の作風に合わせてエンタメとして昇華している、といった感じですかね。

フルーツで例えるなら、全然酸っぱくなくて、甘いです。
スーパーの果物売り場で、頬に手をあてて迷われてる方がいたら、「甘いですよ」と教えてあげたい。

まあ脚本的には突っ込みどころは多くあるし、あえて描いていない背景もあるんじゃないかと感じましたが、観終わった後に嫌な気持ちにはなりません。



ロードムービー、時間軸があいまいに

あと、忘れてはいけないのは、この映画が「ロードムービー」ということ。

この作品の大きなポイントとして、「登場人物たちの気持ちの変化」というものがあります。
しかも作り手からすると、観客が登場人物たちに感情移入して、一緒に気持ちを変化させていってほしい。
そういう作り手の思いに即して、「ロードムービー」という設定がとても効果的だと思いました。

旅って、不思議ですよね。
行ったことのない土地で新しいことをしているのに、ふっと過去のこと思い出したり。妙に今までの自分のことを考えて内省的になったり。

旅の効能として、時間軸があいまいになるってとこがありますよね。
どこか目的地に向かって進んでるんだけど、それが本当に「前」に向かっているのかはよく分からない。
それは「横」かもしれないし、もしかしたら「後ろ」かもしれない。

この映画の登場人物たちもおんぼろバンに乗って旅を続けるのですが、最初はいい条件(つまり高値)で赤ちゃんを売ることばかり考えていたのですが、少しずつ気持ちが変化していきます。
また旅の過程で、登場人物たちの過去や境遇が描かれます。

時間軸が少しずつ少しずつあいまいになっていきます。
「これが絶対正しい」と決めつけていたものが、少しずつとろけていきます。
そして、以前と違った感情が浮かび上がってきます。

旅って、日常生活の雑事から解放されているから、思考が澄んでいくというか。
だから、本質をパッとつかまえることができる。

生まれてくる赤ちゃん、そしてかつてその赤ちゃんであった大人たち、すべての人が祝福されて生を受けているんだよ。

是枝監督の優しい眼差しを感じました。



最後に

今回は是枝監督が韓国に行って韓国の俳優たちと映画を作りましたが、もっともっと交流が進めばいいと思いました。
韓国の監督が日本で撮っても面白いだろうし、もちろん俳優・スタッフが混ざってもいいし。
それが映画界をより豊かなものにしていく気がしました。

韓国の俳優さんはみなさん魅力的ですよね。

総合評価 ☆☆☆

☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆  →まあまあ。
☆☆   →う~ん、ちょっと。。。
☆    →ガーン!

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