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『洗濯機借りれます?』(ショート)

「つまり、どういうことでしょうか、お隣さん」

ーーだから、私ちゃんと説明しましたよね?
途中からおかしいなって思って説明した回数、数えてましたから、
あなた40回おなじ説明聞いているんですよ?

ひび割れた時計を見る。どうやら彼女が言っていることは嘘ではない。
最初に彼女が現れてから3時間12分16秒くらい経っていた。

ーーむしろ気になってきました、なぜそんなに私の話を聞いてくれないんですか?壁は薄いぼろアパートですけど、そんなにうるさくもしてないですよね?そりゃ彼氏と一人二役でマージャンやったときは、ちょっとはしゃいじゃいましたけど、クリスマスだってヨガしてたら過ぎてたんでうるさくなかったはずです、なぜです?私の話なぜ聞いてくれないのですか?

「アンジェリーナジョリー……」

ーーえ、なんておっしゃいました?

「あの、貴方があんまりにも、アンジェリーナジョリー、つまりアンジーに似ていたもので……見惚れていました」

ーーえ、やだ、何急に、え。

「それでなんでしたっけ?」

ーーアンジーに似てるって初めて言われました、いつも、ほらミラジョボビッチ?にそっくりって言われてるから、彼氏もあたしのことミラジョボビッチって呼ぶんですよ、アンジェリーナジョリーは初めてでした、悪くないですね、トゥームレイダーですよね、アンジーって。

「ごめんなさい、嘘です、まだお酒抜けてなくて、陽気なんです、僕」

ーーは?

「洗濯機壊れたんでしたっけ?」

ーーは、しかも私の話ちゃんと入ってるじゃないですか、え、怖いんですけど普通に。意味わからない嘘つくし、お酒飲んで顔真っ赤だし、なんなんですか

「そう、怒らないでくださいよ、アンジー」

ーーちょっと気分が悪いです、アンジーって呼ばないでください。失礼ですよ」

「いえ、あなたのことではありません、飼ってる猫がアンジーって言うんですよ」

ーーえ、バカにしてますよね?私のこと。なんの恨みですか?32歳にもなってお風呂で大塚愛のさくらんぼ歌っているからですか?それとも、彼氏と一緒に壊れるまで野球盤で遊んでいるからですか?いい加減にしてくださいよ。
それで結局洗濯機貸してくれるんですか?

「いいですよ、ただし、もう捕まえたセミを僕の郵便受けに入れるのをやめてくださいね」

ーーうわ、そっちかぁ、うん、はい、注意します。


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