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郡山にはなぜシネコンがない? 独特な歴史的かつ経済的背景を考察

福島県内の経済は、郡山市を中心に発展してきた。

仙台に次いで東北で2番目の経済規模を持ち、経済的かつ地理的に中心都市でありながら、県庁を持たないその独特な歴史を持つ「郡山市」には今日まで続く不便が多数存在する。

その一つに郡山市内には「シネコン」が存在しないことが挙げられる。

その理由には、郡山市ならではの深い歴史的な経緯が存在する。「シネコン」の建設は、映画業界だけでは不可能で、他に大手デベロッパー、行政、地域住民の声が大きく関与してようやく完成する。

現に、郡山市にはシネコンはまだ存在していない。しかし、今後シネコンが誕生する可能性がない訳ではなく、その可能性も合わせて考察していきたい。

郡山市の独特な歴史

前述したとおり、郡山市の歴史は独特である。

福島県のほぼ中心にありながら、県庁を持たないことで、常に民間企業が主体となって経済都市と呼ばれるまでに発展してきた。

郡山の映画の歴史は、昭和に急激に発展し駅前や堂前などに映画館が複数館乱立。その後テレビ放送の普及に伴い、昭和末期から平成にかけて急激に衰退した。おそらくこの流れは郡山以外の都市にも言えることだろう。

なお、平成の映画館衰退期は、同時にシネコンの普及期とも言える。

郡山の場合、この平成のシネコン普及期にシネコンを持つ大型商業施設が誕生しなかったことが、現在まで続く空白の発端である。

都市計画「用途地域」の問題

シネコンを持つ商業施設を建設するには、民間デベロッパーの開発投資が必要となるが、まず都市計画で「商業地域」「近隣商業地域」「準工業地域」に指定されている区域でなければシネコン(映画館)は建設することができない。

郡山市の場合、昭和期に駅前百貨店が乱立した時代を経て、平成初期には大型商業施設の駅前撤退→郊外移転が進み、現在の状態が完成する。

郡山市にある大型ショッピングセンターは、郊外または駅周辺の工場跡地に建設されたものが多く、その多くが都市計画で「工業地域」または「準工業地域」に指定されている土地となっている。

なお、現在の郡山市内には「西部プラザ(イトーヨーカード郡山店)」、「イオンタウン郡山」、「イオン郡山フェスタ店」、「ザ・モール郡山」、「郡山駅東ショッピングセンター」などのショッピングセンターが存在するがこれらの中で唯一「近隣商業地域」に指定されているのはうねめ通り沿いに位置する「西部プラザ(イトーヨーカード郡山店)」のみで「準工業地域」に指定されているのは「ザ・モール郡山」「イオン郡山フェスタ店」の2店。

よって、現在都市計画の用途変更を実施せずにシネコンの建設が可能なショッピングセンターは「西部プラザ(イトーヨーカード郡山店)」「ザ・モール郡山」「イオン郡山フェスタ店」の3店などとなっている。

今となっては「商業施設」でも計画された時はまだ「工場またはその跡地」... 「準工業地域」に指定されていてもシネコンなどの商業施設を建設することが可能ではあるにしても、計画時と現在とのギャップは年々大きくなってきている。

そもそも都市の未来を計画するはずの都市計画が、むしろ新たな開発に対するネックとなってしまっていては本末転倒としか言いようがない状況だ。

一方で「商業地域」に指定される郡山駅前は一時的に衰退が進み、現在再開発された「うすい百貨店」や「ビッグアイ」などは行政が資金を出して建設されたもの。行政が関与しない建物の再開発は資金面で難しく、新たにシネコンを持つ大型商業施設の建設がなされることはなく、現在に至る。

商圏規模の問題

そもそも商圏規模の問題も存在する。平成初期に「イオンタウン郡山」や「ザ・モール郡山」が建設された時、郡山市の商圏規模はまだ都市計画の用途変更をしてまでシネコンをつくれるほどのものではなかったのかもしれない。なお、1998年には県庁所在地である福島市に県内初のシネコン「ワーナー・マイカル・シネマズ福島(現在のイオンシネマ福島)」が開業。シネコンは県内にひとつあれば...という段階だったとも言える。

過去の話は色々省略して、この辺で終わろう。

郡山にシネコンができる可能性

今後、郡山市内にシネコンができる可能性を考察したい。

郡山市内には現在、大規模な空き地が多数存在している。さくら通り沿いの日東紡第3工場跡地の民間主導による再開発計画。総合体育館に隣接する豊田浄水場貯水池跡地の行政主導による暫定的な駐車場化計画。そして、郡山駅東側の広大な工場「保土谷化学郡山工場」の移転・再開発の検討調査など。

もし「保土谷化学郡山工場」の移転が決まったら、この郡山でもさすがに様々な企業が何かしら動くのではないかと予想できる。その時は行政主導で整備することになる可能性もありますが、借地契約でも、区画整理事業化して分譲するでも、その土地の可能性は大きなものとなってほしい。少なくとも、JR東日本は東側に新たな駅舎を建設することとなるはず。

ただ「保土谷化学郡山工場」の移転に関しても今は望みが低い状態で、今後10年以内に郡山駅前にシネコンができる可能性は極めて低いと考えられる。

郊外に関しても同様で、今イトーヨーカドーが建物の老朽化を理由に再開発を実施するとは到底思えない状況で、ザ・モールなどに関しても同様。

今後イオンが、伊達市内の開発用地をあらかじめ行政が商業地域等に用途変更をした上で「イオンモール北福島(仮称)」を建設する計画を発表しているが、公開されたイメージ図を見る限りではシネコンも併設したそうな雰囲気を出している。だが、郡山にはそういった計画段階の話すら存在しない。

近年のシネコン

最近のシネコン建設はおおよそ型が決まっている。

例えばTOHOシネマズなら「PARCO」などの建設に合わせて、イオンシネマなら「イオンモール」の建設に合わせてなど、新たな大型商業施設の開業とともにシネコンも開業するケースが多くみられる。

平成期の仙台市内は「MOVIX仙台」と「フォーラム」系が存在するのみで2008年の「仙台PARCO」開業に続く2016年の「仙台PARCO2」開業までは、「TOHOシネマズ」が仙台にすらなかった時代が続いていた。

※「109シネマズ富谷」は富谷市、「MOVIX利府」(2020年10月末閉館)・「イオンシネマ新利府」(2021年3月開業)は利府町、「イオンシネマ名取」は名取市。

東北のビル建設事情は資金的な困難さもあり、東北唯一の政令指定都市「仙台市」でさえその開発はまだ発展途上。郡山はなおさら困難となっている。

なお、実際にこういった話もあるようだ。

「民間で大型ビルを解体して再開発する場合、採算が合うのはせいぜい仙台まで」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC233JF0T20C21A4000000/

現在、いわき市には行政が定期借地契約でイオンモールに貸し出し、開発した「イオンモールいわき小名浜」が存在する。

ここではイオンモールはあくまで開発事業協力事業者であるためか、この施設のシネコンはイオンシネマではなく地元の映画館運営事業者である「ポレポレシネマズいわき小名浜」が入居し、TOHOシネマズと番組供給などの業務提携を実施。このコロナ禍であっても福島市にあるイオンシネマ福島などと同等レベルで最新作の上映が実現されている。

結果的に遂に郡山地区はいわき地区にまでシネコンを先取りされた形となった訳である。(しかし、いわき地区にもそうしたシネコンがあることで相双から茨城県北部まで、映画を観る環境が整ったことになるため、私は大いに賛成したい。郡山地区にもこれと同様のことが考えられる。)

映画ファンの苦悩

今後もし、映画が好きで様々な話題作を映画館で見たいという人が何らかの理由で郡山に移住しようとしていると仮定した時、私はそれを全く推奨できない。

私が郡山に住んでいる限り、観たい映画を観に行こうとすると決して安くはない運賃を鉄道会社に支払って福島や仙台、場合によって東京にまで遠出することになってきたためだ。せめて電車があって良かったとすら言える。

最近は、新作公開の度にキャストや監督が登壇する舞台挨拶の生中継が全国の劇場で行われることが定番となってきている。ファンであればできれば通常の上映より中継付の上映を観たいのは当然の心理。

配給元や上映規模に関わらず、話題の新作を万全のシステムで鑑賞することができる日が、ここ郡山にもいつか訪れることを願うばかりである。

もし交通費がかからなければ、その分もう1度その作品を鑑賞することができることだろう...

(2021年9月14日一部加筆・訂正)

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