映画「家族を想うとき」を観た。「頑張れば報われる」の欺瞞。

新自由主義が持ち込まれてから、労働者を守る仕組みが崩壊した。
“個人事業主”、“フランチャイズ”という誘い文句で、労働者は「働いただけもうけは全て自分のものになる。」という幻想を植え付けられる
その挙げ句働くことをやめられなくなり、家族や健康という個人的な基礎が侵されていく。仕事は家族を守るためのものなのに、現代では家族との時間を奪っているなんてバカげている。

ケン・ローチ(第72回カンヌ国際映画祭会見)

映画「家族を想うとき」は、「わたしはダニエル・ブレイク」「麦の穂をゆらす風」などの映画で有名なケン・ローチ監督作品。

この監督は一貫して、労働者階級や移民の生活をリアルに描き現代社会を生きる厳しさを描いています。

前作「わたしはダニエルブレイク」では、心臓病で医者から働くことを止められている主人公が公の支援金を受けようとするも、複雑な手続きのため、受けられず苦闘する姿が描かれていました。

今回の「家族を想うときの」はある家族にスポットが当てられています。妻と子どもが二人いる男性が主人公です。

今まで労働者として懸命に働いてきましたが、不況のため失業。マイホームも失ったうえに借金も背負ってしまいました。
そんな中、再起を期してフランチャイズの宅配業のオーナーとして働き始めます。
しかし、その世界は自営とは名ばかりで、ノルマに縛られトイレに行く暇もなく、1日14時間週6日働くという過酷なものでした。
妻も介護士として朝から夜まで長時間働きます。
家族と食事をとることや、会話すらままなくなり、高校生の息子は学校を休みがちに。小学生の娘は寂しさをつのらせます。
仲が良く、互いを思いあっていた家族の生活が徐々にむしまばれ、追い詰められていきます。
見ていてとても辛くなりました。

日本でも宅配ドライバーや、24時間365日休むことを許されないコンビニオーナーなどの過酷な労働条件が問題になりましたね。
介護士もエッセンシャルワーカーでありながら低賃金で長時間労働です。
本来人生を豊かにしてくれるはずの労働がどんどん非人間的で耐えがたいものになり、家族を破壊するのです。

 コロナ禍になった今、宅配業者やエッセンシャルワーカーへの待遇は深刻化しています。
感染拡大してもそういった方々は休めません。
それなのに、ワクチン接種が優先されなかったり、偏見が向けられたりと、劣悪な社会環境下で働かされています。

また先日ニューヨークでは、ハリケーンの中で注文された食べ物を届ける宅配スタッフの過酷さが話題になりました。

映画の中で、警察官が高校生の子どもに諭すシーンがあります。

若い君にとってな
今後心を改めないとミジメな人生しかないぞ
君だけでなく家族もだ
だがもしこの機会をしっかりつかめば学校を出て就職に車に休暇何でもおもいのままだ
自分を誇りに思え頑張って手にしたと

とても空虚なシーンだなと思いました。
いくら頑張っても報われない社会が広がっていることを、息子は両親や街を離れてしまった友人の姿を見て知っています。

それなのに、大人は「頑張れば報われる」のような姿勢を変えず、現実に気づかない、もしくは見ようとしない。
そうして個人に負担や責任を押しつける。


正当な賃金と労働条件で「人間らしい労働を!!

執筆者、ゆこりん、ハイサイ・オ・ジサン

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