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◯『牛』(原題:Cow) @東京国際映画祭2021

監督:アンドレア・アーノルド/2021年/イギリス

ウシ映画。(準)徹底的に、「牧場で飼育される乳牛の目線」に立った映画です。

望遠で「イイカンジに」撮ることも出来ただろうに、ウシと一緒に牛舎を歩いたり、搾乳場の中の、ウシたちが入るスペースにカメラを置いたり、仔牛を移送するトラックの荷台に同乗したり。
時に「カメラマンも実はウシなんじゃ……」と思わせるほど、カメラワークがむちゃくちゃな場面もあります。敢えてGoProとか(多分)使っていないのだとは思いますが。

本篇にナレーションは一切なく、牧場スタッフたちの雑談が時節聞こえる程度。

ウシたちにタグでナンバリングしたり、ワクチン注射をしたり、焼印を押したりといったシーンにも、説明は皆無。しかしそれがかえって、「何をされているのか訳が分からない」というウシたちの心情(?)に少しだけ近づけさせてくれます。

そしておよそ90分、さんざんウシたちに感情移入させておいて、いきなり人間の理屈に立ち帰らされる。


完全なる客観アングル。傍観のショット。
そこに、ウシの視点はまったくない。
あるのは、ヒトのロジックだけ。
(もちろん、ウシの頭めがけて発砲するのだから、そもそも接写できないという事情はあるのでしょうが)

ああ、そうだった。
俺たちは人間で、彼らは家畜だった。

よく朝ごはんにヨーグルトを食べます。
そこには、あの牛舎に響く鳴き声や、立ち昇る呼気、屎尿の臭い、そして銃声が隠れている…

観て良かった。
11/7(日)に、あと一回だけ上映されます。


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